第4話 救いたいメイド

 世界を救う決意を固めたは良いものの現状を理解していないことには何も始まらない。という訳で俺は竜神クロノス様に今の現状を聞くことから始めた。



「竜神クロノス様、俺が今何歳なのか分かりますか?」


『そうだな、其方は今八歳であり時間にして十二年ほど時が戻っているようだ』



 俺が死んだのが二十歳で兄さんが殺されたのが十八歳の時だ。それに八歳と言ったら兄さんが正式に国から勇者として選ばれた年齢でもある。



「時間はありますね」


『うむ、我は力を回復していた故全てを知っている訳ではないが確か魔王が世界に宣戦布告したのが今から六年後のことであったな』


「はい、その頃には既に魔王は兵力の準備を完了していたと言っていました。もしかしたら既に魔神の欠片を取り込んでいるのかもしれません」



 あの魔王のことだ。既に魔神の欠片を取り込んでいてもなんらおかしいことはない。



『最善なのは魔神の欠片を取り込まれる前に魔王を倒すことであったが既に取り込んでいたとすれば我らが殺されるリスクの方が遥かに高い』


「それに、既に知っている歴史を下手に変えれば対策が出来なくなるかもしれません」


『それについては同意だな。だが、どの道其方が我の権能を扱う為にはそれ相応の時間と準備を要する。権能以外での修行はつけてやるが世界の敵になることは免れんぞ』



 有難い話だ。神々の中でもトップクラスに強いと謳われている竜神クロノス様直々に修行をつけてもらえるなんて願ってもない。



「覚悟の上です。あの地獄に比べればなんてことはありません」


『よく言った。では今後の方針について話し合うとするか』



 どんなことがあろうとも俺は世界を救ってみせる。そう意気込んでいざ話をしようとしたところで部屋の扉がノックされメイドが入って来る。



「アレン様、おや?もう起きていらっしゃったのですね」


「カ、カリス…なのか?」


「はい、何をそんなに驚いていらっしゃるのですか?」



 カリス、本当にカリスなのか。俺が知っているよりも随分と若く見えるが、それも当然か。



 彼女は魔王が世界に宣戦布告したのと同時に魔族になってしまい殺されてしまった。



『メイドか、お主なかなか良いところの出のようだな。あぁ、心の中で話しても会話は出来る故声に出す必要はないぞ』


『はい、こんな感じでしょうか』


『そうだ。それでお主は良いところの出なのか?それによって取れる方針も大分変わって来るぞ』


『一応、カルライナ王国の公爵家出身です。五歳の時に魔法が使えないと判明してからは期待されていませんがそれなりに自由の効く身分ではあります』



「アレン様?いきなり黙ってどうされたのですか?何やら考え事をされている様子ですが」


「な、なんでもない。それよりも起こしに来てくれたんだよな」


「はい、お着替えが済みましたら下まで降りて来てください」


「分かった。わざわざありがとう」


「いえ、それでは失礼いたします」



 そう言って部屋から出て行ったカリスの後ろ姿に俺は涙を抑えるのに必死だった。今の今まで何処か実感が湧かなかったがカリスの顔を見たら本当に戻って来たのだと実感することが出来た。



 でも、課題も増えてしまった。



『あの銀髪のメイド、魔人なのか?』


「はい、彼女は魔人です。今から六年後に行われる魔王による宣戦布告と同時に魔族となり殺されてしまいます」



 あの光景は今でも鮮明に覚えている。魔王が世界征服の為に一番初めに行った最悪の政策。大切な民である筈の魔人を魔神の権能によって洗脳し作り変えたのだ。



 嘗て戦争をしていたとはいえ今では禍根こそあれど各種族が国々が同盟を組んでいる。そのお陰でカリスも魔人でありながら公爵家で働くことが出来ている訳だがそうなると魔王に反感を持つ魔人だって当然居る。



 それを許せない魔王がやった最悪の所業こそが洗脳と作り変え。魔王国ナパルタス以外に居る魔人を魔物と組み合わせたようなキメラとし各地で暴れさせた。



 魔王に従った魔人も強化という名目で魔物と混じりそれを魔王は魔族と呼んだ。



「竜神クロノス様、魔族となった魔人を元に戻す方法はありますか?」



 カリスは俺が幼い頃から専属メイドとして側に居てくれた姉のような存在だ。五歳の時に魔法が使えないことが分かった時にも俺のことを避けることもなく普通に接してくれた。大切な姉であり恩人でもある彼女を再び失うのなら俺に時を超えた意味はない。



『うむ、あるにはあるな』


「ッ!本当ですか!」


『あぁ、本当だ。獣人の国である獣王国バステトに世界の法則を一度だけ書き換えることの出来るアニマラの神器があった筈だ。それを使えば全ての魔族を魔人に戻すことが出来るであろう』


「なら、」


『だがそれは獣王国に真っ向から戦争を仕掛けるようなものだ。国の神器を奪うことは大罪であるし、どの道人の身では神器を扱うことはできない。神器の使用には神の扱う力である神力が必要だからな』



 まぁ、当然そうなるか。どの種族も自らを創り出した神様に信仰心を持っているし所属している国を大切にしている。神器を奪うということは神への反逆行為であり許されざる所業だ。



 だが、それがどうした。



「今更ですね。俺は魔神となった魔王を倒す者。この身は既に人ではなく、世界の為とはいえ竜神クロノス様の欠片を取り込みあまつさえ行使しようというのです。世界を救う為ならばどんな禁忌だって冒しましょう」


『そうか、ならば其方には世界最大の禁忌を二つとも冒してもらう。覚悟はあるな』


「もちろんです」



 世界最大の禁忌。それは神殺しと神になること。人の身でありながら神の領域へと至り神を殺す。文字通り世界の全てを敵に回す行為だがそんなの関係ない。



『本当に苦労を掛けるな。せめて今はこの時は家族との再会を噛み締めると良い』


「お心遣い感謝します」



 待っててくれ兄さん。それに父さんも母さんも、俺が世界を救うから。

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