第35話 護衛騎士
「私はリリー様の護衛騎士を務めているカイザーと申します」
「ツール公爵家次男のアレン・ツールと申します」
リリーの護衛騎士であるカイザーさんとの初めての会話は自己紹介から始まった。というか、近くで見ると本当に強そうだ。表情が動かない所とか特に。
「アレン殿の先程の言葉、ひどく感銘を受けました」
「世間を知らない子供の戯言です。聞き流していただければと思います」
「いえ、全て的を射た良い言葉でした。あの発言が出来るのならリリー様に勝てたことも納得です」
抑揚なく喋るカイザーさんだがその言葉がお世辞や社交辞令ではなく本心から言っているのが伝わって来る。実に竜人らしい。
「とはいえ、私も護衛対象を傷つけられた身、故に容赦は出来ません」
「当然です」
「しかし、この戦いの始まりはこちらの落ち度です。その為、私は空を飛びません」
手を抜く宣言というよりは純粋に同じ土俵で勝負してくれるということか。まぁ、今のリリーの様に実戦経験が足りない者ならともかく、飛行による有利を理解している玄人相手にこちらだけ飛行禁止は流石に分が悪い為この提案は素直に受けることにする。
そもそも、飛行禁止はお互い様だ。
「そちらがそれで良いのならば願ってもないことです」
「責めないのですね」
「あなたの全力を引き出せないのは俺の実力不足故です。それに、本気を出させる前に倒す方が楽で良い」
「確かにその通りです」
何でだろうか、カイザーさんとは何故か話が合う気がする。俺の実年齢を考えても年上だろうしそれで話しやすいのか?そう疑問を思うも結局その答えは出ないまま俺とカイザーさんの戦闘は始まった。
「それでは、始め!」
決して油断出来る相手ではない。そう判断して試合開始直後に未来視の魔眼を使用した俺は試合開始前に思っていた疑問の答えに辿り着いた。
「はっ!」
「魔力障壁」
確かに試合開始前の会話でカイザーさんは容赦出来ませんと口にした。だが、それでも本気で頭部、喉、心臓に速攻で突きをかまして来るとは思わなかった。
「これを防ぎますか」
「はい、防がなければ危なかったので」
未来視の魔眼で予め知っていたお陰で素早く魔力障壁を展開して完璧に対処することが出来たが一歩でも出遅れていれば危なかった。
だが、今の攻撃で何故カイザーさんと話が合うのかがよく分かった。この人、俺のことを子供として見ていないんだ。リリーとの戦いを見て完全に俺のことを警戒するべき敵と判断している。これだから、強者はやり難い。
「ドラゴンクロー、ドラゴンスケイル、ドラゴンヘッド」
「器用ですね」
「俺にはそれしかありませんから」
ドラゴンフライとドラゴンテールが使えないのは少しきついが未来視の魔眼があれば喰らいつくことは出来る。
「行きます」
そう短く言葉を溢しカイザーさんが突きの雨を正面から浴びせて来る。何か特別なことをしている訳でも魔法を使っている訳でもない。それなのに速く的確で俺は一気に防戦一方へと押し込まれる。幸いなことにドラゴンクローの強度が高まってることもあって受けること自体は可能だが長引けばそれだけこちらが不利になる。
「魔力障壁、ドラゴンスラッシュ」
「ふん!」
そう考え渾身の突きが飛んで来た所で魔力障壁を展開して動きが止まった所へとドラゴンスラッシュによるカウンターを放ったがそれも素早く戻した槍に受け止められ弾かれてしまう。
「飛ぶ斬撃、ですか」
「はい、魔法が使えないとはいえ遠距離攻撃は必要ですので」
あまり動揺していない所を見るにやはり実戦慣れしているな。人生二回目だというのに経験で負けているのは悔しいがこればかりは仕方がない。
「アレン殿、ギアを上げますか」
「そうですね、俺も少し上げます」
まだ相手の手の内を分かっていない状態で全力を出すのは危険だが向こうから誘ってきた以上は乗らない訳には行かない。そう思い、俺は極限まで集中力を高めていく。
