第28話 デスサイズ
死霊のダンジョンの攻略を始めてから六日目、俺は今15階層のボス部屋の前までやって来ていた。
10階層のボスであったリビングアーマーとの戦闘で未来視の魔眼や向上した魔力操作能力を慣らして、11階層以降は時間を掛けて修行に専念した結果今の俺の強さはダンジョン攻略前とは比較にならないレベルまで成長を遂げている。もはや、急成長と言っても過言ではない。
でも、それで油断出来ないのが次に控えている死霊のダンジョン最後の砦にしてラスボス、デスサイズだ。
『準備は出来たか?』
「はい、いつでも大丈夫です」
竜神クロノス様の問いに俺は即座に反応する。きっちりとペース配分をし適宜休息を取っていたお陰で魔力も回復しているし、肉体的にも跡は残っているが神様と混じった体のせいか疲れは取れているし傷も塞がっている。
コンディションは最高に近くやる気にも満ちている。控えめに言っても絶好調だ。
『随分と調子が良さそうだな。恐らく、変質した体に順応しつつあるのだろう。さぁ、ここが最終試練だ。存分に暴れてくるが良い』
「はい!」
竜神クロノス様の激励に応えつつ俺はボス部屋の扉を開け放つ。部屋の作りはこれまでと特に変わることのないドーム状のフィールドで特質して語るべき所はない。
但し、空中に待機したまま俺のことを見下ろしているモンスターについては語るべきとこが多くある。
『あれが最後のボスか』
「はい、名前はデスサイズ。死霊系の魔物の中でも上位に入る存在で前の世界で挑んだ時は仲間が三人殺されました」
骸骨のような体にボロボロのローブを纏い手には大鎌が握られている。その姿は正しく命を刈り取る死神のようで感じられる魔力もこれまでの魔物とは比較にならないレベルだ。
「懐かしいな」
デスサイズの魔力が徐々に大鎌へと溜まっていく光景を見て俺の心の中には懐かしさが込み上げてくる。前の世界でもこの一撃から戦闘が始まった。前は大盾を持った前衛がこの攻撃を受け止めようとして吹き飛ばされたが今の俺は一人きりだ。それでも、問題はない
「ドラゴンクロー、ドラゴンスラッシュ」
デスサイズ同様、右腕のドラゴンクローに魔力を溜めこのまま斬撃として飛ばした俺の攻撃とデスサイズの大鎌から放たれた斬撃が空中で衝突し辺り一帯に衝撃波を飛ばす。
だが、射撃を防げたからと言って油断することは出来ない。なにせ、デスサイズが最も厄介になるのはこれからなのだから。
「ドラゴンフライ、ドラゴンショット」
『ほぅ、瞬間移動か』
竜神クロノス様の言った通り俺の放ったドラゴンショットはデスサイズが一瞬にしてその場から姿を消したことにより虚しく壁へと衝突して消えてしまう。
『次は闇魔法か』
「多芸で羨ましい限りです。ドラゴンシールド」
魔力の反応からデスサイズの位置を捉えた時には既に闇魔法によって複数の槍が展開されていた。飛んで来た槍を魔力障壁で防ぎながらこちらも負けじと攻撃を仕掛ける。
「ドラゴンブースト」
向こうに瞬間移動がある以上遠距離戦は不利になる。そう判断した俺は背中の羽から魔力を放出しデスサイズへと接近戦を仕掛けに行く。
「そんなんで壊れるほど俺の爪は脆くないぞ」
前までなら数発攻撃を受けただけで壊れていたであろう大鎌の一撃を受け止めてもドラゴンクローには罅ひとつ見受けられない。それから、幾度もデスサイズは大鎌を俺目掛けて振るってくるがその全てはドラゴンクローで対処可能であり、万が一体に直撃してもドラゴンアーマーがあるので致命傷にはならない。
「そろそろ均衡を崩させてもらうぞ。ドラゴンテール」
そう言ってドラゴンクローで大鎌を弾いた俺はそのまま大鎌をドラゴンテールで押さえ付けデスサイズの顔面目掛けて蹴りを放ち地面へと叩きつける。
