第6話 暴かれた素顔

翌々日、俺は菊田さんと話をしようと誰よりも早く教室についたのに、学年主任に図書委員の仕事を押し付けられ気がついたら朝の会が始まってしまっていた。

その後の休み時間の度に接触を試みたが、菊田さんが他の女子と話していたり、

佐藤が絡んで来たりして、諦めかけているうちに昼休み開始のチャイムが鳴ってしまった。

俺はすぐに立ち上がり、菊田さんの席に向かった。しかし、俺の行く手を阻むものが現れた。

「川島〜ちょっといい?」

そこにいたのは宮城さんだった。

「…図書委員の話?すぐにおわるならいいよ?」

俺は少々苛立ちを感じながら言った。

「あっ、違うの超個人的な話。」

宮城さんはそういうと、俺の目の前にスマホの画面をつきだした。

俺はそこに写っているものを見て驚いた。

そこにいたのは一昨日の菊田さんと俺だった。

「お、おい。なんでこんな写真があるんだ。」

「ねえ、やっぱりこれは愛音ちゃんと川島なの?」

これは俺が勝手に答えていいものだろうか。

そこに菊田さんが何人かの女子と一緒にやってきた。

「やっときた。ねえ、愛音ちゃん。これは愛音ちゃんでしょ?」

「何がー?」

菊田さんは聖母のような笑顔で現れ差し出されたスマホの画面を覗きみたが、

「…えっ、なんでこの前のライブのときの写真が?」

写っているものをみて俺と同じように驚いた。

「やっぱり、このリクくん推しはあんたなのね!!」

突然宮城さんが叫んだ。

その声がかなり大きかったため、教室でお昼を食べようと準備していた人たちがこちらに注目し始める。

俺はその空気に負けじと宮城さんに問いかけた。

「おい、その写真はどこから手に入れたんだ。」

「かなっていうネッ友がこの写真に写ってるやつあんたと同じ学校の可能性ない〜ってこの写真送り付けてきたの。かな、うちらと共通のネッ友ったみたい。」

かなという単語を聞いた瞬間菊田さんの肩がびくんと跳ねた。

俺もびっくりした。

「ねえ、愛音ちゃん。うちと初めてあったときにうちがリクくん推しで同担拒否なんだ〜って言っても私はジュエボなんて全然知らないよ〜とか言ってたじゃん!!なのに何で横浜まで会いに言ってるの?!しかもリクくん推しでリアコらしいじゃん!

同担ほんっと無理!!同じクラスにいるだけで吐き気がする!!」

その言葉に菊田さんはカチンときたらしい。

「何よ、そっちが同担拒否っていうから嘘をついたのに。」

「あの…同担拒否ってなんですか…。」

俺がおずおずと手を上げると二人から冷たい目線を向けられた。

「推しが同じ人のことを同担って言うの。それを拒否するから、推しが同じ人とは関わりたくないってことよ。」

呆れながらも菊田さんが説明してくれた。

「でも、あんたが嘘をついている理由はそれだけじゃないでしょう?」

宮城さんはそういうと、顎で黒板の方をしゃくった。

黒板にはいつのまにかスクリーンが貼られていた。

その大画面に写っていたのはあいねるのダンス動画だった。

「え…」

菊田さんの顔から笑みが消えた。

教室内の空気がざわつき始めた。

「ねえ、私この子ティクティクでみたことある〜。」

「愛音ちゃんなの!?雰囲気全然違うね〜。」

「ジュエボ好きなんだ〜マジか〜」

「だから男子の理想が高いのか〜」

宮城さんが再び口を開いた。

「この前、たまたまティクティクみてたらおすすめに出てきたの。始めはなんか同担いるな〜って感じだったけど、何度もおすすめに出てくるうちに、どっかでみたことあるな〜って思ったの。そんなときにかなたんと知り合って、あんた女子高生だよね〜こいつ知ってる〜?あいねるってやつなんだけどって言われたの。それでピンときたのよ。」

宮城さんはショックを受けている菊田さんに詰め寄った。

「ねえ、嘘ついて、自分を偽って、愛想振りまいて、誰かに好かれて楽しい?」

菊田さんは何も答えなかった。肩が小刻みに震えている。

「はあ?なんとか言えや!この裏切り者!!」

宮城さんが菊田さんの胸ぐらを掴んで揺らし始めた。

「おいっ!!」

「何事ですか!?」

教室の前扉から担任が現れた。

俺はほとんど反射的に菊田さんの手を掴み、教室の後ろの扉から飛び出した。

「ちょっと!川島くん!菊田さん!」

担任の声も教室のざわめきも、もう何も俺たちには関係なかった。





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