第2話プロローグ2

「なあ、一ノ瀬だったか?話をしないか?」


 急に声をかけてきた人がいた。目の前には1人の男子と2人の女子。そのうちの一人が声をかけてくれたみたい。これはもしや、友達のグループに入れてくれるイベントかな!?


「言葉くん、何かな?」

「一ノ瀬は一人で居ただろ?グループが出来上がった後に教室へ入ってきたし、友達を作れる雰囲気じゃなかっただろ?友達を作りたそうだったから、どうせなら仲良くしたいと思ってな。」

「うん、うん!ありがとう!ボク、もうボッチ確定かなって思って手諦めてたよ!よろしくね!」


 何と友達イベントだった!ワッショイ!!ボッチ確定からの逆転。


「やっぱりだったね。気まずそうにしていたし、声かけて成功だったよ。」

「そうだな。私もあんな状況でグループの輪に入れる自信がないから、こうしてあげるべきだったな。」


 友達になろうと言ってくれた最初の男子が言葉ことは夢声むい。自己紹介で強くなるために入学してきたって言っていた気がする。

 

 隣の女子は深山みやま高谷ここ。家庭事情とか相まって入学してきたとか。つまり私と同じような経緯だね。共通点があるから仲良くなれないかと思ってたんだよね。

 

 そして最後は秋之あきゆき花梨かりん。なんでもお家が道場を開いていて、言葉くんのように強くなるために入学してきたらしい。家の人からも言われていたらしいけど、本人が望んでいたことなので苦痛ではないみたい。また、この子にも似た共通点があって話したかったんだよね。


「早速なんだけど、一ノ瀬の話聞かせてくれないか?自分の事をボクって言ってるから気になってたんだよな。」

「ああ、これはお父さんから言わされてるんだ。ボクの家、昔は剣道の教室開いてて、お父さんに男の子のようにしろって言われてたの。秋之さんは家が道場を開いてるんだよね?そういうの無かったの?」

「私の所はなかったな。男だの女だの言う所ではなかったからな。だが、未だにそういう所があるのは知ってる。」


 そうなんだ。武道関係の所はすべて同じかと思ってたけど違ったんだ。ボクの家って厳しかったのかな?


「それで、入学してきた理由は?私達以外誰も言ってなかったんだけど、教えてくれる?言いづらい事なら別に言わなくていいよ。」

「理由は深山さんと一緒だよ。ボク今一文無しなんだよね。」

「もしかして、家を追い出されたり?」

「そうじゃないんだよ。両親が交通事故で亡くなって、今年の2月に最後の家族のおじいちゃんが居なくなって春までに中学校の授業料と生活費でちょうど無一文になっちゃったんだよ。中学生で働く事も出来なくて、お金が増える事は無くって、ここに入学できなかったら本当に野垂れ死ぬるところだったよ。」

「そ、そうだったんだ。悪いこと聞いちゃったね。」

「別にいいよ。ボクとしては笑い話にしてもらった方が楽だからね。」


 ははは、笑い飛ばせば私はあまり気にならなくなる。昔から辛いと感じることがないせいで今回みたいなこともあまり気にならない。むしろ、憐れみの視線を向けられる方が辛いので、そういうのはやめてほしい。


「そういえば、一ノ瀬はなんで倉世先生と教室に入ってきたんだ?」

「入学式にいなかったよな?」

「寝坊と時間の確認忘れで遅刻しちゃったんだよ。いやー、入学式に遅刻は印象が悪いからボッチかなって思ったよ。」

「それは大変だったね。でもそっか、入学式参加しなかったのか……てことは、理事長先生のあれを見てないんだよね?」

「あれって、裸の事?」

「は、裸!?ちょ、どういう事だ!?なぜ破廉恥な話になるんだ!?」

「遅刻した後体育館に行ったんだけど、なぜか理事長さんが裸で寝そべってて。」


 あれって言うから、それの事だと思ったんだけどな?もしかして、体育館の惨状に事を言ってたかも!?裸の方が印象的で忘れちゃってた。


「もしかして、体育館がめちゃくちゃになってたことの方?」

「そっちだよ!?いきなり変なこと言うからびっくりだよ。」

「いきなりすぎて俺話に入っていけなかったわ。」


もちろんそっちのようでした。いきなりこんな話をして三人ともごめんね?


