第17話 決意
「んんっ」
目を覚ますとそこは見慣れた自室のベットの上だった。何故いきなりベットの上に移動しているのか、その答えはすぐに出た。
「そうだ、修行に熱中し過ぎて魔力切れを起こしたんだった」
『目が覚めたか』
『竜神クロノス様。忠告されたのにそれを無視する形になってしまいすみませんでした』
もうとっくに子供と呼べる歳でもないのに感情的になって無茶をしてしまった自分が恥ずかしい。竜神クロノス様にも呆れられてしまったのではないかと考えたが次の竜神クロノス様の言葉でその考えは否定された。
『構わん、其方の焦る気持ちはよく分かるからな』
『地道にやるしかないと理解はしているのですが』
いずれは神物を取り込み人間をやめて強くなれると分かっていてもそれだけで勝てるほど魔王エイミー・ロゼットが甘くないことは嫌というほど理解している。揺らぐことのない地力の強さ、それ無くして世界を救うことはあり得ない。
『まぁ、そう落ち込む必要もあるまい。其方は気付いてないかもしれぬが今もドラゴンアーマーは維持出来ている。気を失ってからも魔力が回復すれば自然と体に纏うことが染み付いている。一歩一歩ではあるが確実に成長はしている筈だ』
言われて体の方に意識を傾けると確かに薄らとしかし高密度の魔力が全身を覆っていた。気付こうと意識しないと理解出来ないほどに自然とまるで呼吸をするように魔力を纏うことが出来ている。
『成長はしてるんですね』
『毎日寝る間も惜しんで修練しているのだ。成長しない方がおかしいだろう。とはいえ、根を詰め過ぎて体を壊しては元も子もない、丁度メイドが来る頃合いだ。思う存分甘えると良い』
『もう、甘えられる歳でもありませんよ』
そんな会話をしていると扉が数回ノックされ俺の返事を待つこともなくメイド服に身を包んだカリスが部屋へと入ってくる。
「ッ!目を覚まされたのですね、アレン様!」
「今目が覚めたところだよ。心配かけてごめんね、カリス」
「本当です、私がどれだけ心配したと思ってるんですか」
珍しく怒っている様子のカリスを見て少しだけホッとしている自分がいる。自分のことを心配して怒ってくれる存在がいることへの安堵、これでは本当に構って欲しくて無茶をしてた子供のようだ。
そんなことを思っているといつの間に距離を詰めたのか俺の目の前へとやって来たカリスに左手を掴まれる。
「相当疲れが溜まっている筈なのに寝ている間もずっと魔力が流れ続けていました。ここ最近寝不足のようですが、アレン様は何をそんなに焦っているのですか?」
「う〜ん、そうだね」
世界の危機を知っているからとも思うけどそれならもっと前から無茶をしている筈だ。原因はきっと勇者任命式で勇者一行のみんなに会ってしまったことだろう。
「ユリウス兄さんに追い付きたくて焦ってたのかもしれないな」
「そうですか」
嘘だ。前の世界の俺なら確かにユリウス兄さんと並び立つために努力していた。けど、今の俺から見ればユリウス兄さんだって立派な保護対象だ。並び立つつもりなんて毛頭ない。
「アレン様は変わりましたね」
「変わった?」
「はい、ユリウス様が勇者に選ばれて以降確実に変わりました」
優しい、成長途中の子供を見守るような温かい視線を俺に向けてカリスは語り出した。
「毎日行っていた剣の素振りをやめたとき、私は初めアレン様が諦めたのではないかと思いました」
「俺に剣は合ってなかったからね」
戦場に出て剣を振い続けても俺の才能が開花することはなかった。凡人の剣といつしか自分で決めつけ完結した時から俺の剣は止まっている。
「ですが、代わりに体力作りや魔力操作の訓練に力を入れるようになりました。当初は私にもアレン様のやっていることの意味が分かりませんでしたがユリウス様との試合を見た今なら良く分かります」
カリスの優しい瞳が俺を貫く。
「自分のスタイルを、やるべきことを見つけたのですね。アレン様」
「あぁ、見つけたよ。俺の意義を」
アレン・ツールに託された想い、俺にしかできないこと。世界を救うという大役を賜った以上、剣にこだわる理由もない。
「迷いの無い良い眼です。成長しましたね、アレン様」
この笑顔を守りたい。こんな優しい人が理不尽に殺される世界なんて許容できる訳がない。皮肉なことにカリスのお陰で俺は覚悟を決めることが出来た。
自分の中に感じていた違和感の正体に今になって気が付く。血反吐を吐くような努力じゃ足りなかった。家族の言うことを聞いた安全の中での修行では意味がなかった。冒険者に登録出来る十歳になるまで実戦から身を引くなど馬鹿げてる。
『竜神クロノス様、一ヶ月間でアレをものにして俺はダンジョンへと向かいます』
『分かった、我も出来る限り力を貸すとしよう』
『感謝します』
「カリス、俺もっと強くなるから」
「今のままでも十分アレン様はお強いですよ」
その日から、俺の中で何かが変わった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます