第4話 キラキラした世界で
「ごめんなさい!」
「え?」
まさか謝られるとは思わなかった。
「…あの子たち、ちょっと口が悪いから…。あんまり気にしないで。それに私は、読書オタク、悪くないと思ってるよ!!」
「…本音をいっていいんだぞ?」
「これは本音!!」
そんな話をしながら、彼女は俺の隣の席についた。
「…で?ひねくれてるお友達は?てっきり一緒かと思ったわ。」
「…あの子達は連番で、私は色々あって今日のこの公演は単番なの。次の夜公演は一緒に参戦する。」
「まって、連番とか単番ってなんのこと?あと参戦って、これからいくのは戦なのか??」
「…連番は番号が連なってるって意味、つまりこの場合だと並んだ席で一緒にライブに参加すること。単番はその反対だから、今の私みたいに一人で参加すること。
…参戦は別に戦に行くんじゃなくて、単にライブに参加することをいうよ。
推しと一緒に盛り上がったり、歌ったり、体使うから戦みたいなんじゃないの?」
「なるほど。菊田さん、説明うまいな。」
「オタクは推しの魅力を伝えようと思ったら自然と説明うまくなるんだよね。」
「その気持ちはわかるぞ。」
俺だって好きな本の感想をうまく他人に伝えようとしたら、表現とかいちいちこだわってしまう。
「…そっか、川島くんは読書オタクか。」
彼女は話しながら、カバンから色々なものを取り出していた。
姉貴が振り回していたようなペンライト。何かが書かれたうちわ。
「…そういえば、菊田さんって誰が推しなの?」
「色で当てて見て?」
そう言われて、パッと目に入ったのは、菊田さんの履いている真っ赤なスカートだった。
「赤色担当の…名前なんだっけ?」
「リクくんね。私、リクくんのリアコだから。」
「へえ…リアコってなに?」
「…川島くんって、本当にこの界隈のこと何も知らないのね。…私、リクくんのことが好き。こう言えば、わかる?」
「うん?」
よくわからない。でも、今の菊田さんの言い方、最高に可愛かった。
まるで本当に恋しているみたいな…本当、リアル…え、
「リアルに恋してる、ってことか?」
「正解。川島くんにしてはやるじゃん。」
俺はびっくりして、ペンライトを落としてしまった。
「僕たち5人で、せえーの、」
「「「「「ジュエリーボーイズでーす!!!!!」」」」」
気がつくと会場が暗くなって音楽のボリュームが大きくなっていて、本人たちが現れて歌っていた。
情報が0の状態で会場に飛び込んだ俺が感じたこととして、まず、本人たちが現れたときの歓声がすごかった。この歓声だけでアリーナ揺らせるんじゃないかと思ったくらいだ。
次に歌が上手い。一人一人がかなり上手いのももちろんだが、5人全員であわさったときにめちゃくちゃよく響くのだ。
そして…メンバー全員、男の俺からみてもイケメンだ、かなり。
特に赤色担当、つまり菊田さんの好きな人が、目がデカくて、鼻筋くっきり、外国人を思わすタイプの男だ。
…やばいな、このグループ。
そして彼らは今、俺たちの目の前、バックステージにいた。
「今日は横アリ初日!!みんな盛り上がって行こうぜーー!!!」
「「いえーい!!!!!」」
俺の隣から、テンションの高い声がする。菊田さんと姉貴だ。よくみると手を繋いでいる。いつのまに仲良くなったんだ。
俺はあえて菊田さんの方をライブ中見ていなかった。あんな衝撃的な発言をされたあとに、好きだったかも知れない人をみたらいろいろ考えてしまいそうだから。
菊田さんがこんなにテンションが上がっているところなんて、高校のクラスの奴らは見たことないだろう。
…なぜ菊田愛音さんは学校の中と外でキャラクターを変えているのだろう。まるで仮面を被っているみたいに別人だ。
そして、今オタクをやっているときの方が断然に可愛いし、心の底からキラキラ楽しそうに笑っている。
…絶対、今の菊田さんがいい。少なくとも俺は今の菊田さんが好きだ。
…これは、やっぱり恋なんだろうか。
「キャーッ!!リクくん!こっち!!」
その声で我に返ると、菊田さんがなにかが書かれたうちわを胸の前に掲げながら叫んでいた。
その視線の先には大きな乗り物に乗ったリクくんがいた。
ほんの一瞬だけ目があった気がしたが、すぐに前の席の方に手を振りはじめた。
「…リクくん…」
その時俺が拾い上げたのは、菊田さんの少し悲しそうな声だった。
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