第46話 変わった二人

「これで終わりですね」



 地面に膝をついたソードの首筋に剣を当てがいながら俺は告げる。ソードと一対一の模擬戦をしてから幾度となく打ち合ったけど結果は俺が無傷でソードがボロボロともはや言い訳のしようもないほどに実力の差が現れる結果と重なった。



 それでも、ソードに備わっている剣の才能が俺を遥かに上回っていることはよく理解出来た。叶うことなら今回の敗北を糧にその才能をより磨いて欲しい。



「何故、そんなに強い」



 薄っすらと目に涙を浮かべながらそう問い掛けてくるソードに俺はどう答えようかと思考を巡らす。睨みつけるような視線には偽ることを許さないという意思が感じ取れた。だから俺は素直に答えることにした。



「守りたいものが多いから、強さが必要なんだよ。だから、死に物狂いで強くなったんだ」



 正確には今もなっている途中でこの程度の力では何の足しにもなりはしない。



「そうか、俺の負けだな」


「そこまで、ソードくんの宣言により勝者はアレンくんとします」



 しっかりと負けを認めたソードを見てイーブンさんが試合を終了させる。久しぶりに剣を握ったけど何ていうか前よりも強くなっている実感があった。恐らく、竜魔体術を習得する過程で体の動かし方や相手の観察の仕方などが分かったからだと思う。そんなことを考えているとイーブンさんが俺の元へと近づいて来た。



「素晴らしい戦いだったよ、アレンくん」


「ありがとうございます」


「君さえ良ければ、ソードくんと一緒に僕が剣を教えようかとも思うんだけどどうかな?」



 いきなり話し掛けて来たかと思ったら何故か勧誘されてしまった。とはいえ、俺は既に剣を捨ててる身だしその先の未来がないことは分かってるのでその誘いに乗ることはない。何より、最高の師匠がいるのに今更誰かに教えを乞おうとは思わない。



「お誘いは嬉しいですけど俺に剣の才能はないので遠慮しておきます」


「そうか、けど気が向いた時にはソードくんの相手をしてあげて欲しい。きっと、良い刺激になるからね」


「はい、気が向いたらそうします」



 今日実際にユリウス兄さんの普段やっている訓練を見た結果俺は既にここに来る回数を減らすことを決めていた。勿論、月に数回は顔を出すつもりではいるけど竜神クロノス様に色々と教えを受けようとするとあまり周囲に人がいない方が効率が良い。



 それに、言っては悪いけどこの場所にはあまり得るものがない。



「アレン」


「どうしたの?ソードくん」



 それから借りた剣を返そうとユリウス兄さんの元へと向かった俺だったが背後からソードに話しかけられたことによって足を止める。何となく要件は分かってるけど一応聞いてみる。



「今日は色々と失礼な態度を取って済まなかった。噂を鵜呑みにしていた自分が恥ずかしい」


「別に気にしてないから良いよ。それに噂は事実だし」



 俺に対して頭を下げて謝って来たソードに感心しながらも噂の件は肯定しておく。



「もしお前が出来損ないなら俺は天才などとは呼ばれていないだろう。それと、俺のことはソードと呼び捨てにして構わない。口調も普通で良い」


「分かったよソード。毎日ここに来る訳じゃないけど来た時は相手するからそれまでに鍛えておいてね」


「もちろんだ。必ずお前に一撃を与えられるようにして見せる」



 そう言いながら互いに握手を合わしたことで俺とソードは和解した。別に喧嘩をしていた訳ではないけど仲が良くなったのは確かだ。これでソードに強くなる為の種を蒔くことには成功した。問題はもう一人の方だ。



「ユリウス兄さん。剣貸してくれてありがとう」



 ソードと離れてから俺はユリウス兄さんに借りていた剣を返していた。その際にユリウス兄さんの隣に居たマリンにチラッと視線を向ければ向こうは俺のことをずっと観察していた。



 そんなマリンの様子を見たのかユリウス兄さんは苦笑を浮かべながら俺の方見る。



「まずは良い戦いだったよアレン」


「ありがとう、ユリウス兄さん」


「それで実はマリンがアレンのドラゴンアーマーに興味を持ったらしくてね。良ければ教えてあげてくれないか?」



 そう言われて今度はしっかりとマリンの方を見るとマリンは一歩俺の方へとやってから静かに頭を下げた。



「私にその魔法を教えて欲しい」



 この会話だけで彼女がコミュ障なことが分かった。とはいえ、マリンから強くなろうとしていることは俺に取って嬉しい誤算だった。単純に自分の知らない魔法に興味があるだけかもしれないけど近接戦闘に向かないマリンがドラゴンアーマーを覚えればそれだけで負ける確率が格段に下がる。



「さっきソードに言ったけど俺は毎日ここに来れる訳じゃないんだ。だから、来れる日だけで良いなら教えるよ」


「ありがとう」



 これで二人の強化を行いつつ俺は竜神クロノス様から修行を受けてより強くなれば良い。後はやはりもっと実戦経験が欲しい。以前の死霊のダンジョンのように死に掛けるような強敵と戦うことで俺はより強くなれる。まずはそのための方法を模索する所から始めよう。



 それから、軽くユリウス兄さんとも戦ってその場はお開きとなった。

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