第39話 リリーの恋心
「リリー様、少しは落ち着きましたか?」
「あぁ、心配を掛けてすまんな。フェルン」
フェルンに連れられツール公爵家の屋敷内の自分に割り振られた豪華な部屋に戻った私はリリーにそう言いながらも未だに落ち着くことが出来ないでいた。
「本当に先程は如何されたのですか?」
「分からん、ただこう、胸がモヤモヤして妙に暖かくて、安心出来て懐かしくて、私も未だに整理がついてないんだ」
アレンの魔力に触れた時に味わったあの感覚は本当に何だったのだろうか。懐かしく安心出来る筈なのに一瞬感じ取った恐怖から無意識に手を弾いてしまった。
私が恐怖を覚えるほどの何か、それをアレンは身の内側に宿しているということか。思えば、出会った当初からアレンは不思議な人間だった。
「なぁ、フェルン。お前から見てアレンという人間はどう映る?」
「そうですね、一言で表すには難しい人物だと思いますがそれでも敢えて言葉にするのなら竜でしょうか」
「ほぉ、大きく出たな」
フェルンの言葉を聞き何故か喜んでいる自分がいる事に気が付く。だが、今はフェルンの言葉を吟味する方が先だ。
そもそも、竜とは竜神クロノス様を参考として魔神ゼブラが作り出した最強種の魔物だ。竜人族にとって竜を倒すことは誉れとされ自然界における真の弱肉強食を体現していることからも敬意を払われている。それを人間の例えに使うなど本当に大きく出たものだ。
「リリー様は随分と嬉しそうですね」
「んっ?そう見えるか?」
「はい、余程アレン様を気に入っておられるのですね」
アレンを気に入っているか。まぁ、否定はしない。私に二度も敗北を味合わせ卑怯とも呼べるこちらの連戦の申し込みすら受け入れて実力で跳ね除ける。それでいて技術の独占などは考えず私にもドラゴンアーマーを教えてくれた。
「そうだな、アレンの在り方を私は好ましく思っている」
「金色の炎に目覚められたのも、王族からの追放の可能性が消えたのもアレン様のお陰ですからね」
「あぁ」
言われてみればその通りだ。私はあの戦闘の中でアレンに期待外れと言われたことが悔しくて結果金色の炎を宿す事に成功した。そのお陰もあって私が王族から追放される可能性は殆どなくなり、連戦を挑んだにも関わらずカイザーまで敗北した事により私が弱いのではなくアレンが強いと今回の戦闘を見ていない者たちにも証明することが出来た。
「これは、流石に褒美を取らせた方が良いのではないか?」
「確かにそうですね」
一度、冷静になって今回の出来事を振り返れば私は随分とアレンに恩義を作ってしまっている。こちらからお願いしたことではないとはいえ、これで何もせずに帰ってしまっては王女としての示しが付かなくなってしまう。
「何か良い褒美はないものか?」
公爵家の子息なら金は既に足りているだろう。あまり物欲がある方には見えないし武器を贈ろうにも戦闘スタイルは素手。
「リリー様、一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わんぞ。話してくれ」
フェルンはずっと私の専属メイドをしているだけあってかなり役に立つ。こういう時の彼女の意見は基本的にハズレがないからな。今回も参考にさせてもらおう。
「リリー様の婚約者にしてしまうのは如何でしょうか?」
「婚約者?」
婚約者?私と、アレンが?
「何故、そんな意見が出てくる?」
「いえ、リリー様はアレン様に好意を抱いているご様子なのでここは褒美を建前にして婚約者にした方がよろしいかと。幸いにも今の状況なら説明のしようはいくらでもあります」
私がアレンに好意を寄せているか。確かにアレンの在り方は好ましく思っているがこれは恋なのか?だが、実際に婚約者ということで考えるなら私を二度も敗北させたアレン以外は考えられない。それに、あれだけの強者を手放すのは惜しいな。
「人間のアレンを私の婚約者として認めさせるのはなかなかに大変だぞ」
私の立場は竜人族の王女であり、アレンは公爵家の子息。完全に釣り合いが取れていないという訳ではないが純粋な立場だけならまだしも種族の壁というのは私が思っている以上に高い。
「それは今後のリリー様の頑張り次第です。それに、最悪の場合はアレン様に嫁ぐのもありではないでしょうか」
私がアレンに嫁ぐのか。まぁ、敗北した私がアレンに降るのも一つの選択と言えなくもないだろう。だが、それは私の矜持が許さない。
「駄目だな、アレンは私が勝って婿にもらう。負けたままで引き下がれるほど私は牙を折られてはいない」
「そうですか。では、アレン様を婚約者にすることについては賛成されるのですね」
「あぁ、アレンは私の婚約者に相応しい強者だからな。とはいえ、これ以上迷惑を掛ける訳にもいかない。どう話を切り出すべきか」
もし私の婚約者になったことでアレンに面倒事が舞い込むようならそれは私の望む所ではない。ただでさえ、私のせいで色々と巻き込んでいるのにこれ以上迷惑を掛けてしまっては婚約者になること自体を拒否されかねない。
「まずは好感度を上げるというとは如何でしょうか?」
「好感度か、確かに上げておいて損はないな。だが、どうすればアレンの好感度を上げることが出来るんだ?」
「それはアレン様の女性の好みにもよるのではないですか?」
「言っておくが、いくら好いているとは言えアレンの為だけに自分を曲げるようなことはせんぞ?」
アレン好みの女性になるというのは正直乗り気になれない。どちらかと言えば私と過ごすことでアレンの好みのタイプを私にする方が断然良い。
「まずはアレンをデートに誘ってみるか」
「そうですね、きっとアレン様は将来モテますから先んじて行動しておきましょう」
アレンは私の婚約者として相応しい存在だ。だが、私がアレンの婚約者に相応しいかと言われればそうではない。竜人族の王女としての立場や金色の炎を発現させた実績など他人から見れば私の評価は高いだろうがアレンに一度も勝てていない時点でとても対等とは言い難い。
「そうと決まれば服の用意を頼んだぞ。フェルン」
「お任せください。リリー様」
まずはアレンに勝つ。そして、私の婚約者にする。明日のデートはその為の第一歩としよう。
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