「その事なんだが、一ノ瀬は何があったのか知らないんだよな?」

「うん。体育館が半壊状態になっててびっくりしたよ。入学式に何かあったんだよね?」

「それが、理事長の言葉と同時に本人が襲い掛かってきたんだ。」

「不意打ちで体育館全体に総攻撃をしてきて、さすがにあれは焦ったよ。」

「私なんて回避で精いっぱいで何が起こってるのか理解できなかったよ。新入生が200人ぐらいいたのに今ではここに居る生徒だけだよ。」


 そんなことがあったんだ。いやー、遅刻してよかった!そんな危ない事をされなくてよかった。でも、私が登校したら入学式に行く前に理事長さんの所へ行く事になってたし、どちらにしろ大変な事になってなかったかも?絶対入学させるって言葉を守ってくれてたのかな?ツンデレさんだな。


「ねえ、残りの生徒はどうなったの?」

「それが、……。」

「退学だよ。理事長先生による攻撃は最後の試験らしく大けがを負ったものは強制的に退学らしい。」

「そんな……。」

「かわいそうだが、学園の決定だから仕方ないとは思うが、納得は出来ないよ。」

「俺もだ。あまりに理不尽すぎる。」


 私が知らない所でそんなことになっていたなんて。確かにあの人は悪女のような部分はあったけど、そこまで悪い人には見えなかったんだけどな。


「とにかく、残った者同士仲良くしよう。」

「うん、これからよ…」

「そんな奴と仲良くとか頭がおかしいんじゃないか?」


 お互いに仲良くするための握手を握ろうとしたとき、突然割ってきた人がいた。


明人あきと、何でそういうことを言うんだ。」

「そんな事分かってるだろ?さっきから聞いていれば、どれもハチャメチャな事ばかり。3人と共通点を作るための作り話だろ?入学式で手負いにあった奴は退学したのに、遅刻の奴は平気な顔で歓迎か?」


 話に割って入ってきたのは樋口ひぐち明人あきと。見た目は根倉陰キャの眼鏡。人の雑談に割って入ってきて文句を言うので悪印象です。


「しかしな、あの人は気分屋の所があるし、偶々の可能性も……。」

「そんなことがあるか。どうせ親戚かなんかで必ず入学させるために口実を作ってただけだ。」

「ち、違うよ!理事長さんから入試の時に絶対入学させてあげるって言われたけど、遅刻は本当にしたんだよ!」

「ほら見ろ。入試に理事長本人と対面などまずありえないし、もしそれが本当だとしても、口裏合わせをしていたのは認めたようだし、こいつは完全にクロだろ。」

「おいおい、喧嘩腰に言うなよ。イラついてるのは分かるが、彼女は関係ない事だ。もしかしたら、入試の時に理事長直々に特別試験があったのかもしれない。」

「そ、そうだよね。ここに居続けるのは難しそうだから、裏口入学とかはないんじゃないかな?」


 もー、せっかく人が仲良くしようとしてるのに邪魔するなんてなんなんですか?


「ごめんな。こいつの友達、まあ、俺の友達でもあるんだが、そいつがあの件で退学になっちまったんだよ。だから、イラついててな。」

「そうだったんだ。と言う事は、言葉くんと樋口くんは友達なの?」

「幼馴染で親友なんだ。だから今回の件水に流してくれ。頭を冷やせば自分が悪い事をしてるって分かると思うから。」


 友達が退学になったのはショックだと理解できるけど、こんな事されて黙っても居られない。こっちだって生きていくために頑張ったことを否定されたんだもん。だから、言葉くんに免じて今回限りは許してあげる。


「明人、他の奴と話してたんだろ?わざわざ文句を言うために抜けてくるなよ。」

「ふん、ここに居る全員俺と同じ事を思ってるぞ。だから、こいつから距離を取ってるんだ。」

「そんなことないよ。確かにちょっと疑っちゃうかもだけど、そこまでひどい事思ってないよ。」

「どうだかな。」


 樋口くんはもともと話していたところに戻っていってしまった。本当に失礼しちゃう人だよ。


「悪いな。いつもはあそこまできつい言葉を言わないんだけどな。」

「ショックを受けるのは分かるが、他人にあたるのは良くないな。」

「同級生として仲良くしていきたいんだけどね。」


 各々、あの場にいたからか、彼を徹底的に否定できないのだろうか?もしあそこに私も居たらどうだったんだろうか?