もしもこれが初見の攻略だったのならデスサイズが起き上がってくるのかを確認するかもしれないが次の行動が読めている俺はすぐに未来視の魔眼を発動させる。デスサイズは自身が不利な状況になると高確率で瞬間移動を使ってくる為未来視の魔眼なら先手を打てるというわけだ。
「そこか、ドラゴンスラッシュ」
未来視の魔眼で見たデスサイズの転移先に予めドラゴンスラッシュを放ったことで防御も回避も出来ずまともに攻撃を受けてしまったデスサイズ。
「ドラゴンブースト」
今の一撃に相当お怒りの様子でデスサイズは触手のような闇魔法を無数に飛ばしてくる。威力的には当たっても問題なさそうだけど、わざわざ受けることもないのでドラゴンブーストで速度を上げて追ってくる闇の触手を全て避ける。
魔力の扱いが上達した分、飛行能力も向上しある程度の速度を出しても制御できるようになっている今の俺ならそう簡単に捕まることはない。
『離れていても埒が開かんぞ。最後の戦闘なのだから竜魔体術の真髄を教えてやれ』
「はい!分かりました」
このままもう少し様子見を続けようかと考えていた俺に竜神クロノス様からの指示が入る。確かに無駄に魔力を消費するのも好ましくはないので大人しく指示に従うことにする。
竜魔体術の真髄、それは純粋に強いこと。攻撃をしようにも薄く体全身を覆う魔力障壁と追加で展開されている防御により攻撃は通らず、魔力によって形どられたこちらの攻撃は全てが敵を切り裂き粉砕する一撃となる。
俺が使う分にはまだまだその領域には至らないがそれでも、未来視の魔眼と併用することで十分に脅威たり得る。
「ドラゴンスケイル、ドラゴンヘッド」
『その姿は正しく竜鎧だな』
「そうですね、この姿なら負ける気がしません」
ドラゴンアーマー、ドラゴンクロー、ドラゴンフライ、ドラゴンテール、ドラゴンスケイル、ドラゴンヘッド、それら全てを纏った俺の姿はまるで竜を擬人化したようであり並大抵の攻撃ならダメージにすらなり得ない。
「名付けるならドラゴンモードですかね」
これがこのダンジョンに来て俺が身に付けた技術の集大成であり、竜魔体術の基本。
俺の様子を見て焦りを抱いたのかデスサイズが斬撃を飛ばしてくるが俺はそれをドラゴンクローで弾き飛ばす。
「ドラゴンブースト」
自身の攻撃を弾かれたことで再び瞬間移動に移ろうとするデスサイズに俺は未来視の魔眼で予め位置を把握し一気に肉薄する。いきなり接近して来た俺に動揺してか動きの止まったデスサイズに俺は容赦なく連撃を放つ。
体術の理想である五体の武器かとは訳が違う。四肢は鋼を切り裂く強靭な鋭爪であり、そこに変幻自在に動く尻尾が加わり体全身を覆う鱗は一枚一枚がしっかりと密度を保った魔力障壁。羽の機動力も相まって今の俺に隙はない。
苛烈な攻撃のせいか瞬間移動をする暇すら与えられず、完全に俺の土俵から逃げられなくなったデスサイズはそれでも何とか大鎌を振るい抵抗を見せるも着実にダメージを蓄積させていき、戦闘開始から二十分が経つ頃には瀕死に近い状態になっていた。
「これで終わりだ!」
これで最後だと未来視の魔眼を使った俺はデスサイズの動きを完璧に読み切り、ドラゴンクローによるカウンターを叩き込む。結果、デスサイズは最後の力を失いそのまま地面へと墜落した。
『なかなか様になっていたぞ』
「ありがとうございます」
竜神クロノス様の言葉にようやく死霊のダンジョンの攻略が終わったことを実感する。一度は死に掛けたものの今回のダンジョン攻略で得たものは大きかった。
久しぶりに充実感を味わいながら俺は部屋に現れた帰還の魔法陣に足を踏み入れたのだった。
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