第50話 強制転移
「あれがこの国の第一王女か」
「可愛い方ですね」
第一王女の誕生会が開催される時刻となり主役となるルーナ・フィリッツ王女が姿を現す。緊張感の取れない面持ちで周囲をキョロキョロと見回さないように頑張って抑えている様は確かに年相応で可愛らしい。
前の世界では今日を境にいなくなってしまったのでもう顔すら覚えていなかったが将来はきっと美人さんになるのだろう。正直な話、王女の未来なんてそこまで明るくないのではないかと思わなくもないがそれでも救えるのなら救いたい。
そんな考え方をしていると嫌でも自分が騎士時代に染められたのだなと実感してしまう。前の俺なら政略結婚なんて当たり前と思っていたのに騎士団員として平民と交流を持つようになってからは自由恋愛の話しか聞いていなかった。
「アレン様、ルーナ王女は確か今日で七歳になるのですよね」
「はい、そうなります」
「歳の割に幼く見える。というより我々三人が大人びているのか」
リリーの言葉に俺とアリアは頷く。良くも悪くも、貴族だと王族だとという世界で育ったせいか俺たちは普通の子供よりも相当大人びている。
精神年齢を詐称している俺は例外としても、幼い頃から聖女として生きて来たアリアも王族としての教育を受けて来たリリーも普通の大人とだって話を合わせられるだろう。
それから本格的にパーティーが始まり、大人たちは軽食を肴に世間話と称した情報戦を繰り広げる。一方で俺たちのような年齢の子供はグループを作って談笑するか、親の命令でコネを作る為に目当ての人物を探すかの二択になっている。
だからこそ、俺たちが座って話しているこの席には視線が絶えない。
「リリー様もアリア様も俺以外の人に話し掛けなくてよろしいのですか?」
「私の目当てはアレンと話すことだったからな。別に他の連中に興味はない」
「私は基本的に他国のパーティーでは聖女という立場上自分からは話し掛けないようにしています。御二人は友人として特別なんですよ」
どうやらリリーもアリアもコネ作りには興味はないらしい。まぁ、考えてみれば聖女や王女が自分から進んで下の位置の者に話し掛ける意味はない。それに、アリア様の場合日頃の勉強やら職務から解放される為の、いわば息抜きとしての意味合いが強いように感じられる。
そんな訳でそれなりの数の視線を感じつつもそれを無視して俺たち三人は談笑を続ける。流石と言うべきか安易に自国のことは話さずに、けれど相手の持つ情報を抜き取ろうとは考えない、お互いが良好な関係を築きたいと考えるからこその線引きをした会話は思いの外楽しかった。
だが、その楽しい会話の中でも俺はルーナ王女が早足で会場を出て行こうとしている光景を見逃しはしなかった。
「すみません、少しお手洗いに行って来ます」
「そうか」
「分かりました」
そう一言断りを入れてから俺は席を立つ。この三人の中で俺は男避け的な役割も担っていたのでそこは申し訳なく思うがその分はリリーに頑張ってもらう。
下手に怪しまれる訳にも行かなかったので結局俺はルーナ王女を転移させる為の部屋を割り出すことは出来ていない。その為、この気を逃せば確実にルーナ王女は死んでしまう。
こういう時に子供らしくルーナ王女を救うことだけに尽力出来たのなら良かったのだが、冷静な俺の理性がルーナ王女を助けることと、二人に怪しまれて未来の知識がバレる最悪の未来を天秤に掛けた結果、この選択を取ることになった。
「我ながら打算的だな」
昔はもっとまっすぐな性格をしていた筈なのに今となっては全ての物事に世界の命運がついて回る。とても楽な道のりとは言えないけど、自分で選んだ選択な以上泣き言なんて言ってなれない。
『少し良いか?』
『はい、何でしょうか?竜神クロノス様』
『もし今あの娘が向かっている場所が転移魔法陣のある場所ならドラゴンレーダーは解除しておけ。万が一、其方の魔力に反応して魔法陣が起動してしまえばここからでは追い付けなくなる』
『分かりました。助言感謝します』
そう言って俺はドラゴンレーダーを解いた。俺と違って竜神クロノス様は普通に魔法も使えるとのことなのでこういう忠告は素直に聞くに限る。
それから俺はルーナ王女の後を尾行して行ったが既にトイレの場所は通り過ぎている。これから何処かの部屋に入るのか、特定の人物に接触するのか。どちらにしても今から警戒心を高めておく。
「あの部屋か」
トテトテと歩いてルーナ王女が止まったのは何の変哲もない部屋の前だった。しかし、ここに来るまでの道中で見張りの人間に一切会わなかったのは不自然過ぎる。
『転移系の魔道具や魔法陣の中には、魔力を流せば何度でも使えるものと、一度きりの使い捨てタイプが存在する。万が一を考えてあの娘が扉を開ける前に接触しておけ』
『分かりました』
竜神クロノス様からのアドバイスを受け俺は少し急足でルーナ王女の居る通路の方へと姿を現した。
「ルーナ王女」
「ひゃ!」
「少しお話を宜しいでしょうか」
いきなり話し掛けたせいでびっくりさせてしまったがそこには触れずに俺は話を伺うことにした。のだが、ルーナ王女は俺の存在を確認するといきなり慌て出して扉を開けて中に入ってしまう。
「お待ちください」
それを追うようにして俺も急いで部屋の中へと侵入する。するとそこには奇怪な魔法陣が床や壁、天井に至るまでびっしりの複数箇所に渡って描かれていた。
「あの、えっと」
『魔法陣が反応したか、転移が始まるぞ』
「アレン様!」
混乱しているルーナ様を落ち着かせようとした瞬間、俺たちは眩い光に包まれて強制転移させられてしまった。その際に後ろからアリアの声がした気がするが気のせいだと思いたい。
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