「そろそろ授業を始めるけど、みんないるかな?」


 タイミングがいいというべきか、倉世先生がやってきた。


「31人みんないるね。それなら授業を始めるね。分かって入るけど一時間目はガイダンス。学校について深く知ってもらうよ。」


 先生がタブレットを操作する。それに応じるようにモニターがどこからか現れて画面が映り込む。


「みんな見えるかな。……良さそうだね。最初の話はもちろん学園での活動だよ。と言っても基本的にはどこの学校にでもある科目を勉強してもらうよ。それで単位を落としたらもちろん留年することもあるから頑張ってね。そしてもう一つは技能訓練。この学園は軍人育成機関でもあるって説明したよね。だから、精神的にも肉体的にも強くなってもらわないといけないからそのための訓練、一般学校で言えば体育なんだけど、この2点が授業の主な内容だよ。午前が筆記科目、午後が技能訓練になるから忘れないように。そして、忘れてはいけないのはクエスト。一日に何回も受けれて、これを受けると授業を免除することが出来るんだ。もちろん報酬としてお金が出るし、難易度と個数によって筆記科目の単位を補えるんだ。」


 おぉ、これがお金がもらえるっていうやつですね。稼ぐぞ!それに、授業免除に単位稼ぎにも!?嬉しいな!!


「クエストは建物の入り口に毎日掲示されているんだ。朝の9時までに掲載されている紙をもって僕の元へ連絡をくれるだけでいいから挑戦してみてね。僕も昔は勉強せずにクエストだけで進級してきたから、授業が面倒くさいと思う人は毎日受けてもいいよ。」


 そうなんですか!?となると、毎日受けようかな!


「次の話を行くね。『心魂ソウルイーター』について、おおむね理解してると思うんだけど、正しい理解をしていないと今後大変なことになるから聞いておくように。」


 ありがたいな。私全然理解してないから、後で聞きに行こうと思ってたからちょうどいいよ。


「心魂とは何なのか?まずはこれについて話そう。これは、創立者にして現理事長が生み出した薬BB-IJ99によって魂から作られる武器だ。これはホームルームで話した内容だね。でも、この薬の本当の効力は肉体の強化のみなんだ。あくまでもこの一点のみで作られたんだけど、副産物として魂から武器が作られるんだ。理事長の推測としては、『強化には限界があるためそれを補うために魂が化学反応を起こして生み出すのでは?』とのことだ。」


 つまり、これ以上強くなれないから付属品を付けちゃおうってことだよね?なぜか違和感しかないよ?


「BB-IJ99によって生み出された心魂は副産物であるため、基本的に壊れたりしてもまた呼び出せば出てくる。また、自分が強くなれば強くなるほどより強い武器になっていくんだ。でもね、デメリットがないわけじゃないんだ。心魂は選べない。個人が一番得意とする武器ではないんだ。あくまでも一番伸びしろがある武器であり、使い慣れたものではないから、初めは扱いが不便な人が大半を占める。逆に、使い慣れた武器が選ばれる人もいる。この差が影響して精神を病む人も多くて、自主退学をする人も多少いるんだ。」


 確かに、努力が実らず挫折する人はどんな物事でも一定数いるよね。私の同級生にも、途中で部活を辞めちゃった子もいるし、否定はできないよね。


「だけど、僕としても学園からにしてもそういう事は望んでいない。学園内の事が機密事項だから外に漏らされないためにってのもあるんだけど、一番は可哀そうだからだね。せっかく入学できたのに辞めちゃうのはもったいないよ。だから、伸び悩んだか相談してほしいね。」


 最後の言葉がとても悲しそうだった。ロリペッタンさんと話すときは全く違っていて、とてもやさしそうな先生に見える。


「そしてもう一つのデメリットがあるんだよね。それは、心魂によって前衛か後衛かが決まってしまう事だね。人によっても、どちらも兼ね備えてる事があるけど、そういう人は数が少ない。そこで、君たちには3人一組のチームになってもらおうと思う。グループは各々の能力を見てこちら側から決めておいたから、仲良くするように!後、クエストはグループ皆で受けることになるから、自分の判断だけでクエストを受けないように!それじゃあ、グループを発表していくから聞いておいてね。」


 倉世先生がグループのメンバーを発表していく。能力でとは言っていたけど、呼ばれるメンバーがそもそも仲がいい人同士になっているので、連携が取れるように配慮しているように見える。それと、男子は男子同士、女子は女子同士になるように配慮されているみたい。


「そして、10番は、言葉、深山、秋之。」


 あれ??さっきまで男子と女子は別々だったよね?なんで、ここにきて混合なの??女子で名前呼ばれてないの私だけだから、言葉くんの所に私が入るべきだよね??


