第5話 愛の伝え方
ライブは大成功だった。俺の目から見ても。たった一つ気になったのは、リクくんが乗り物に乗って最初に現れてから、菊田さんがあまりキラキラした表情を見せなくなったことだ。
そのあとも二回ぐらいリクくんが乗り物に乗って俺たちの目の前に現れたが、菊田さんは大きくうちわを降ったかと思うと、諦めたようにおろしてしまうことを繰り返していた。
規制退場が行われ、俺たちは最初の方にアリーナを出た。
「いや〜ジュエボのライブ!噂には聞いとったけどやっぱ最高やったわ!!メンバー全員イケメンやし、トークガチおもろいし、演出も神ってた!!!なあ、愛音ちゃん。」
「そうですね…」
「…なんや、元気ないな。ファンサ貰えないだけで落ちこまんといてや!愛音ちゃん夜公演も入るんやろ??」
「あのさ、いつのまに二人は仲良くなったの?」
思いきって聞いてみた。
「ああ、あんたが突然トイレ行きたいとかゆうて開演5分前にダッシュしたときや。
まさかこんなべっぴんさんが隣に座っとるとは思わんかったわ〜。しかもめっちゃいい子やし。」
そういえば開演直前の菊田さんの衝撃発言に驚きすぎて頭を冷やそうと思わずトイレに走ってしまったことを思いだした。男子トイレが
「なあ、愛音ちゃん…。」
「あいねる〜ここにいた〜なんでLINE反応してくれないの?」
姉貴がさらになにか言おうとしたとき、聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこにはライブの前にも会った青色のワンピースと赤と黄色のスカートの女性のコンビが立っていた。
「てか、なんで芋男がここにいるの〜?あとそのギャル誰〜?」
「たまたま、席が隣だったのよ。」
「ふえ〜そんな偶然あるんかー。てか、みて、うちらセンター席花道真横でさー。大優勝しちゃった!」
そう言って彼女たちが差し出したのは、いろんな色の長いテープだった。
「マジでヤバかった!!トロッコちょうど目の前で止まるからファンサ神放出!!」
「エイトくんにもリクくんにも気づいてもらえたの〜!!」
リクくんという言葉をきいた瞬間、菊田さんの肩がぴくんとした。
いつのまにか俺たちは人気のないところに来ていた。
「てかさ〜ここ誰もいないからうちらだけの秘密ね?」
水色のワンピースの女性がそういうと、スマホを取りだした。
そこから聞こえてくる音声に、俺と姉貴と菊田さんは驚愕した。
「え…これって…」
そこから聞こえてくるのはついさっきまで聞こえてきたジュエボの歌声だった。
「おい、ライブの盗聴は禁止されているだろ!!!!」
「あんたらなにやっとん?!!」
俺と姉貴は声を張り上げ、菊田さんは言葉を失っていた。
「え〜だって、バレなきゃ犯罪じゃないじゃん。本当はメンバーの顔とか撮りたかったけど〜位置的に無理でさ〜。」
「お前、バレたらもうライブにいけなくなるかもしれないんだぞ!!」
「せやで。それに盗聴をするようなファンがおるって知ったらメンバーはどう思うんやろうな!!」
「…それは…」
その言葉に、赤と黄色のスカートの女性が少し怯んだ。
しかし水色のスカートの女性は構わずに話し続けた。
「別にいいじゃん。これでソラくんたちのライブでの歌声を永遠に保存しておけるんだよ。うちはソラくんのことが好きなんだもん。…あーあ、もうめんどくさいから、お昼食べに駅もどるわ。ほら、みな、あいねる、いこ。」
みなと呼ばれた赤と黄色のスカートの女性は歩きだした。
しかし菊田さんは動かなかった。
「…あいねる?」
「…盗聴なんてよくないよ!ライブは滅多にないから楽しいんじゃん!推しとファンと同じ空間で、その一瞬に感じた声を、思い出を、心に刻みつけられるから楽しいんじゃん!!!盗聴なんて、よくないよ…」
菊田さんは声を荒げた。
「…なにその綺麗事。あんたみたいな弱オタに言われたくないんだけど〜。
あんた、グッズ全然持ってないし、確定ファンサももらえてないし。そんなんでリアコ名乗るなよ。推しが好きならもっと貢げよ!」
「愛は金ではかるもんちゃうやろ!!!」
姉貴が叫ぶ。
「ウザ。」
水色のワンピースの女性は身を翻して歩きだした。
「…かな!」
その少しあとに赤と黄色のスカートの女性が続いた。
残された三人の間には気まずい沈黙が残っていた。
「……ごめんなさい。」
沈黙を破ったのは、菊田さんのか細い声だった。
「愛音ちゃん…」
姉貴が菊田さんの腕を掴もうとしたが、菊田さんはその手を振りほどき歩きだした。
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