第24話 モンスター部屋
「これは、前の世界なら間違いなく詰んでいましたね」
『本来モンスター部屋とはそういうものだからな』
眼下に広がる魔物の大群を眺めながら俺は竜神クロノス様の言葉に耳を傾ける。
『そもそも、ダンジョンの存在意義とは人類に対する試練の意味合いが強い。最下層まで辿り着き試練を突破したものにはそれに見合うだけの報酬を与え試練を突破出来なければ死が与えられる。その中でもモンスター部屋は特別な意味合いを持つ』
『特別な意味合いですか?』
『そう、簡潔に述べるなら理不尽な試練と言った所だな。設計上突破されるようには造られていないがごく稀にそんな試練を突破する者が現れる。遥か昔多くの種族が争っていた時代にはそれなりに居たのだがな』
モンスター部屋のことは前の世界でダンジョンに潜った際に聞いたことがあった。冒険者の間では即死トラップと同じ意味合いを持ち生還できたものは皆例外なく一流と呼ばれる冒険者になっていると言う。
果たして今の俺にこの試練を突破することが出来るのだろうか?眼下に広がる戦場には五階層のボスとして戦ったデスナイトや本来なら10階層のボスとして現れる筈のリビングアーマーまで待機している。
「竜神クロノス様、この試練俺は突破出来ると思いますか?」
『今の其方なら無理であろうな。仮に魔力消費を最小限にしたとしても持久戦では分が悪い。今も空を飛ぶ為に微量ながら魔力を消費しているのだから尚更だ』
「そうですね。それ以前に体力が持つかどうか」
スケルトンの大群を相手にするのとは訳が違う。敵の中には魔法が使えると思われるリッチや空を飛べるヘルバード、デスナイトにリビングアーマー、その他にも雑魚と呼べない厄介な魔物もそれなりに居る。現状は絶望的と言って良いだろう。でも、
「こんな所で終わる訳にはいきません。何か方法はありませんか?」
『其方に教えていない技なら幾らでもある。体内に膨大な魔力を溜め込み一気に放つドラゴンブレス、広範囲に薄い魔力を広げ探知を行うドラゴンレーダー、無数の魔力弾を生成し広域殲滅を行うドラゴンバレット』
「なら、」
『だが、それらの技を其方に教えていないのは技量的にまだ早いからに他ならない。竜魔体術を覚えてまだ数ヶ月の其方にこれらの技は早すぎる』
反論の余地がない。竜神クロノス様の正論は耳が痛いが受け止めざるを得ないのもまた事実だ。
「この状況を打開する方法はないのですか?」
『ないこともないが打開策とも呼べない賭けになる。それでも良いなら教えるが』
「問題ありません。万に一つでも可能性があるのなら俺はその可能性に賭けます」
このまま宙に留まっていても魔力切れでリンチにされるのがオチだ。かと言ってこの場にいる敵を薙ぎ払えるほどの火力が俺にはない。生き残る為ならどんな藁にでも縋ってやるさ。
『分かった。打開策を教える前に一つだけ現状の其方でも習得出来る技を先に教えておく。これは以前教えた魔力循環の応用というか本来の使い方なのだが魔力循環と魔力補填を同時に行い魔力を全身に巡らせる技だ』
「なんだか、その技の方が魔力循環な気がしますね」
『呼び方は好きにすると良い。それで本題だがそもそも魔力とは魔法を使う為のものではなく世界を回す為のエネルギーの名称だ。故に己を一つの世界と捉え魔力を巡らせばより鮮明に魔力の核心に触れることが出来る。さらには現在使用しているドラゴンアーマーなどの耐久度も常に更新され続け強度がかなり増すであろう』
それはまぁ、至れり尽くせりの良い技だ。けど、今の俺の魔力吸収の技量だとそんな絶大な効果はないように感じる。でも、ないよりは遥かにマシだ。
「それで本命の打開策とはなんですか?」
『結論から言うと死を体験することだな』
「死をですか?」
訳が分からないという感じで問い返すと竜神クロノス様はその原理を淡々と説明してくれた。
『以前にも話したが其方は既に人間ではない。我の力を取り込み人間、竜人、神の混ざり合った歪な存在へとなっている。だが、器が足らぬことに加え其方に自覚がない故に我の力を一切行使出来ずにいる』
「そうですね。未だに竜神クロノス様と同じ力がこの身に宿っているなんて信じられません」
『それは仕方のないことだ。だが、現状を打開するには無理矢理にでもその力を引き出す必要がある。とは言え、神物を取り込まなければ神力は使用出来ぬし、我の持つ膨大な魔力も我の体を取り込まなければ他人の魔力とみなされ使用は出来ない。だが、其方は一度死の体験と共に我の力を体験した筈だ。あの時の感覚を呼び起こすことが出来れば或いは魔力の核心に触れることが出来るかもしれない。まぁ、どちらにしろ賭けではあるがやってみると良い』
「随分と軽い口調で言うのですね」
『なに、其方がこの場で死ねばその時は世界が再び終わるだけのこと。それが抗えぬ未来なら今度は受け入れるさ』
それは諦観ではなく覚悟だ。一度終わりを見ているからこそ、次は世界と運命を共にするという神としての覚悟。幾度となく世界の終わりを見て来た竜神クロノス様だからこそのものかもしれないが俺に諦めるつもりは毛頭ない。
「安心して下さい、竜神クロノス様。勝って世界を救いますから」
『そうか、期待しているぞ』
それから魔力循環を発動し遅いながらも体内に魔力を巡らせた俺は死闘を始めるべく魔物の群れの中へと突っ込んだのだった。
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