第5話 家族との再会

「ユリウス兄さんとの再会か」


『感極まって泣くでないぞ。怪しまれればそれだけでリスクとなるのだ』


「ははっ、ちょっと自信ないですね」



 ユリウス兄さんとの再会なんて本当に夢のようだ。早く会いたいな。



 着替えを済ませて皆が待つ下への向かう俺の足取りは誰の目から見ても浮かれていることが分かるだろう。



 どうしよう、緊張してきたな。第一声はやっぱりおはようからだよな。良し、大丈夫だ。俺ならしっかり言える筈。



「おはようアレン、今日はなんだかソワソワしてるな。何か楽しいことでもあったのか?」


「………」


「んっ?どうしたんだ?」


「あ、いや、えっと、おはようユリウス兄さん」


「あぁ、おはよう」



 笑ってる!ユリウス兄さんが笑ってる!



 思えば勇者に選ばれてからというものユリウス兄さんは世界の命運を背負わされて心の底から笑う暇なんてなかったのかもしれない。たまに俺と会っていた時もここまで無邪気な笑顔ではなかった。



「アレン、早く席に着きなさい」


「はい、父さん」



 父さんも元気そうで何よりだ。公爵家の当主として厳しい人ではあるけれど子供想いな人だということを俺は知っている。兄さんが魔王に殺されてから一度だけ会った時の父さんの涙を俺は忘れない。



 勇者を輩出したとして他の貴族たちから一目置かれた父さんは兄さんが死んでからというものその責任を押し付けられるかのように針のむじろ状態だった。それでも、兄さんを責めずにその死に涙したこの人を俺は尊敬している。



「今日のアレンはなんだか変ね」


「少し変な夢を見ちゃって」



 そう言って俺の細かな機微に気付いてくれたのは母さんのリアス・ツールだ。母さんはいつも俺のことを見てくれる。兄さんが光の魔法に適性を持ち称賛を集める中で、魔法が使えない俺のことを一番に抱きしめてくれたのが母さんだった。



 俺の体が現在でもそれなりに鍛えられているのはあの日母さんから「強く産んであげられなくてごめんなさい」と言われたからだ。



 いつも明るくお淑やかな母さんを泣かせない為に俺は幼い頃から剣を握った。騎士になると言った時はかなり心配されたけど結局最後まで親孝行は出来なかったな。



「さぁ、食事にしましょう」



 あぁ、懐かしい味だ。本当に温かくて手放したくなくなってしまう。



『良い家族だな』


『はい、最高の家族です』


『そうか……』



 竜神クロノス様の言葉に覇気がないのはきっと優しさの表れなのだろう。これから俺は世界を救う為とはいえ禁忌を冒す。



 一族から犯罪者を出せば当然ツール公爵家の名に泥を塗ることになるだろう。父さんも母さんも兄さんもきっと悲しんでくれる筈だ。



『大丈夫です。俺はこの光景を壊させない為にここまで来たのですから』


『心配などしてないさ』



「そう言えばユリウス。実は前々から協議されていたお前を勇者と認定する件が正式に決定した」


「本当ですか!」


「あぁ、国王陛下も異論はないそうだ」


「良かったわね、ユリウス」



 そうか、今報告が上がったということは数ヶ月後には各国の重鎮を招いての正式なパーティーが行われることになる。その時に嘗て英雄と呼ばれていた彼らに会えるのか。



「おめでとう、ユリウス兄さん」



 本当はおめでたくなどない。勇者として祭り上げられた兄さんの末路を俺は知っている。



『勇者か、そう言えば人間には勇者と聖女が居たな』


『はい、代々光魔法を持って生まれたものが国を守る為の盾として勇者の称号を受け取り、聖法国では神聖魔法を扱える者には聖女の称号を与えることとなっております』


『フィラーの気まぐれがこんな形で現れておるとは些か複雑ではあるな』



 んっ?霊神フィラー様と言えば魔法を司る神様だがなんでここでその話が出て来るんだ?



『竜神クロノス様、光魔法と神聖魔法には何か特別なルーツのようなものがあるのですか?』


『いや、フィラーの奴が思い付きでレアな魔法の属性を作ろうとか言い出しおってな。光魔法、闇魔法、神聖魔法はそれぞれ世界に一人しか扱えぬ代わりに他の魔法よりも強い効果を持っておる』



 うっ、それはなんというか聞きたくなかったかもしれない。というか神聖魔法を崇拝している聖法国の人たちなんかはこの話を聞いただけでブチ切れそうだな。



「どうしたのアレン、あまり食事が進んでいないようだけど?」


「ううん、何でもないよ。少し考え事をしてただけ」


「そう、なら良いけど」



 少し竜神クロノス様との会話に集中しすぎた。ここで怪しまれるのは不味いし出来るだけ自然な感じを心掛けないとな。



「本当に大丈夫か、アレン」


「うん、本当に大丈夫だよ。ユリウス兄さん」



 そう、大丈夫。もう兄さんに世界を背負わせたりはしない。魔王は俺が倒す。



「ご馳走様でした。俺はしばらく部屋に居ますから」



 家族で過ごす時間は本当に温かくて楽しかった。けど、この幸せを満喫してばかりも居られない。皆の顔を見てそれを再確認出来た。



『竜神クロノス様、早速今後の方針について考えましょう。修行も今日から始めたいと思います』


『そうだな、と言っても我の中では既に方針は決まりつつある。後は其方の意見次第だ』



 意見か。必要以上に皆を傷付けないのならなんだって構わない。世界さえ救えればそれだけで良い。

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