第38話 竜神の魔力
リリーにドラゴンアーマーを教えて欲しいと頼まれた翌日、俺は約束通りに庭に出てリリーにドラゴンアーマーのやり方を教えていた。
「くっ、思ったよりも難しいな」
「それについては慣れてもらうしかありませんね」
のだが、やはりドラゴンアーマーは難易度が高いようでリリーの纏う魔力はブレブレで障壁としての強度すら保てていなかった。
「無理に圧縮しようとせずにまずは薄く纏うことだけ意識してください」
「むっ、分かっている」
そう言って頑張って魔力を体に薄く纏おうとするリリーだがやはりむらがあり薄さも全然なってない。苦戦をしながらも頑張るリリーを見て少し前の自分もこんな感じだっのかと少し感傷に浸っているとリリーに睨まれてしまった。
「私を笑っているのか?」
「いえ、俺にもこんな時期があったなと思って」
どうやら、表情に出ていたらしい。とはいえ、せっかく教えるのだから一週間で何も成長させない訳には行かない。それに人に教えることで得られるものがあることも事実だ。
そう考えて俺は自分が出来なかったドラゴンアーマーの分かりやすい習得の仕方を思い付きリリーに実践してみることにした。
「リリー、試したいことがあるから手を出してくれ」
「分かった」
俺の提案に特に抵抗することなく手を差し出してくれるリリー。一応、フェルンさんの方を見るがその表情には特に咎めるような意思はなく側で見守っているカリスからも温かい視線を向けられる。
「握ったぞ。次はどうすれば良いんだ?」
「魔力を纏う感覚を教えるので俺の魔力に意識を集中させてください」
そう言って俺は常時展開しているドラゴンアーマーを一度解除しリリーを握る手を意識しながら二人の体を魔力で覆う。それは俺がドラゴンアーマーを習得した時にはすることの出来なかった感覚の共有であり、もしこのやり方が成功すればリリーは確実に前に進むことが出来るだろう。
「待てッ、アレン!」
そう思い二人を包む魔力を圧縮しようとしたのだが俺の手はリリーに弾かれる形で離されてしまった。
「大丈夫か、リリー?」
突然のことに何が起きたのか理解出来なかった俺はリリーのただならない様子に心配になり声を掛けるがその返答が返ってくることはなかった。流石におかしいと思ったのかフェルンさんもリリーの側に寄り添うがそれでもリリーは反応を見せない。
『迂闊だったな』
状況が理解出来ないでいる俺に対して竜神クロノス様が呆れ交じりにそう言ってくる。竜神クロノス様の口ぶりからして俺に非があるように感じるが心当たりが全くなかった。
『何がいけなかったのですか?』
『死霊のダンジョンで魔力の核心に触れた際、我の魔力と神力に触れたことは覚えているか?』
『もちろんです』
忘れる筈がない。その時に俺は竜神クロノス様の魔力と神力に当てられ未来視の魔眼や神に近付いた体を手に入れたのだ。と、そこまで考えて俺はようやく何が起こったのかを理解した。
『竜神クロノス様の力の一端をリリーが感じ取ってしまったということですか?』
『既に其方の力だが概ねその認識で良い』
竜神クロノス様の言葉に俺は思っていた以上にことが大きくなっているのを感じ内心頭を抱えてしまう。本当に迂闊なことをした。考えてみれば俺は半神とまでは行かずとも神の力を宿した存在だ。その辺りをもっと警戒しておくべきだった。
だが、今は過ぎたことを悩むよりも弁明が先だ。
「改めて、大丈夫か?リリー」
何をどう感じ取ったのか問い正したい気持ちはあるが俺は優しい声音でリリーに声を掛ける。
「大丈夫だ。いきなり手を弾いてすまなかった」
「いや、それは大丈夫だけど」
「リリー様。先程はどうされたのですか?」
本当に面倒なことになってしまった。流石に竜神クロノス様の核心に触れたということはないだろうが断片的な力でも触れられたことには変わりない。勘がよく聡明なリリーなら最悪、俺の存在に気づいてしまうかも知れない。
「そのだな、アレンの魔力が凄くて、手を弾いてしまった」
「凄いとは?」
「分からない。強くて逞しくて心地良くて、本当によく分からないんだ」
顔を赤らめてそう言ったリリーに対してフェルンさんは頭を手で押さえ溜め息を吐く。
『惚れられたな』
どうやってこの状況を収めようかと思案している俺に対して今度は竜神クロノス様がそんなことを言ってくる。
『惚れたとは?』
『文字通りの意味だ。強者を是とする竜人族の王女が竜神たる我の力を宿し二度も敗北を味合わせた其方に惚れない道理がない』
竜神クロノス様の言葉に一瞬だけ思考がフリーズする。あのリリーが俺に惚れた。これまでのことを考えれば理解出来なくもないが前の世界からの常識があり得ないだろとその現実を否定する。
「ひとまず、今日の訓練は中止にしましょう。アレン様には申し訳ないのですが私はリリー様を連れて戻らせてもらいます」
「はい、分かりました。俺の方こそ色々とすみません」
「いえ、それでは失礼します」
そう言ってリリーを連れて足早に戻ってしまったフェルンさんを目で見送りながら俺は精神的な疲れのせいか地面に大の字に倒れた。
「大丈夫ですか?アレン様」
「大丈夫じゃない」
俺を心配して声を掛けてくれたカリスに弱音を吐きつつ俺は更なる面倒ごとに頭を抱えるのだった。
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