第12話 空を飛ぶ方法

 泥棒を倒した後、近くにいた騎士に引き渡した俺は被害者からのお礼とカリスからのお小言をもらい無事に服屋へと辿り着いた。



「どの服にしましょうか、アレン様」


「あくまで主役は兄さんだから目立たない服が良いな」



 勇者任命式の主役はあくまでユリウス兄さんなので俺が変に目立つ訳にも行かない。というか、着飾るような服なんて全然着てなかったから勝手もそんなに分からない。



「そうですか。他に何か要望はありますか?」



 他に要望と聞かれても変に目立たなければそれで良い。そんなことを考えていると意外にも竜神クロノス様から提案が来た。



『念の為動きやすい服装にした方が良いかもな。先日其方が勇者に勝ったことで少なからず歴史は変わった。備えておいて損はない筈だ』


『それって、襲撃を受ける可能性があるということですか?』



 流石に八歳でまだ正式な勇者ではないユリウス兄さんに勝ったところでそれが魔王に知られるとは思えないけどもしその可能性があるのなら厄介だ。けど、竜神クロノス様の考えはそうではないらしい。



『魔王はまだ動かないであろう。ただ、他の者たちは違う。少し目の肥えている者なら其方の実力とその身に纏うドラゴンアーマーには気付ける上、勇者が其方の話をしていないとも限らない』



 なるほど、つまり俺の実力を測りかねている人物に絡まれる可能性があるということか。確かに今の時期からユリウス兄さんと懇意にしている魔法士団団長の娘マリン・カーマンと騎士団団長の息子ソード・バランス辺りは絡んでくるかもしれない。



「カリス、出来るだけ動きやすい服にしてもらえる」


「動きやすい服ですか?」


「うん、堅苦しいのは苦手だからね」



 それに万が一にでも敵襲が来た際に動きづらい服を着て戦闘に支障が出ても困る。さっきの泥棒みたいに何が起こるか分からない以上常に備えておく心構えは必要だ。



『いっそのこと、修行と評して其方から絡むのもありかもしれんぞ?』


『出来るだけ目立つのは避けたいので遠慮しておきます。とはいえ、実戦経験が積めない今の環境はあまり好ましくありませんね』



 カリスが服を何着か持って来て俺に合わせている最中、俺は鏡に映る自分を見て最近の悩みについて考える。



 八歳という今の時期は自由な時間が多く修行にはもってこいだがその反面命を懸けたやり取りや実戦経験があまり積めない。



 これは実際に戦争を体験して前線で戦ったからこその考えではあるが命を懸けたやり取りはそれだけ成長の幅も大きい。逆に日々の修行だけではいくら技術を身につけることは出来ても爆発的な成長は見込めない。



『其方の兄のように騎士団にでも顔を出すか?経験値だけなら其方の方が上であろう』


『それも手かも知れませんね。もしくは夜に屋敷を抜け出すとか』


『それなら良い技があるぞ』



 割と冗談半分で言ってみたけど竜神クロノス様は何処かテンションが上がった様子でそれに応える。だが、それより先にカリスが服を選び終わったようだ。



「アレン様の要望を叶えるのならこの服が一番おすすめです。どうなさいますか?」



 黒を基調とした服で地味であるが決して浮いている訳でもない。何より、触ってみた感じ生地が柔らかく他のものよりは動きやすそうだ。



「それでお願い。カリスは先に戻ってて、俺はもう少し街を見て回るから」


「お一人で大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫、心配し過ぎだよ」



 服も選び終わったことだし後のことはカリスに任せて俺は竜神クロノス様への街の案内も兼ねて適当に街を歩くことにした。



『それで、先程仰っていた夜に抜け出すのに最適な技とは何ですか?』



 街を歩きながら俺はさっきカリスの介入で聞けなかった夜に屋敷を抜け出せる技について竜神クロノス様に問う。冗談半分で言ったことではあるが現実になれば便利なのは確かだ。



『魔力障壁を薄く展開することができ尚且つ自由に動かせるのなら我らのような竜の翼を魔力で再現すれば良い。練った魔力を翼から放出すれば推進力も得られるし空中戦にも対応可能になる』



 竜の翼の再現、確かに特別な魔法を使うことの出来ない俺が空を飛べるとしたら生物としての翼を魔力で再現するくらいしか方法はないだろう。だが、ある程度竜魔体術に触れ魔力操作に対する理解を深めた俺にはその難易度が高いことは容易に想像が付いた。



『習得にはどれくらいの時間が必要そうですか?』


『そうだな、其方次第ではあるが形にするだけでも一ヶ月は必要だろう。とはいえ、各国を巡るのならどの道必要になる。それに四年後の大会でロザリオを盗んだ後の逃亡にも必要になるだろう』



 そうだ。遅かれ早かれ必要になるのなら今のうちから手をつけておいて損はない。本当に、次から次へとやることが増えて困ってしまう。



『ならば、空を飛べることは誰にも明かせませんね』


『そうだな、正直対策などいくらでもある。そうなると空を飛ぶ修行は深夜にやるしかないな』


『また出来るまで寝不足ですね』


『其方はなかなかに筋が良い。早く寝たければそれだけ早く習得することだ』


『はい!』

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