「最後に、0番一ノ瀬!…以上だけど、質問ある人いる?」


 ここに居ますよ!?嫌な予感はしてたけど、31人のクラスで3人グループだと誰かはぶられると思ったけど、脱ボッチをしたと思ったら学校側からボッチにされましたよ!?え、何、学園から私嫌われてるのかな??


 だれか一人はボッチになるかなって思ってましたよ?でも、女子は12人できっちり分けられるから男子の一人があふれるなって、それか、どこか一グループが4人になるのかなって思ってたから本当に安心してた!


 そういえば、ロリペッタンさんに散々ひどい口きいてたから、その仕返しとかかな!?今から謝りに行けば許してもらえるかな!?


「異議があります!先生、何でボクだけボッチ何ですか!?」

「一応俺からもです。9番までは男女がきっちり分けられているのに、どうして10番は混合なんですか?女子が一人多いわけでもないんですから、わざわざ一ノ瀬さんを一人にすることはないと思います。」

「そこはしょうがないんじゃないかな?能力を考慮してるって言ったよね?決めたのはあくまで理事長だからその真意までは知らないけど。」


 やっぱりロリペッタンさんだ!!恨んでるかな、恨んでるよね!?


「それに、一ノ瀬さんにはメイドがいるみたいだし、その人をグループの一人にカウントして良いからって言われてるんだけどな。」

「あの、私にメイドさんはいませんよ?雇うお金がありませんし…。」

「?おかしいな。理事長かそう聞いてるんだけど。本当に心当たりない?特徴は、理事長より小柄で、忠誠心が人一倍大きい子らしいんだけど。」


 その特徴があるメイドさん……それって、アイラの事かな!?確かにメイドさんっぽいけど?


「倉世先生、それってアイラの事ですか?」

「僕はその子の名前を知らないから、何とも言えないけど、多分あってるんじゃないかな?まあ、その子と二人で頑張ってよ。」

「はい……って、良くないですよ!?」


 危ない、危ない。危うく納得しかけてたよ。


「そうなるよねー。でも、僕に変更する権限はないんだ。0番と10番はグループとして異例だけど、頑張ってね。そういえば、0番は常時心魂を発動する権限が出てるから。」


 あー、私の学園生活がボッチ確定しました!!


「最後に校内案内するから付いて来てね。」


 最終的に、魂が抜けた状態で校内案内をすることになった。建物の規模は大きいものの、中学校にあった建物が拡大したようなものばかり。ただ、寮(男女別温泉付き)や食堂(ビュッフェ形式朝昼晩)、地下のトレーニングルーム(プール付き)だったりと珍しいものもあった。


 校内案内が終わると今日の授業は終わり。みんなグループで集まって仲良くお話をしたり、一緒に帰ったりして楽しそう。


「まあ、なんだ。一ノ瀬ドンマイだったな。」

「………。」

「言葉くん、その言い方だと、一ノ瀬さんを追い詰めるだけだよ!」

「深山のも追い打ちになると思うが……。私が言えたことではないが、今から絶望するのは早いと思うぞ。グループにクラスメイトはいないが、仲良くする機会がないわけじゃない。明日からもみんな顔を合わすんだから、そこまで悲観することはないと思うぞ。」

「秋之さん…!!」


 ぽ////惚れそうだよ!!


「そうだよね、ボッチだからってクラスメイトと仲良くなれないわけじゃないよね。」


 こうして3人が話しかけてくれるみたいに、いつかきっとみんなと仲良くなれるよね?


「そう言えば、メイドさんがいるのか?先生はそう思ってたみたいだが、一ノ瀬は否定してたけど、心当たりのある人がいるんだろ?」

「それはね、いるんだけど今寝てると思うんだよね。メイドさんみたいな事をしてくれるけど、メイドさんではないんだよ。どちらかというと、所有物、みたいな扱いを頼まれてる………。」

「えっ、それって……。」

「は、破廉恥なプレイをする中なのか!?」


 ライラについて説明するとなぜか3人から驚きの視線がきたよ?私何か可笑しなこと言ったかな?破廉恥ではないと思うんだけどな?


