第40話 リリーとのデート
「アレン、今日は付き合わせてしまって済まないな」
「いえ、お気になさらないでください。リリー王女」
どうしてこうなってしまったのか。俺はそう嘆きたい気持ちを必死に押し殺して差し出されたリリーの手を取った。
こうなってしまった原因は昨日ドラゴンアーマーを教えていた時にリリーが俺の魔力に触れてしまったことにある。俺の魔力に触れたリリーは俺の中にある竜神クロノス様の力を無意識に感じ取ってしまいその場はそれでお開きとなった。
その時に竜神クロノス様からリリーが俺に惚れた時いた時はあまり実感が湧かなかったがこうして突発的にデートに誘われたことでようやく実感が湧いてきた。
「カイザーやフェルンのことは気にするな。それから、私のことは呼び捨てにして敬称も捨てろ」
「ここは誰の目があるのかも分からない町中です。流石にそれは出来かねます」
もう目立たないというのは出来ない為そこについては別に良いが流石に竜人族の王女であるリリーに対して街中でタメ口を使うのはリスクが大き過ぎる。
「仕方がないな、今日はそれで我慢してやろう」
「ありがとうございます」
残念そうに折れてくれるリリーにお礼を言いながら俺はリリーを見る。見て分かるほど恋する乙女全開ではないが見て分かる程度には上機嫌でこれから行うデートを楽しみにしている様子だ。
「では、何処から行きましょうか?」
「ここはアレンの領なのだから好きな所にエスコートしてくれ」
「畏まりました」
好きな所と言われても何処へ連れて行くべきなのか迷ってしまう。酒場は論外として美味しいものが食べられるお店に行けば良いのか、アクセサリーでも見せれば良いか。
これが大人同士のデートならいくつか候補は絞られるが俺たちはまだ子供だ。金銭は向こうが持ってくれるとは言え下手な場所に連れて行く訳にも行かない。
「取り敢えず美味しい食べ物がある場所に案内します」
「あぁ、任せたぞ」
それなりに考えた結果、行き着いたのが食べ物なのは果たして子供らしいと言えるのだろうか。だが、リリーも満足そうだしそんなに悪い選択ではない筈だ。
「それにしても、デートの最中だというのにドラゴンアーマーは解かないのだな」
「はい、不快に感じられたのならば謝罪しますが俺にとってはこれが普通ですから」
「別に構わん。寧ろ良い心がけだ」
そうは言いつつもリリーは少しだけ不満そうだった。けど、ドラゴンアーマーを解いた結果前みたいなことが起こったら本当に笑えない。だからここは譲れない。
「では行きましょう。リリー王女」
「あぁ」
それから俺はリリーを連れて自分の中で美味しいと思っている店をいくつか回ることにした。事前の情報でリリーは肉が好きということを知っていたのでそっちをメインにしたがどうやら正解だったらしい。
もちろん、食べ歩くだけというのは流石に良くないのでリリーの気になる店に入ったり、武器屋に寄ってみたりと俺はリリーを色々な場所に案内した。
途中からデートというより領地の案内になっていた気もするがリリーが楽しそうなのでそこは気にしないことにする。
「アレンはこの領が好きなのだな」
「はい、とても気に入っています」
街を歩きながらリリーにそんなことを言われる。少しはしゃぎ過ぎたかと反省するがこの領が好きなことは事実なので素直に肯定することにした。
「そうか、それは良いことだな。だが、一つ分からないことがある」
「何でしょうか?」
領に関することなら大抵のことは答えられる。そう自信を持って次の言葉を待ったがリリーの放った言葉は俺の予想とは全く別のものだった。
「アレン、お前には何が見えている?」
「何がとは?」
「街を歩く時のお前の横顔は酷く寂しそうだった」
寂しそうか、随分と的を射ている発言だ。リリーに街を紹介する最中、俺は前の世界の壊れたこの地のことを思っていた。そして、犯罪者となりこの街に立ち寄れなくなる将来を見据えていた。
「俺のことをよく見ているのですね」
「あぁ、アレンのことを知りたいと思っているから余計にな」
嬉しいことを言ってくれる。その筈なのに俺はリリーから寄せられる好意に溜め息を吐きたくなった。本当に、叶う筈のない恋心など早く捨てて欲しい。
俺はリリーのことが嫌いではない。寧ろ、人として尊敬しているし、リリーの在り方は好ましく思っている。それでも、いつか彼女を裏切る俺に恋だの愛だのと宣う資格は存在しない。
「俺はこの街が好きです」
「あぁ、見ていれば分かる」
「だからこそ不安なのです。この平穏な日常がいつか壊れてしまうのではないかと。もちろんこんな確証はありません。ですが、あり得ない話でもない」
そうならない為に全力を尽くすがもし失敗すれば今度こそ世界は終わる。そうすれば、この領もまたあの日と同じ運命を辿ることになるだろう。
「アレンは存外心配性なのだな」
「そうですね、俺はきっと心配性なんです」
きっとその心配はどれだけ力を手に入れようとも魔王エイミー・ロゼットを殺すまで消えることはない。
「リリー王女、そろそろ戻りませんか」
「そうだな、ドラゴンアーマーも教えてもらいたいしそろそろ帰るか」
「頑張って習得してくださいね」
「当然だ」
だから、俺は常に今出来る最善を行う。その一つがリリーを強化することなら当然そのことに全力を注ぐ。それが将来俺に牙を向く存在になると分かっていても、出来る限りのことをする。
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