第10話 勝者
「シャイニングショット」
「良い威力してるね」
ユリウス兄さんが放った光魔法、シャイニングショットをドラゴンクローで弾き落として俺は喜びを噛み締める。
あのユリウス兄さんと戦えているのだ。雲の上の存在だと思ってた。憧れることしか叶わないと考えていた。そんな相手と勝負が成立している。その成長は否応なく俺の胸を燃え上がらせた。
「まさかここまで強くなってるとはな。驚いたよアレン」
「俺だって、弱いままじゃいられないからね」
世界を救う為の最初の試練。きっとユリウス兄さんにはそんなつもりは一切ないのだろうけど俺はその戦いに意味を感じている。
『良いか、竜魔体術の基本技は引き裂きだが慣れてない其方では隙が大きくなる。油断はするな』
『勿論です。竜神クロノス様』
油断なんて出来る筈がない。今俺の目の前に居るのは尊敬すべき兄であり、世界を救う為に己の全てを懸けて戦った正真正銘の英雄だ。
「これは、僕もうかうかしてられないな。身体強化」
強化魔法、多くの者が扱える魔法の属性にしてやはり俺には適性のない魔法。カルライナ王国の騎士団に所属するものは大抵が使うことのできる魔法で騎士の必須魔法とも呼ばれている。
「行くぞ!アレン」
「来い!ユリウス兄さん」
勢いよく上段から振り下ろされた木剣を両手に纏ったドラゴンクローで受け止める。ドラゴンアーマーよりも遥かに硬いそれに
「随分硬いんだな、その爪は」
「一撃で
『こんな時、魔力循環を使えれば魔力の消費を抑えてドラゴンクローを修復できるが今の其方ではまだ難しかろう』
『はい、それに連撃に耐えられるかどうか』
俺の危惧はユリウス兄さんも当然理解しているのだろう。その証拠にどこか感心したような視線から俺を試すような視線へと変わった。
「これならどうかな、アレン」
「魔力補填」
淀みなくけれど激しく降り注ぐユリウス兄さんの斬撃の嵐に俺は必死にドラゴンクローで応戦する。数回斬られただけで
「驚いたな、まさかここまで強くなってたなんて」
「日々の修行の成果だよ」
とはいえ、まだまだドラゴンクローの強度が脆すぎる。でも、今この瞬間に急激に魔力操作の練度を上げることは出来ない。なら、俺の取れる手は一つだ。
「ドラゴンクロー」
「なるほど、手数を増やしたのか」
ドラゴンクローを両手だけでなく両足にも纏わせる。やってることはシンプルだけどその効果は絶大だ。なにせ手数が倍になったんだから。
『今の其方のドラゴンアーマーでも同じ場所に攻撃が来ない限り三回は攻撃を耐えられる筈だ。臆さず行け』
『はい!』
そこからユリウス兄さんは防戦一方になった。ドラゴンアーマーの防御に頼りとにかく攻める。最悪一撃は攻撃を喰らえるという心の余裕がより俺の動きを大胆なものへと変え増えた手数がそれを助長する。
俺が一歩前へ出ればユリウス兄さんは下がり、隙が出来れば足で攻撃を仕掛け向こうの攻撃はドラゴンクローで対応するか避けるかの二択。加えてユリウス兄さんは俺に直接攻撃をすれば俺は無事で自分は隙が出来ることを理解しているのかより防御寄りの動きに行動が制限されている。
「くっ、魔法を使う暇がないな」
「そっか、そうだよね」
いくら勇者とはいえまだ八歳のユリウス兄さんには激しい攻防中の魔法の発動が出来ないのか。ユリウス兄さんのような魔法も剣も使える人が大成する為に必要とされている技術の一つに戦闘中の魔法の発動が挙げられる。
本来、魔法には魔力を練る、魔力を魔法へと変換する、外部へと放出するという三つの工程が必要となる。もっと厳密に言うと威力の調整や狙いを定めるなんかの工程も入ってくるが大まかに必要とされているのはこの三つだ。
未来のユリウス兄さんは当然のように近接戦闘をしながら魔法を使いこなせてたけど今のユリウス兄さんはまだその領域まで至れてない。
それから更に激しく木剣とドラゴンクローを打ち合いやがて決着の時が訪れた。そう、木剣が砕けるという形で。
「これは、僕の負けだな」
「武器が違えば分からなかったよ」
俺とユリウス兄さんの勝敗を分けたのは武器の差だった。魔力で作られいくらでも修復が可能なドラゴンクローと身体強化により負担の掛かったただの木剣ではどちらが先に壊れるかなんて明らかだ。
「この勝負はお預けだね」
「いや、アレンの勝ちだよ。武器が壊された時点で僕の負けだ」
こういう、清々しいところは変わってないな。せめて、性格がもっと酷ければ嫉妬の一つも出来たってのに。
『良い勝負であったぞ。この戦闘で竜魔体術への理解が深まったのではないのか』
『はい、少し見えてきた気がします』
竜神クロノス様にそう返事をしながら俺は確かな感触を掴んでいた。それは強くなる為の明確なビジョン。魔力操作を極めるという竜魔体術が少しだけ分かった気がする。
「それじゃあアレン、僕はもう行くから引き続き頑張れよ」
「うん、また後でね」
去って行くユリウス兄さんの背中を見ながら俺は考える。前の世界であの小さな背中に一体どれほどのものが背負われていたのだろうか?
果たして俺に世界が背負えるのだろうか。
『竜神クロノス様、これからの修行はもっと厳しくしてください』
気付いたらそんな言葉が心の中で紡がれていた。
『良いだろう、これから更に竜魔体術をその体に叩き込んでくれる。だが、まずはドラゴンアーマーを寝ながらでも常時発動出来るようになってもらう』
『分かりました』
魔王が世界に対して宣戦布告をする六年後までに俺は世界を背負える男になってみせる。その為にはどんな努力だって惜しまない。
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