第49話 安心感
「リリー様とアレン様は最近何か面白いことなどはありましたか?」
席に座って直ぐ、アリアが俺たち二人にそんな話を振ってくる。言われて思い返してみるが面白いと言えば新技のドラゴンレーダーの性能テストくらいだ。
「私は一つ面白い発見があったぞ。と言ってもこれはアレンくらいにしか通じんだろうがな」
「全然構いませんよ。そういう話を聞いているだけでも楽しいですから」
俺の方を見てニヤリと笑うリリーとそれを見て笑みを浮かべるアリア。そんな二人を見てから俺もリリーの発見に興味があったので話を聞くことにした。
「実はな、私は少し前に竜人族の王族に代々伝わる金色の炎に目覚めたのだがその炎の制御が難しくてな」
「金色の炎ですか、私も文献でしか知りませんのでぜひ実物を見てみたいものです」
二人の会話を尻目に俺は前にリリーと戦った時のことを思い出していた。確かに発言したばかりだったこともありあの時にリリーが使っていた金色の炎はとてもではないが精密な操作が出来ているとは言えなかった。
「頑張って作り出した金色の炎を制御してみたのだがこれがなかなか上手くいかない。だが不思議なことに、アレンから教えてもらったドラゴンアーマーの練度が上がるにつれて炎の制御も自然と出来るようになってな」
「アレン様から教えてもらったですか?」
「そうだ、今もアレンが体全体に薄く魔力障壁を纏っているだろう」
「あっ、本当ですね。言われなければ気づけないほど薄いのに凄い密度です」
恐る恐ると言った様子で俺の肩に手を置くアリアのことをなるべく気にしないように心掛けながらリリーの話していた話を自分の中でも整理してみる。もしも、金色の炎が特別に魔力操作と密接な関係にあるのならそれだけの話だが、魔法全般にこの法則が当てはまるのならドラゴンアーマーの優位性は一気に上昇する。
『竜神クロノス様、今のリリーの話しは全ての魔法に当てはまるものなのですか?』
『当てはまるな。本来魔法とは魔力を他物質へと変換しそれを操るものだ。魔力によって作られた物質には使用者の魔力が宿り魔力を精密に操れると言うことはその物質を正確に操れることに繋がる。まぁ、その中でも金色の炎は特に相性が良いのだろうな』
『なるほど、ありがとうございました』
真相を教えてくれた竜神クロノス様にお礼を言ってから俺は未だに肩を突いているアリアと一緒になって反対側の手を弄っているリリーに視線を向ける。
「二人とも、こういう場ではあまり異性に触れない方が良いですよ」
「す、すみません。つい夢中になってしまって」
リリーは俺の言葉を聞いて少し頬を赤らめながら手を膝を上にスッと戻したが一方のリリーは未だに俺の腕から手を離す気配がない。
「リリー様?」
そんなリリーのようにアリアも疑問を抱いたのか首を傾げているが次のリリーの言葉でこの場の雰囲気が一気に変わった。
「何と言うか、アレンの側に居ると妙な安心感を覚えるな。心が安らぐと言うか、変な感覚だ」
「あっ、それなら私も感じました。アレン様の近くは凄く安心出来るんです。そのせいなのか、普段はしないような幼稚な言動をしてしまって」
「安心感ですか?」
安心感、そう言われても俺には思い当たる節はなかった。この二人以外には側に居ると安心出来るなんて言われたことはないしそもそも俺には誰かを安心させられるような魔法は使えない。
『そういうことか、』
『竜神クロノス様は何か分かったのですか?』
自身が発している安心感の正体を見当が付いていない俺とは違い竜神クロノス様は何かに気付いたようだった。
『恐らくこの二人が安心感と言っているものの正体は其方の魔力だ。リリー・フレイムも聖女アリアも経緯は違えど比較的に神の力を感じやすい体質を持っている。今の其方は我と力が微かに混じった魔力をより薄めて周囲にばら撒いているのだ。それが無意識の安心感としてこの二人に影響を与えているのだろう』
竜神クロノス様のその説明は凄く納得の行くものだった。だが、その事実に気付いたのと同時に俺は足下がぐらつくようなそんな感覚を味わってしまう。
『なんだか、洗脳みたいですね』
『そこまで酷いものでもなかろう。まぁ、印象が良くなっているのは確かだろうがな』
リリーの時に一度懲りた筈なのに、アリアに対してまた同じ失態をやらかしてしまった。それも、元初恋の相手にだ。
「アレン様、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
「まだ主役すら来ていないのだぞ」
「いえ、大丈夫です」
俺のことを心配そうに見てくる二人に余計に気分が悪くなるのが自覚出来る。つくづく、人生とは上手くいかないものだ。けど、それが分かったからと言ってドラゴンレーダーを解くことは出来ない。
「二人は本当に優しいですね」
誰かに優しくされる度に、俺は自分のことを嫌いになりそうだった。
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