第31話 変わった未来

「久しぶりだなアレン。元気にしていたか?」


「はい、リリー王女もお元気そうで何よりです」



 何故か俺、リリー、メイドさんの三人だけが取り残された応接室で恐らくこの状況を作り出した元凶であろうリリーから普通に話しかけられる。この訳の分からない状況に少しだけ文句を言いたい気持ちになるが相手が相手なので俺は極めて丁寧に会話を進めようとする。だが、それがいけなかったのか次に発せられたリリーの声は先ほどよりも数段低かった。



「今は公的な場ではない。フェルン、私の横に居るメイドについても気にしなくて良い。後、私のことはリリーと呼べ。敬称も不要だ」



 さて、ここで言われた通りに口調を崩して何か言われるの可能性もない訳じゃないけどリリーの性格上その可能性は限りなく低い。寧ろ、ここまで場が整っている状態でリリーの意に反する行動を取る方がマイナスだ。そういう訳なので俺は話し方を普通に戻すことにした。



「さすがに一公爵子息でしかない俺が他国の王女を呼び捨てにするのは気が引けるけど、本人が望むのならそう呼ばせてもらう。改めて、俺に何か用かな?リリー」


「もちろんアレンに用があったとも。でなければわざわざこんな場所には来ない」



 他国の公爵家の屋敷をこんな所呼ばわりとはまだ八歳で外交的なことに見識がないのか、それとも公的な場ではないと割り切り本心を垂れ流しているのか。なんとなく後者のように思える。



「そうかな?竜人族は強者を求めるものと聞くからてっきりユリウス兄さんに用があるのかと思ってたんだけど」


「確かに勇者であるユリウスには注目はしてる。だが、アレンほどの魅力は感じない」



 ほう、随分とはっきり断言してくれるな。これがただのガキならユリウス兄さんの魅力について永遠と語っていた所だけど相手が相手なので我慢して話を進めることにする。



「そうですか。それで、俺に対する要件とは何ですか?」


「要件は端的に言うならリベンジだ。我はこれまで同年代の相手に負けたことはないし仕組まれていたこととはいえ大人にも勝ってきた」


「仕組まれたこと?」



 仕組まれたことって何だ?リリーの発言に俺は疑問を覚える。だが、その答えはすぐにリリーの口から聞くことが出来た。



「そうだ聞いてくれアレン。実は竜王国の王族には代々生まれて来た子を十年間無敗にさせるという風習があってな。目的としては無敗である十年の間で絶対的な自信と共に自尊心や驕りを持たせ十歳になった頃に敗北という名の挫折を味合わせるのだ。そこで現実を知り奮起するのなら良し、現実を受け止めきれず癇癪を起こすようなら王族としての器なしと判断される」



 それはまた、なんとも意地が悪いというか。いや待てよ、確か前の世界でユリウス兄さんがリリーと決闘して勝利したことが子供の頃にあったがもしかしなくてもリリーの初敗北ってユリウス兄さんだったのでは?



 そこまで考えて俺は現在の状況がかなり不味いものなのではないかと憶測を立てる。というか、他国の王女が自ら他国の公爵家を訪ねる時点で割と大事じゃないのか?



「もしかして、リリーに勝ったのってかなり不味かったりする?」


「そうだな、勇者であるユリウスならともかくその弟でしかないアレンに負けたことが分かれば我の王族としての地位が揺らぎかねん。というか、実際に揺らいでるからこうしてリベンジに来たのだ」



 冷静な表情でかなりヤバいこと言ってるって自覚あるのかこの王女。とはいえ、リリーの性格上地位が揺らぐなんて理由で敗北を隠すとは思えないし、ましてや俺が手加減でもしようものなら違う意味で潰される気がする。



「因みに、もう一度戦って俺が勝ったらどうなるんだ?」


「正直分からない。アレンが強く我が負けても仕方がない相手と国が認めれば問題はないし、そうでなければ一般人に負ける王女など恥以外の何者でもないからな。最悪追放されるだろうな」


「なんで、そんなに冷静なんだ?」


「ふん、知れたこと。私は強いし才能がある。そんな私に勝てるアレンにはそれ以上の才能と強さがある。ならば必然的に国も認めざるを得ない。故に、問題はない」



 事態を楽観視している訳じゃなさそうだ。どれほどの窮地に追いやられても揺らぐことのない自信と自負。何より、例え俺の強さが認められずに王族から追放されたとしてもそれら全てを自分のせいにして受け止めるだけの強さが既に備わっている。



『ほう、この自信に満ち溢れた瞳。正しく竜人だな』


『そうですね。彼女をここで終わらせる訳にはいきません。何より、勇者パーティーの戦力が減るのは避けたい』


『ならば勝て、この娘にもその先にいる者にも、誰にも文句を言わせないだけの強さを持って証明して見せよ』


『はい!』



 少し面倒な事態になったが結局やることは変わらない。世界を救う為に勝てば良い。



「先に言っておくけど手加減はしないよ」


「当たり前だ。そうでなくてはわざわざ来た意味がない」



 自惚れや慢心ではなく今の俺なら問題なくリリーに勝てる。だから、ギリギリの戦いを演じて俺とリリー、双方の実力を周囲に示すという手も取れるが今回はそれはなしだ。



 本気でリリーを倒して、もし状況が不味くなったら最悪は竜王国タレクターの戦士を引っ張り出して来てそいつを倒す。



 俺の行動で未来が変わってしまった。けど、未来を変えることは決定事項なのだから今回の件を利用してリリーを強化すれば良い。そうだ、何も悩む必要なんてなかった。俺は世界の運命を変えるのだから未来くらい全部良い方向に変えてやる。



「ではアレン、改めて私と決闘をしろ」


「分かった。その決闘を受けよう、リリー」



 俺の言葉を受けてリリーは心底楽しそうに笑う。その笑顔を見て俺もつられて笑いそうになってしまうのはこの身体に竜人の血が混じっているからなのだろうか。



 まぁ、今はそんなことはどうでも良い。世界の為に俺が勝つ。必要なのはそれだけだ。

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