第47話 変えられる未来

『竜神クロノス様、少し相談したいことがあるのですがよろしいでしょうか』



 今日一日の修行が終わり屋敷の庭で仰向けに倒れた俺はそのまま竜神クロノス様に話し掛けた。



『構わんぞ、其方の相談に乗れる存在など我くらいだからな』



 言われてみれば、前の世界の出来事を誰にも話せない以上は俺の相談に乗ってくれるのは竜神クロノス様しかいない。自分でも贅沢な立場だとは思うけどこれから世界を救うことを考えるとまぁ、みんな許してくれるだろう。



『それで、相談とは何だ?』


『はい、来週に行われる第一王女様の誕生会のことです』



 この国では毎年王族の誕生日は他国の重鎮も読んで盛大に執り行われる。現に、既に各国に招待状は届いているしツール公爵家もプレゼントの用意だったり服装選びだったりと少し慌ただしい。



『前の世界での第一王女様は誕生会の日に行方不明となり、それから約七年後に当時第一王女様が身に付けていた宝石のついた首飾りが冥府の森で見つかりました』


『つまり、来週にはその王女は死ぬということだな』


『そうなります』



 俺がその話を聞いたのは魔王軍との戦争中で仲間と野営をしている時だった。当時は気にも留めてなかった噂話だがいざその命が手の届く範囲にあるとしたら見捨てるという選択肢は選べない。



『其方は第一王女を助けたいのだな』


『はい、この世界が前と同じ結末を辿るのならここで死なせてあげることも考えました。しかし、俺が世界を救う以上は助けてあげたいです』



 正直な話、俺は第一王女様に面識はないし思い入れも存在しない。それでも、これから救う世界の中に彼女の存在も確かに含まれている。



『既に救うことは決めているようだな。それで、本題の相談とは何だ?』


『俺に魔物を察知する為の技を教えてください』



 俺は既に第一王女様を救うことを決めた。けど、意思や覚悟だけで誰かを救えるほどこの世界は甘くない。だからこそ、万全の準備をする必要がある。



『第一王女様の誕生会には俺も出席しましたが当日彼女は確かに会場に居ました。そして、王城から冥府の森までは馬車を使っても数日は掛かります』


『なるほど、誘拐するにしても始末するにしてもわざわざ冥府の森まで行く必要はないな。そうなると、考えられる可能性は転移魔法か』


『恐らくそれで合っていると思います』



 どんな動機があって第一王女様を誘拐したにしてもわざわざ遠く離れた冥府の森まで行く理由は何処にもない。そうなると考えられる可能性は転移魔法による強制転移であり、そういう手段がある以上一度未然に防いでも俺の居ない所で同じことをされれば終わりだ。



『今回俺は巻き込まれたという設定で第一王女様と一緒に冥府の森へと転移することを考えています。ですが、その時に俺まで道に迷ってしまえば終わりですし、一人で野営をするにしても限度があります』


『それで我に適した技がないのかを聞きたい訳だな』


『その通りです』



 竜魔体術とは無属性魔法の極地のようなものだ。なら、必然的にそういった技があってもおかしくない。そう期待を寄せて竜神クロノス様に尋ねてみた所、やはり俺の予想は当たっていた。



『其方の求める技ならドラゴンレーダーが最適だろうな』


『ドラゴンレーダーですか?』


『そうだ。原理は単純で今までは圧縮して薄皮一枚程度で全身に纏っていた魔力を逆に、空気中に溶け込んでいる程度の普通では認識出来ないレベルまで薄めた状態で周囲に広げるのだ』

 


 なるほど、これまでの修行で大分魔力の扱いに慣れたお陰かイメージはし易い。でもだからこそ、ドラゴンレーダーの難易度の高さが分かってしまう。



『既に理解しているとは思うが単純に魔力を圧縮するのと薄めるのでは圧縮する方が難易度が高い。だが、ドラゴンアーマーのように魔力を霧散させずに周囲に留めておくとなると薄めた魔力の方が難易度は一気に跳ね上がる』


『はい、空気中にある魔力と同じ密度となると例え自分の魔力であっても気を抜けば見失ってしまいますし、範囲を広げれば広げるほど魔力制御能力が追い付かなくなりそうです』



 けど、今回の件に限らずに将来犯罪者として逃亡生活を送ることを考えると今の俺には必須の技とも言える。



『これは、今日からずっと徹夜ですね』


『安心せよ、誕生会の前日だけは寝かせてやる』



 文字通り、世界の命運が掛かってるからこそ竜神クロノス様の指導はスパルタだし、俺もそれを望んでいる。



 一番の問題は一度助けた第一王女を四年後には裏切ってしまうことだが、その時は素直に恨まれながら世界を救おう。将来壊れることの確定している人間関係をこれから四年を掛けて構築していくことは俺にとって苦痛ではあるけど必要なことだと割り切る覚悟は既に決まっている。



「薄く、浅く、広く、伸ばすイメージで」



 ものは試しと早速ドラゴンレーダーを使って見るがやはり今の俺では直径四メートルくらいが限界だった。



『初めてにしては上出来ではないか』


『いえ、森の中で魔物を捉えることを考えると最低でも百メートルは欲しいです』


『ならば、魔力を薄く伸ばしながらの瞑想をするのだな。こういうことは地道な鍛錬あるのみだ』


『はい!』



 それから再び俺の不眠の日々が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る