「いざ、」
「参る」
次の瞬間、槍と爪が衝突した。ドラゴンクローに罅自体は入っていないものの先程の一撃と比べて明らかに重さが増している。それから何度も何度も槍と爪による衝突が行われるが戦況はとても良いものとは言えなかった。
そもそも、俺が体術の間合いなのに対してカイザーさんは槍の間合いであり近づくことがまず難しい。何より、それを理解しているのかカイザーさん自身の立ち回りが完全に俺を封殺しに掛かっている。
「魔力補填」
「修繕も可能ですか。なら、直す側から破壊します」
だが、何より不味いのはドラゴンクローの修繕が追いつかなくなって来ている所だ。本来なら魔力循環を使い戦闘の中で耐久度を直し続けるが一定以上の強さを持つ相手にはあまり意味がない。
その為、ドラゴンクローを破壊されない為に魔力を一方的に供給する必要が生まれて来るがそうなるととてもではないが長期戦に対応出来ない。だから、短期決戦に切り替える。
「ドラゴンブースト、ドラゴンナックル」
「ぐっ、加速した」
俺に一撃をもらい少し後退するカイザーさんだが、流石というべきか俺の攻撃に合わせて咄嗟に後ろへと飛んだ為、衝撃を受け流されてしまった。だが、手応えはあった。
「魔力を放出したことによる加速ですか」
「はい、ここからは本気で行きます」
死霊のダンジョンで学んだことを俺なりに活かして戦闘スタイルを組み上げようとした結果、俺は一つの方法へと辿り着いた。それは言うなれば超短期決戦型とも呼べる魔力消費を無視したゴリ押し戦法。
常時未来視を行いながら全ての動きをドラゴンブーストで加速させるというシンプルな戦法だがそれ故に対処は難しい。
「ならば私も、身体強化、サンダーブースト」
カイザーさんの使った魔法を見て俺は自身の選択が正しかったことを確信する。雷魔法、雷を纏うことで身体強化を行うサンダーブーストを始めとし高い攻撃力と攻撃範囲を持つのが特徴の厄介な魔法だ。空中から一方的に撃たれたらと思うとゾッとする。
「では、参ります」
「魔力障壁」
カイザーさんが言葉を発したのと同時に俺の未来視は自身を貫く五つの閃光を捉えていた。即座に魔力障壁を展開し防ぎ切ることに成功するも魔力障壁は掌サイズまで圧縮してあるにも関わらず全てに罅が入れられていた。
「ドラゴンブースト」
「くっ、読みが鋭い」
それからの攻防は
そうして俺は体内にある魔力を全力で右手の掌の上へと集めて行く。出来る限り圧縮させ凝縮させ縮小させて行く。薄く伸ばせば屋敷すら覆えるほどの魔力を攻防の中で指先サイズにまで圧縮する。本当に我ながら成長したものだ。
「これで終わりです」
「させません。サンダーラン、」
「ドラゴンロック」
「なっ!」
圧縮された魔力を見てヤバいと判断したのかカイザーさんがかなりの量の雷を纏わせて槍による高速の突きを仕掛けて来たが俺は未来視の魔眼で見たほんの少し先のカイザーさんの位置に身動きが取れないほどの細かい魔力障壁を大量に展開した。
これで俺の中にある魔力はほぼ空になったが次の一撃で倒せれば問題ない。
「終わりです。ドラゴンノヴァ」
そうして俺の放った指先サイズの小さな魔力の塊がカイザーさんに触れた瞬間、凄まじい衝撃波と共に一瞬にして爆ぜた。その威力は回収する筈だった魔力障壁を全て破り砕きとても模擬戦で使う技とは思えない程だ。
「はぁ、はぁ、はぁ、動けないな。私の負けです。アレン殿」
「そうですか、俺も魔力切れですが勝てたのなら良かったです」
膝を着き俺のことを見るカイザーさんの瞳には悔しさはあれど負の感情は一切ない。これだから、俺は竜人族が好きなんだ。
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