「一ノ瀬、そいつは大丈夫なのか?道具として扱うように言われてるんだろ?」

「そういうプレイが好きな人を否定しないが、褒められる行為ではないぞ!?」

「一ノ瀬さん、その人との付き合い考え直した方がいいよ!?」


 あれれ本当にどうしてだろう?何か誤解されてる気がする。


「3人とも誤解してるみたいだけど、彼女は賢くて可愛い子でおかしな子じゃないんだよ?」

「余計アウトじゃないのか?」


 どうしよう。完全に誤解されっぱなしだよ。でも、アイラ寝てるかもしれないし、ロリペッタンさんから許可のないときに呼び出しちゃダメって言われてるし。とは言え、誤解が解けなかったら、アイラの第一印象が酷くなりそうだから呼んだ方がいいよね?


「本当に変な子じゃないの。だから、ここに呼ぶよ。」

「学校に来てるのか?」

「来てるよ?というより、ついてきたって感じだけど。後、理事長さんにはここへ呼び出したこと内緒にしてね。許可がないとき呼んだらダメって言われてるから。」


 3人が納得してくれ手みたいなのでライラを呼び出すことにした。


「出てきてアイラ!」

「…………」


 呼び出してきたものの、出てきたのは刀。案の定すやすやお眠の時間です。


「一ノ瀬それって……」

「ちょっと待っててね、今から起こすから。起きてライラ!お眠なのはわかるけど、みんなの誤解を解きたいんだよ!」


 すると、刀が光り、人型へと変わっていく。


「ご主人様何か御用でしょうか?」

「寝てるところにごめんね。みんながライラの事誤解してたからちゃんと理解してもらいたくて呼んだんだよ。」

「畏まりました。……しかし、皆様口を開けたまま驚いていらっしゃいますよ?」


 3人の方を見ると確かに口を開けたまま驚いていた。というか、突然現れたアイラを見た人はみんな同じように驚いている。そんなに驚くような事はしてないのにな?


「みんなどうしたの?」

「いや、だって今刀が女の子にならなかったか?」

「その前に、何で女の子が現れたの!?」

「摩訶不思議な現象過ぎてちょっと思考が追いつかないな。」


 確かに、アイラを初めて呼び出したときは驚いたけど、絶句するほどじゃなかったんだけどな。う~ん、一先ず瓦解を解かないとね。


「見てわかると思うけど、アイラはメイドさんのような恰好をしてるだけなんだ。私から生まれた刀なんだよね。」

「私はご主人様の分身の片割れであり、ご主人様の武器であり道具です。ご主人様の記憶も一部効き継いでいますので、皆様の事は把握しております。今後はご主人様をよろしくお願いします。」


 アイラが丁寧なお辞儀をすると、オウム返しのように3人も頭を下げる。誤解を解こうと話してみたけれど、むしろ困惑させてしまっている気がするんだよね。


「う、あ、え、と、……。」

「なんか、びっくりしちゃった。」

「そうだな。いきなりすぎて…。」


 こんな感じで3人ともうまく言葉が見つからない感じ。


「ご主人様、皆様の思考が追いついていないようですが、どこか認識のずれがあるようです。そこから確認していけばよいのではないでしょうか?」

「そうだね。僕自身驚く意味がイマイチ分かってないからひとつづつ質問形式で教えてほしいな。」

「なら、私から質問!アイラちゃんは人間なの?」

「それは違います。先ほど言ったように、ご主人様の道具です。」

「次は私からになるが、君は『心魂』なのか?」

「その認識で間違いないと思います。」

「最後に俺からだが、君は人の形が『心魂』なのか?」

「元々刀が私です。この体はご主人様が望まれ形を成したにすぎません。」


 3人からの質問に丁寧に答えていくライラ。私の知らないことまで、答えているので感心してしまう。


「ほへぇー、そうだったんだ。」

「なぜご主人様が今更知ったような口ぶりなのですか?」


 心の声がちょっぴり漏れてしまったみたいで、アイラに注意押されてしまった。でも一言いいたいんだけど、今更もなにも私知らなかったことなんだけど!?


