第37話 短期間の教え

「アレン様、今お時間よろしいでしょうか?」



 リリーたちが泊まることになった翌日、特別にやることもない為一人で瞑想をしていた俺は部屋の扉が叩かれたので瞑想を一時中断して扉を開けた。すると、そこにはリリー王女とその御付きであるフェルンさんが立っていた。



「アレン、今少し時間良いか?」


「はい、構いません」



 リリーの質問に構わないと答えてから俺は昨日の試合からリリーと話していなかったことを思い出す。夕食や朝食は親睦を深める意味合いも込めて一緒に摂ったがその時俺とリリーの会話はなかった。



「部屋に入れてくれ、話はそれからだ」


「狭いですが、それでも良ければどうぞ中へ」



 何というか今日のリリーは少し元気のないように感じる。まぁ、俺との戦いに負けたのだし金色の炎を発現させてまで敗れたのだから当たり前と言えば当たり前か。



 二人が部屋の中に入りリリーが座ったのを確認して俺は早速要件を聞くことにした。



「それで、本日は如何されたのですか?」


「敬語」



 やはり敬語はお気に召さないらしい。とはいえ俺にも立場があるので念のためにリリーの隣にいるフェルンさんに目配せをする。すると、小さく頷いてくれたので問題ないと判断し俺は口調を元に戻すことにした。



「要件は何かな?リリー」



 だが、口調を元に戻してもリリーが口を開くことはなく気まずい沈黙が部屋中を支配する。そんな状況を見かねたのかフェルンさんがリリーの代わりに口を開いた。



「リリー様はアレン様にどう接するべきかを測りかねているのです」


「フェルン!」



 フェルンさんの言葉にリリーが声を上げるが俺は続きが気になったのでフェルンさんに続きを話すように促した。



「これまで同年代はおろか年上にさえ勝って来たリリー様にとってアレン様は初めて敗北を味わった特別な相手でした。そして、敗北を糧に驕りを捨て強くなる為に努力をし再戦を挑んだ結果、金色の炎を覚醒させても尚届かなかった。そこへ我々の勝手な都合による連戦の申し込みによる無礼、流石に理不尽だと止めようと動けばアレン様の覚悟を前に自分の不甲斐なさを実感し、挙げ句の果てには護衛騎士であるカイザー様に勝利してしまう。その結果としてリリー様は金色の炎の件もあり王族からの追放は完全になくなりました」


「それで?」


「いくらリリー様が大人びていてもこれだけのことが一気に起これば混乱してしまいます」



 俺の思うリリーのイメージだと「良くやった、褒めてやろう」とか言って来そうだなと勝手に思ってたがどうやらそれは間違っていたらしい。まぁ、俺の知ってるリリーは様々な経験を積んだ前の世界のリリーでありまだ子供である今のリリーではないということだ。



「アレン」


「はい、何ですか?」



 俺がそんなこと風に思っていると今まで口を閉ざしていたリリーから名前を呼ばれる。ようやく話す気になったのかとリリーの次の言葉に耳を傾けたがその内容が内容なだけに俺は少し固まってしまった。



「良くやった、褒めてやろう」


「すみませんアレン様、リリー様は少し混乱しているようです」



 フェルンさんがフォローを入れているが何というか俺は今楽しい気持ちでいっぱいだった。前の世界の俺では知ることの出来ないリリーの隠れた一面が知れる。ファンとしてこれほど嬉しいこともあるまい。



「構いません。寧ろ、リリーも年相応な一面があるのだと安心しました」


「アレン様はそういう一面があるようには見えませんね」


「いえいえ、俺なんてまだまだ子供ですよ」


「そう言える時点で十分に大人びていると思います」



 それに、こうして話していて思ったがカイザーさんもそうだったがフェルンさんも意外と話しやすかったりする。前の世界で彼女らが何をしていたのかは知らないが最後の顛末だけは知っている。だからこそ、こうして前の世界では触れ合うことのなかった人と触れ合う度に失いたくないという気持ちが強くなっていく。



「それではリリー様、そろそろアレン様にここに来た要件を話してください」


「一応要件はあったんですね。それで、要件は何かな?リリー」



 俺とフェルンさんの視線を受けてリリーは観念したかのように口を開いた。



「そのだな、アレンが今使っている魔力を纏う技のことなのだが」


「ドラゴンアーマーですね」


「そのドラゴンアーマーだが、私にも教えてくれないか?」



 これはどう返答したものか。正直な話、やり方を教えるだけなら別に良いしリリーの強化を考えればこの場でドラゴンアーマーについて教えるのは悪くない手だと思う。だが、竜神クロノス様から教えていただいた技を勝手に人に教えて良いものなのか。



『身に付けた技術は当人のものだ。我の許可など必要ない。其方が思うようにやれば良い』



 俺がそんなことを考えていると竜神クロノス様が俺の心を見透かしたように許可をくれる。そうなると、あとは俺の判断次第だが既に答えは決まっていた。



「ドラゴンアーマーを教えるのは構わないけど、一週間やそこらで身に付けられるほど簡単じゃないよ」


「そんなこと覚悟の上だ。今はアレンの強さの一端でも知れれば良い」


「そうか、じゃあ少し厳し目に行きくよ」


「望む所だ」



 先程と比べ元気を取り戻したリリーを見ながら俺は一週間でリリーにどこまで教えるかを考える。正直なところドラゴンアーマーの修行は地道な反復がものを言う。故に教えるのは理論メインで本格的な習得は帰国後にやってもらうことにする。



「では早速教えてくれ」


「分かった」



 こうして俺はリリーにドラゴンアーマーを教えることになったのだった。

 

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