第41話 お別れ
リリーがツール公爵家に泊まることになってから一週間が経過した今日、ついにリリー達一行は自国へと帰ることになった。
「む〜、やはりまだまだ制御しきれん」
「一週間やそこらで身に付けられるほど簡単な技術ではないですから当然ですよ」
そんな別れの最終日を迎えても俺はいつも通りにリリーにドラゴンアーマーについて教えていた。リリーとしてはギリギリまで粘ってドラゴンアーマーを習得した所を俺に見せたいようだがそんなに簡単に出来るほど甘い技ではない。
「こうしてやってみると、改めてアレンの凄さが分かるな」
「そう言ってもらえて光栄です。リリー王女は才能がありますのできっと習得出来ますよ」
「そうだな」
ここで納得するあたりは本当にリリーらしい。だが、リリーなら竜王国に帰ってからも練習を重ねればきっとドラゴンアーマーを習得出来るはずだ。
「今日でアレンと別れることを考えると少し寂しいな」
ボソリと、きっと無意識に口にした言葉なのだろうが俺はその言葉に少しの衝撃を覚えていた。俺の知るリリーは決して他人に弱音を吐くことはしない。まだ子供だからということもあるのだろうがそれだけ俺に心を開いてくれているということなのだろう。
「今度アレンに会えるのはいつになるのだろうな」
「何か大きな行事でもあれば会えると思いますよ。それこそ勇者任命式みたいな」
「なら、その手の行事は一通り把握しておこう。フェルン、頼んだぞ」
「畏まりました」
フェルンさんの仕事を増やすようで申し訳ないが俺も強くなったリリーにまた会いたいと思ってしまう。これでも前の世界では憧れの存在だったのだし、彼女が強くなる姿を近くで見れるのは存外悪くない。
「次に会う時には必ずドラゴンアーマーを習得しておくからな。楽しみに待っていろアレン」
「はい、楽しみにしています」
ドラゴンアーマーが竜神クロノス様の開発した技術だと知ったらリリーはどんな反応をするのだろうか。教える気は一切ないが少しだけ気になってしまう。
「お前には感謝している」
そんなことを考えていると突然リリーが俺に対して感謝を口にする。それが何に対しての感謝かは分からないがその気持ちが本物であることはリリーの目を見れば分かる。
「アレンのお陰で私は金色の炎に目覚め、自分を見つめ直すことも、強さについて改めて考えることも出来た。思えば、初めての敗北以降アレンには与えられてばかりだな」
そんなことはない。金色の炎に目覚めることができたのも、自分を見つめ直したのも全てリリー自身の行動の結果であり俺は要因に過ぎない。
それに俺もリリーから教えられたことはあったし、今まで前の世界との差異を気にして行動が消極的になっていたがそれを止める決心も付いた。
「俺の方こそリリー王女には感謝しています。貴方のお陰で一つ決心が付きました」
「決心?それは何だ?」
「前々からユリウス兄さんに訓練に誘われていたんです。けど、それに参加する勇気がありませんでした」
魔王に目を付けられる危険性を排除といえば聞こえは良いが結局の所、俺は変化を怖がっていた。世界を変える覚悟も自分が強くなる覚悟も既に決まっているが、それを他人に強いるのが怖かったんだ。
前の世界では勇者一行は魔王によって殺された。だが、逆に言えば魔王とさえ戦わなければ死なないとも言える。もし俺が子供時代の彼らに何かしらの影響を与えることで彼らが魔族に殺されてしまったら、無意識のうちにそう考えていた。
だが、俺の行動はどんな形にせよ未来を変える。それは最悪の方向に傾ければ魔王軍の戦力の増強という形にだってなる。
「そうか、アレンらしくないと思うがそれは本人の問題だ。私の存在がアレンに影響を与えているのなら良かった」
笑ってそう言うリリーは少し年相応に見えて可愛らしい。その笑顔を将来潰さない為にも俺は出来る限りのことを行う。その一環が他の勇者一行の強化であり、俺自身の強化だ。
「さて、そろそろ帰る準備をするか。屋敷に戻るぞ、フェルン」
「はい、アレン様お先に失礼します」
こちらに顔を向けずに屋敷に戻るリリーと俺に一礼してから後を追うフェルンを見送って俺も自分の修行に戻る。
「ドラゴンクロー」
あんなことを言った手前、リリーには申し訳ないがこの一週間で俺にとっての一番の収穫は実はカイザーさんだったりする。模擬戦以降、カイザーさんとは互いに研鑽を積むという意味で何度も戦ったがしっかりとした技術を有している強者なだけあって俺としてもカイザーさんとの戦闘では学ぶものが多かった。
槍の捌きかたから始まり、体術の向上や相手の動きの読み方など間違いなく俺にとって有意義な時間になった。そういう意味ではリリーよりもカイザーさんと別れる方が惜しいかもしれない。
俺は竜魔体術を習得してから確実に強くなっている。それこそ、自惚れではなく現在の勇者一行相手なら誰にも負けないと自負出来るほどに。けど、これから世界を敵に回すことを考えるとまだまだ足りない。
リリーは次に俺と会う時までにかなり強くなっているだろうが、俺はそれ以上に強くなっている必要がある。その為に必要なのはやはり強敵との戦闘。死霊のダンジョンのモンスター部屋で死に掛けた時の様な経験が今の俺には不足している。
それから、一通りの修行を終えリリー達一行を見送った俺は改めてユリウス兄さんに訓練に参加する旨を伝えたのだった。
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