第6話 今後の方針
部屋に戻っていた俺は早速今後の方針についてクロノス様と話し合っていた。
「それで、二つの禁忌とは具体的にどうやって冒せば良いのですか?」
聞き方というか質問内容そのものがヤバすぎる気もするがそこは考えたら負けだ。俺がこれから冒すことになる二つの禁忌、神殺しと神になることはどうすれば出来るのか。まずはそこからだ。
『そうだな、神殺しは簡単だ。 竜王国タレクターに安置されている我の肉体を其方が取り込み我の力を完全に行使出来るようになってもらう。その過程で我は本当の意味で神ではなくなる。故に神殺しだ』
神殺しっててっきり魔神になった魔王のことを言ってるのかと思ってたけど竜神クロノス様のことを言ってたのか。でも、そうなると
「あの、その場合竜人族の反応はどのようなものになると予想されますか?」
『当然怒り狂い、どんな手を使ってでも其方を殺そうとするであろうな』
ですよね。自分たちが崇拝する神を殺されて力を奪われたと知ったら国を挙げて殺しに来るに決まっている。
『だが、我の肉体を取り込むのは本当に最後だ。その前に其方の体を完成させる必要がある』
「体を完成ですか?」
『左様、今の其方では例え我の肉体を取り込んでも負荷に耐えきれずに死ぬのがオチだ。我の肉体を取り込むには最低でも半人半神となり神力を扱えるようになっていなければならぬ』
それはそうか。竜神クロノス様の肉体を取り込むのに今の俺が耐えられる筈がない。
「どうすれば、俺は半人半神になれるのですか?」
『言ったであろう、禁忌を冒す。人の身で神になる方法など神物を取り込む以外にはない』
んっ?確かにそれは正しいのだろう。修行や努力でなれない以上俺が竜神クロノス様の宝珠を取り込んだように神物を取り込むしかない。そこまでは理解できる。
でも、
「あの、神物を取り込んだら結局負荷に耐えきれず死んでしまうのではないですか?」
人の身で神物を取り込めば普通は死んでしまう。それは竜神クロノス様の肉体であっても他の神物であっても変わらない筈だ。
『其方の言うことは確かに正しい。だが、手順を踏めばどうにかなる筈だ」
「手順ですか」
『うむ、まずは初めのステップとして神物を取り込まずに其方の中にある我の神力を微量でも扱えるようにする。当然今の其方がどれだけ努力しようともそんなことは出来ないがマリアの作ったロザリオがあれば可能になる筈だ』
女神マリア様の作ったロザリオ。思い当たるものはある。聖法国ミラーレスで代々聖女となるものに託されるとても神聖なロザリオ。
現在では聖女として選ばれたアリアが持っている筈だ。
「それを奪えば、神力を扱えるようになるのですね」
『左様、とは言えそれも微量なものだ。だが、神力を扱う感覚を身に付け我の権能を幾つかでも行使出来るようになれば相性の良い神物くらいならギリギリ取り込めるであろう』
「相性の良い神物。もしかして女神の雫のことですか」
『よく分かったな。女神の雫はバハムートが生まれる前の各種族間での戦争が激化した時代に出来たものでな、確か神に近づくことが出来る筈だ。本来の用途である神聖魔法の進化ではないが世界を救う為ならマリアも許してくれよう』
女神の雫はこの世界で一番有名と言っても良いほどに広く浸透している神物だ。女神マリア様を信仰する女神教の総本山である聖法国ミラーレスの神殿に安置されているこれまた盗んだら人間族全てを敵に回す代物だ。
「もし、女神の雫を盗むとしたら魔王が世界に対して宣戦布告をした直後が望ましいですね」
『ほう、何か理由があるのか?』
「竜神クロノス様なら既にご存知だとは思いますが聖法国ミラーレスには魔物と敵意あるものを拒む結界が張ってあります」
聖法国ミラーレスが他の国々から一目置かれている理由として聖結界が挙げられる。その正体は聖女の扱う神聖魔法を参考として作られた魔道具であり聖法国ミラーレスが大きな発言力を持つ要因の一つでもある。
だからこそ、魔王はそこに目をつけた。
「魔王は宣戦布告をした後すぐに聖法国ミラーレスの聖結界を破壊し地上に安息の地はないと知らしめました。当初、魔人が魔族となり国の内側で暴れ出した際も聖法国ミラーレスに逃れようと企むものが多かったのですがその思考を先読みし潰した形となります」
『なるほど、女神の雫を盗むことは間違いなく敵意ある行動であるが聖結界が壊されれば関係ないか。ならば神樹の実はその後だな』
あぁ、神樹の実も盗むのか。でも、半人半神になるなら必要なことだよな。
「神樹の実にも手を出すのですね」
『あぁ、エルフたちはブチ切れるであろうがフィーラなら理解はしてくれよう。持ち主本人が許可を出すのなら問題はない』
いやいや、問題しかないですからね。ていうか、女神の雫、神樹の実、竜神クロノス様の肉体、獣神アニマラ様の杖、そして魔王への敵対、本当に全種族を敵に回してるじゃないですか。
「俺、多分歴史上で最もヤバい犯罪者になりますね」
『それも覚悟の上であろう。まぁ、神物を取り込む前にまずは我の戦闘スタイルを身に付けロザリオを盗むのが先だな。その時までに偽りの身分を完成させる必要もあるが』
「それならば、十歳になれば冒険者になれますのでそこで偽りの身分を作りましょう。現在ロザリオは聖女が所有しておりますので今から四年後に行われる大会で奪う機会があるかと」
聖女として選ばれたアリアはロザリオをかなり大切に持っているし当然護衛騎士たちも常に側で待機している。勇者一行として旅する際は兄さんや他の英雄たちがその役目を担っていたが魔王が宣戦布告する前ならある程度警備も手薄だろう。
「その大会でロザリオを盗む機会があるのだな」
「はい、その大会の優勝者には聖女が直々に優勝トロフィーを渡すことになっております。その際は護衛もなく大勢の者がいるので世界を捨てるには良い機会かと」
魔王に万が一にでも俺たちの目的がバレるわけにはいかない。だから俺は兄さんに嫉妬して力に取り憑かれた犯罪者を演じる必要がある。
『大会での優勝か、元の歴史では誰が優勝したのだ』
「………兄さん、勇者ユリウスです」
『ならばお主は四年でそれを超え、更に各国の精鋭から逃げ切れるだけの実力を付ける必要があるわけだ。並大敵のことではないぞ』
「覚悟の上です」
例え世界の敵になろうと皆が笑って過ごせる世界を取り戻す。その為なら兄さんだって超えてやる。
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