第25話 死闘

「砕け散れ!」



 空中から急降下し眼下に居たスケルトンの頭部を砕くとそれを開戦の合図とするかのように俺を取り囲んでいた魔物たちが一斉にこちらへと向かって攻撃を仕掛けてくる。



「そんな攻撃が効くとでも思うか?」



 大量のスケルトンに囲まれて入るが攻撃力はそこまでないので今は防御に意識を向けずに的確に敵の数を減らして行く。だが、数の暴力はやはり侮れない。直接ダメージは負わずとも身に纏う魔力が徐々に削られているのが実感出来る。



 それに四方八方を固められてるせいで十分に動くこともままならない。かと言ってコイツらと距離を取るには放出系の技を使う必要がありそれは魔力消費を抑えたい今の状況では使いたくない。



『闇雲に拳を振るうな。相手の動きを読み、対応に慣れ、一体倒すごとに最善を更新しろ』


「はい!」



 そうだ、竜魔体術はあくまでも魔力と体術の融合。なら、下手な技に頼らずに体術のみで圧倒するくらいの気概がなくてどうする。



「はぁ!やぁ!とぉ!」



 迫り来るスケルトンの一体を殴り飛ばしすかさず次のスケルトンを殴りに掛かる。攻撃の合間を意識して動きを繋げられるように、キレのある動きを維持出来るように、最善を模索する。



「はぁ、はぁ、きりがないな」



 何十体もスケルトンを倒している筈なのに目の前の景色が一向に変わらない。魔力の消費は抑えているが体力が何より精神面での負担が大きい。



 これまでに多くの戦場に立って来た。強い敵とも戦った。死を覚悟することも一度や二度ではなかった。そんな戦場から俺が生還できた理由、それは何よりも仲間の存在が大きい。



 気付かない背後の敵を倒してくれた仲間、負傷した俺を担いで戦線離脱してくれた仲間、強敵を前に隣に立ってくれた仲間、今この場にそんな存在は居ない。だから、自分の背中は自分で守る。目の前の敵は全て俺が倒す。



「仲間に繋いでもらったこの命、お前たち程度に渡すことはできない!」



 拳に力を込めろ、終わりの見えない戦いに恐怖するな。世界を救うのに比べればこんな試練超えて当然なのだから!



 そう思い目の前のスケルトンに拳を放とうとした瞬間、遠くの方から強力な魔力が解放されてその魔力の本流はあっという間に俺のもとへと到達しそして飲み込んだ。



「ッ!ガハッ!」



 高速で過ぎ去って行く景色に意識を奪われ気が付くと俺は壁を背に地面に座り込んで居た。チラリと強大な魔力の通り道を見ると一瞬だけ剣を振り下ろした姿で静止しているリビングアーマーの姿が見えるがそれもすぐに魔物の大群によって見えなくなってしまう。



「はぁ、流石にきついな」



 左腕から滴り落ちる血を見ながらこちらへと行進してくる魔物の群れに意識を向ける。明らかに数の減りがおかしい。恐らくは召喚系の魔法で随時補充されているのだろう。とはいえ、それにも制限はある筈だ。どの道、邪魔なコイツらを倒さないとリビングアーマーとは戦えない。



「全員まとめて蹴散らしてやる」



 どれ程の仲間が殺されようと怯む様子すら見せない魔物たちには嫌気がさすが体力を犠牲に一時間ほど戦闘を続けているとやがて視界に変化が訪れる。



「スケルトンの数が明らかに減ってるな。ここからが第二ラウンドか」



 武器を持ったスケルトンの在庫が尽きたのか魔物の種類に変化が現れる。ボーンウルフにデットオーガはもちろんのこと三メートル級の体躯を誇るボーンジャイアント、所々肉が腐り骨が見えている四足獣ヴァイアス、空中からこちらを狙っているレイスに魔法を準備しているリッチ、その数は目測でも未だ百を切らない。



 だが、変化が起きたということは確実に進んでいるということ。悲観する理由はどこにもない、故に今出来る最善を!



「行くぞ!」



 それからの戦いは苦戦を強いられることとなった。スケルトンたちとの戦闘で養って来た経験と慣れが邪魔をして体格や動きのことなる魔物たちへの対応を一歩遅らせてくることに加え、肉体的な疲労も無視出来なくなってきた。



 俺の全身を覆う魔力の鎧は攻撃を防ぐことは出来ても衝撃までは受け流せない。それに魔力を温存している分肉体的な負担はどうしても多くなってしまう。



 それでも懸命に拳を振るい蹴りを見舞い一体また一体と敵の数を減らして行く。



『攻撃が大振りになっているぞ。疲れていても集中を切らすな』


「はい!」



 呼吸を整える暇が徐々になくなって来てるのが分かる。俺の纏う魔力は相手の攻撃を通さなくても攻撃され続ければ当然壊れる。その為どうしてもその対処に追われて動きを止めることが出来ない。



「くっ、魔力障壁」



 するとそこへヘルバードが強襲を仕掛けてくる。地面から攻撃が来ないことだけが唯一の救いか。そう思った瞬間突然地面が隆起しバックステップで後ろに回避すると俺の元いた場所には土魔法で作られたと思われる棘が生えていた。



「ヘルバードにリッチ、本格的に潰しに来たか」


『いや、それだけではないぞ』


「デスナイトもですか、こんなに早く再戦することになるとは」



 上空にはヘルバードが、遠くには魔法をいつでも放てるように待機しているリッチが、そして多くの魔物を扇動するようにデスナイトも前へと出てくる。リビングアーマーは未だ動く様子を見せない。だがあの斬撃は警戒しないといけないな。



 乱れる呼吸、震える足、霞む視界、かれこれ2時間以上に及ぶ死闘で疲労もピークに達しようとしている。コンディションは最悪なのにそんな俺を敵は待ってはくれない。



「くっ」



 デスナイトの重い一撃でドラゴンクローに罅が入りその隙をついて飛んで来たリッチの火魔法を魔力障壁で防ぐと今度はヘルバードに強襲され地面を転がったところで周囲の魔物たちにリンチをくらいそれを薙ぎ払いながら体制を立て直そうとすると今度はデスナイトの飛ぶ斬撃が襲ってくる。



 他の魔物から倒そうにもデスナイトが割って入り簡単には行かず少しでも手こずれば魔法と空からの攻撃でジリ貧になる。そうして徐々に魔力補填が追いつかなくなり俺の身を守る魔力の鎧は少しずつ、しかし着実に剥がされて行った。



「ぐはっ」



 デスナイトの突きにより肩の肉を抉られ咄嗟にもう片方の腕で止血しようとして今度は火魔法の直撃をくらい吹き飛ばされてしまう。それをチャンスと見たのか俺に群がろうとする魔物の群れを見て流石にまずいとドラゴンフライで空に飛ぼうとしてヘルバードに叩き落とされる。



「はぁ、はぁ、はぁ、早く立たないと」



 力の入らない体に無理矢理力を入れて立ちあがろうとするがなんとか片膝を立てるだけで精一杯だ。そんな俺の視界にこれまで一度しか動きを見せなかったリビングアーマーが再び魔力を放ち大剣を掲げてる姿が飛び込んで来る。



「くそ、間に合わない。魔力障壁!」



 止める間もなく放たれたリビングアーマーの攻撃にせめてもの抵抗とばかりに魔力障壁を張るがそれは1秒と持たずに壊され俺は再び壁へと叩きつけられてしまう。



「あぁ、この感覚は、これが、死か」



 右肩から左腰にかけて付けられた深い傷を見ながら俺は再び死を味わうのだった。

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