第23話 転移魔法陣

『疲れは取れたか?』


『はい、もう大丈夫です』



 デスナイトに勝利した後、傷口に薬を塗り処置をしてから睡眠を取った俺はすっかり元気になっていた。いや、寧ろ前よりも体が軽い感じすらする。



『それは良かった。それで、今日はどこまで目指すのだ?』


『まずは6階層以降の魔物で腕試しをして9階層までは進みたいところですね』



 ダンジョンというのは階層が増して行くにつれて出て来る魔物が強くなるように造られている。なので一桁台の階層は遅くても今日を入れて二日でクリアしたい。



「ドラゴンクロー、傷が開かない程度に急ぎますか」



 まだデスナイトに斬られた腹の傷は完全には癒えていないので全速力で走るような真似はしない。それでも、駆け足程度の速さで俺はダンジョン内を駆け回る。



 6階層には今までのスケルトンとは別に魔法を使ってくるリッチと呼ばれる魔物も出てくるのでここからはより一層警戒を強めて行く。とはいえ、例え不意打ちであろうとリッチ程度の魔法ならドラゴンアーマーで防ぎ切れる自信はある。



「グルル」


「ボーンウルフか、肉付きなら歓迎したんだけどな」



 目の前に現れた骨だけで形成された狼の魔物、ボーンウルフを見て思わず昔した会話を思い出してしまう。ダンジョンに潜る際に良く問題となるのが食料の問題だがこれは倒した魔物の肉を食べることである程度は解決できる。



 だが、この死霊のダンジョンだとそうも行かない。何せ出てくる魔物の殆どは肉のついてない骨だけで肉のついているグールなども人型である上に初めから肉が腐っているときている。



「グラァァ」


「悪いけど、お呼びじゃないよ」



 突進してくるボーンウルフの顎にタイミングよく蹴りを入れそのまま踵落としで頭蓋骨を粉砕し止めを刺す。肉のことを想像したらさっき食べたばかりなのに少し食欲が湧く。



 だが、次に現れた魔物を見てすぐにその食欲が失せる。



「デットオーガ、これは運がないな」


『グール化したオーガか、なかなかに面倒くさそうだな』


『はい、ここら辺の階層だと一二を争うほどに厄介な相手です』



 デットオーガは単純にオーガ種が死に肉が腐りゾンビのようになった魔物だが元のオーガ自体が強いためここら辺の階層ではかなり厄介な相手として知られている。



「グォォォォ」


「ドラゴンスラッシュ」



 咆哮を上げ突進してくるオーガにドラゴンスラッシュを放つも流石に胴体を切断することは出来ず元の素体がオーガなせいか切り裂かれた体を気にすることなく突っ込んで来る。



 けど、今の俺にとってはそこまで脅威でもない。



「ドラゴンショット」


「グォォ」


「ドラゴンブースト」



 掌に作った魔力弾をオーガに放ち一時的に動きを封じた俺はそのままドラゴンブーストで加速しデットオーガの心臓目掛けてドラゴンクローによる刺突を放つ。



「腐ってるだけあって肉は柔らかいな」



 目の前で絶命するデットオーガを見て10階層までなら問題なく進めることを実感する。傷を負っている筈なのに調子は絶好調だ。これなら、今日中に10階層まで行くのも夢ではないかもしれない。



 そうして、しばらく6階層を歩いていると突然開けた場所に出た。相変わらず周囲は岩で囲まれているものの壁のあちこちに札のようなものが貼ってある。



「前にここに来た時にはこんな場所なかったんですけど」


『ダンジョンはたまに構造を変えることがあるからそのせいかもしれんな』


「そうかもしれませんね」



 そもそも、俺がこのダンジョンに来たのは時系列的に今からそれなりに時間が経ってからのことになる。その間に変化が起きていてもおかしくはない。



「敵が出てくる様子もありませんし引き返しますか」



 宝箱でもあったのなら探すのもありかもしれないが何もないならこれ以上こんな所に用はない。そう思い引き返そうとしたところで突如、壁に貼ってあった札が一斉に光り始めた。



「レイスか」



 壁から剥がれ宙を舞う札たちが徐々に魔力の輪郭を得ていく光景に俺は目の前の魔物たちに当たりをつけた。この魔物はレイスと言って物理攻撃の一切効かない相手で空を飛ぶことから厄介な敵として認識されている。



「けど、魔力が効くならドラゴンクローで殴れば良い。それに空中戦はお前たちの専売特許じゃないぞ。ドラゴンフライ」



 物理攻撃無効という厄介な能力をもつレイスだが逆に言えば魔力を介した属性魔法や無属性魔法は効くということ。なら魔力の塊であるドラゴンクローが通用するのは当然と言えた。



 ドラゴンフライで飛翔しレイスを一体、また一体と切り裂き倒して行く。一撃で倒れるせいであまり手応えがないが空中戦の修行にはもってこいの相手だ。



『かなり様になって来たな。とはいえ、本当の試練はここからだぞ』



 レイスの数が数えるほどになって来た頃、突然竜神クロノス様からそんなことを言われる。



『本当の試練ですか?』


『あぁ、下を見れば分かる筈だ』



 そう言われて下を見るとそこには倒したレイスたちから落ちた札が規則性を持って地面に張り付いていた。大きな円に内側に形成されつつある六芒星の紋様。意識してみれば札の一枚一枚から強い魔力を感じる。



『転移系の魔法ですかね』


『ダンジョンで転移魔法陣、そうなれば有り得る可能性は隠し部屋かモンスター部屋のどちらかであろうな』


「恐らく後者でしょうね。ドラゴンスケイル、ドラゴンテール、ドラゴンヘッド」



 残るレイスの数が一体になったことを確認してから俺は全身を魔力で模った竜の姿へと変え最後の一体となったレイスを斬り裂く。



 すると予想通りに魔法陣が完成し次に俺が目にしたのは百を優に超える魔物の大群の姿だった。

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