第43話 実力の差
「アレンがそんなことをするなんて珍しいな。特に怒ってる訳でもないのにどうかしたのか?」
俺の渾身の挑発を受けてフリーズしているソードとマリンを他所にユリウス兄さんがそう尋ねてくる。まぁ、普段の俺を知るユリウス兄さんならこの行動のおかしさに気付くだろう。
「あの二人がどれくらい強いのか興味があったので挑発しちゃいました」
「そうか、まぁ程々にな」
「はい」
俺と二人の実力を知っているユリウス兄さんはどうやら二対一でも俺の勝ちを確信しているようで苦笑を浮かべている。
そうして俺とユリウス兄さんが談笑している姿を見ていたソードの方はスタスタとこちらに近づいて来てから徐に腰に差してあった剣を引き抜く。
「ユリウスの弟でしかないお前が俺たちを挑発することの意味を分かってるのか?」
世間一般では落ちこぼれとしての評価しかされていない俺から下に見られたことで怒ったのかソードの剣が俺の鼻先へと向けられる。チラッと大人組を見ていると俺のドラゴンアーマーに気付いているようで冷静に俺たちを観察している。
「俺は事実を口にしたまでです。不快に思ってるならその剣で黙らせてみては?」
「良いだろう。だが、お前如き俺一人で十分だ」
そう言ってやる気満々に訓練場の中央に歩いて行くソードにイーブンさんが待ったを掛けた。
「待ってくださいソードくん。良い機会ですからマリンさんと組んで二人で戦ってください」
「はっ?なんでですか?」
「私はあれに興味ない」
俺に一瞬視線を向けてからソードに俺が当初口にした二対一を提案するイーブンさん。そんなイーブンさんに面倒臭そうに興味ないと言い切ったマリンだったが次のライラさんの発言でその表情を変える。
「マリンちゃん。良い機会だから戦ってみなさい。魔法はともかくとしても、魔力の操作だけなら彼、私を凌ぐわよ」
「分かった。私も参加する」
二人に戦う意志が生まれたことを確認して壁際まで下がるイーブンさんとライラさん。二人とも考えていることは俺と同じ様で今回の模擬戦を機会にソードとマリンの成長を促したい様だ。
「後悔するなよ」
「怪我しても知らないから」
「大丈夫ですよ」
二人が天才であることは認める。けど、どれだけ恵まれた才能があろうとも死に物狂いで努力して才能を開花させない限り俺の脅威たり得ない。日々の修行の成果で今の俺のドラゴンアーマーは一般的な魔力障壁を上回る強度を保持している。
正直な話、今の二人相手なら他の技を使うことなく勝てるだろう。
「それじゃあ、双方準備は良いな。試合始め」
「ファイヤーボール」
イーブンさんの試合開始の合図と共にマリンがファイアーボールを放ってくる。牽制として放たれたのかこれで終わらせるつもりなのかは分からないが大した脅威でもないので俺は直前に迫ったそれを手の甲で横から払い落とした。
俺の行動にさっきまでの興味無さげな顔を一変させ目を見開いたマリンは駆け出そうとするソードを杖で制して魔法を連発してくる。
「アクアショット、サンダーショット、ウィンドショット、アイスショット、アースショット」
殺傷性の低い魔法とはいえ様々な属性を駆使した戦い方は彼女が魔法の天才であることをこれでもかと示している。だが、その悉くが俺のドラゴンアーマーには届かず魔法を体術で掻き消すという不思議な光景を生んでしまう。
「それなら、アクアカッター」
「それだけですか?」
模擬戦用の殺傷能力が低い魔法だけでは無理と判断したのか生身で受ければ人体でも切断してしまうアクアカッターを飛ばして来るが俺は今度は敢えてアクションを取らずに棒立ちのままそれを受け止める。
俺の胸部に直撃した筈のアクアカッターが弾け、無傷で立っている俺を見てマリンの瞳に熱が灯る。その瞳は口よりも雄弁にお前を倒すと物語っていた。
「喰らえ!ファイヤージャベリン」
先程のファイヤーボールとは比較にならない程の魔力が注ぎ込まれた炎球が容赦なく俺に向けて放たれる。リリーの金色の炎よりは劣るものの生身の人間が受ければ大火傷は免れない。
それでも、俺は敢えて魔力障壁を展開せずに右手を前に突き出すという最低限の防御だけに留めた。
リリーの時もそうだったが天才とは挫折を知らない。リリーは俺と会うまで敗北を経験したことがなく、マリンもソードもこれまで挫折らしい挫折は経験したことがないだろう。仮に模擬戦をして負けても大人なら挫折にならないし、同年代でも魔法の天才、剣の天才、勇者とそれぞれで得意分野が違うため負けても仕方がないと思ってしまう。
「良い一撃ですね」
「嘘っ、」
あり得ないものでも見たかのような顔でマリンがそう呟く。それなりに魔力を込めたファイヤージャベリンの直撃を受けて無傷なのだからマリンからすれば悪夢そのものだろう。
「下がってろマリン、今度は俺がやる。身体強化、行くぞ!」
渾身の魔法が不発に終わり茫然自失となったマリンを下がらせ今度はソードがこちらへと突っ込んでくる。けど、相性が悪い。
「喰らえ!」
「読みやすい」
「なっ、」
俺はソードから放たれた上段からの一撃に対して剣の腹を裏拳で殴ることにより軌道を逸らし、そのままバランスを崩したソードの腕を素早く掴み背負い投げを決める。
「がはっ」
ソードは確かに剣の天才であるがそれなりの期間剣の修行をして来た俺はこの時期のソードならまだ剣の軌道を予測出来る。そして何より、まともな訓練しか出来てないソードは剣の間合いなら十分に戦えても体術の間合いで剣を振ることに慣れていない。
「さて、後どれくらい持ちますか?」
「マリン、サポートしろ」
「分かってる」
今の一撃で俺に対する認識を改めたのかソードとマリンが協力して俺を倒そうとして来る。それでも、俺が負けることはない。それを証明する様に俺は二人に敗北と挫折をプレゼントするのだった。
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