「何をおっしゃいますか。私はご主人様の持っている記憶や知識しか持ち合わせません。ご主人様が知らないことは私も知りません。ですので、知らないわけがありません。」


 今度は心の声まで反応してくれたみたい。アイラが嘘をつくとは思っていないから信じたいけど、知らない事だったことにはやっぱり変わりないか今は保留かな?


「でも、一ノ瀬さんが一人グループになった理由なんとなくわかったよ。」

「3人一組なのに心魂を呼び出せば4人になるもんな。」

「常時心魂の発動許可とアイラの授業の出席は分かるが、それでも2人一組は可愛そうじゃないか?」

「そういう意味では、ボクとしては気にしてないよ。人数もそろってるわけだし。」

「いや、一人足りない時点で活動の幅は減るものだと思うぞ?」

「そんなことはないんだよね。人数も足りないわけではないし……。そうだ、心魂について詳しく聞こうと思ってたんだ!」


 話を逸らすのと、もともと聞きたかったのもあったから3人に聞いてみた。


「心魂か?入試の時に説明は聞かなかったのか?」

「そんな話をしてたかな?」

「いえ、そのような話はされていないと思います。しかし、入試を受ける準備段階で中学の担任の先生から注意事項として話を聞いていたはずです。」


 あれれ?そんなことあったっけ?私、かなり人の話を聞いてない?思ったよりも自分は適当な人間だと気づいて少しがっかりしてしまう。


「まずは、私が説明しますので、その中で違う点や補完すべき点があった場合はご指摘してもらう方向にしもよろしいですか?」

「いいんじゃないか?」

「私たちも、特別詳しいわけでもないし、それがいいと思うよ。」


 アイラの提案にみんなが同意する。一礼をして、彼女は声を発する。


「心魂とは心を具現化する副産物であると私の方では認識しています。葉狩場(はかりば)理事長が開発した薬はもとはと言えば強靭な肉体を形成し、新たな人類を作り出すことでした。しかし、その薬にはその効果だけでなく、副作用として魂を具現化してしまう効果が出てしまったのです。その理由としましては、肉体の強靭化に伴って心の魂の強化が必須だからです。肉体だけ強くなってしまっても、魂が弱ければ崩壊してしまうからです。肉体と魂の結びつきは強固な関係にあり、どちらかの均衡が崩れてしまえば自然的に人間として崩壊してしまうのです。ですから、副作用が発言してしまったのです。その副作用による魂の具現化は武器として現れます。この現象について解明は出来ませんが、武器というものは使えば使うほどより強力なものとなると言われています。日本には妖刀と呼ばれる代物もありますし、それが起源なのかもしれません。それらは魂の具現化というだけあり、その人の在り方、性格、特徴といったものが反映します。ですので、その人にとって最適な武器が発現します。最適な武器と言っても手慣れたものというわけではありませんので、直ぐに扱える代物かどうかはその人次第になってしまいますが。…と、私の中にある知識だけで言えばここまでですが、皆さんの認識と異なる点はありますでしょうか?」


 私でも何となく分かるように説明してくれた。さすが私の子だけあって、立派だな!


「私の聞いた話と違いはないな。むしろ、私より詳しいんじゃないか?」

「うんうん、私の知らない部分もあったし、秋之さんと同じように私達より詳しいぐらいだよ。」

「それは良かったです。」


 2人から称賛されるアイラちゃん。いや、誇らしいね!私からこんな子が生まれて嬉しいばかりだよ。


「なあ、アイラちゃんは一ノ瀬の記憶しか持ってないんだよな?てことは、全部一ノ瀬が知っている話だよな?なんで一ノ瀬は知らないんだ?」

「確かに、それはそうだな。」

「もしかして、私たちを騙してる?」

「いや、本当に知らないんだよ?」


 変な疑いをかけられて背中が冷える。


「考えられる点は何点かあります。一つは、ちゃんと聞いていないだけかもしれません。人間は聞いたことは一応覚えていますが、印象が少ないと記憶の奥に閉じてしまいます。例えば、よく着る服はタンスの手前に入れておきますが、着ない服は奥の方にしまっていたり、そもそも別の場所に入れたりしますよね?ですので、着ない服は中々取り出せない所に閉じ込めてしまうのです。これと同様に記憶も必要性のないモノは記憶の奥に追いやってしまうため中々思い出せないのです。そして他には、あえて記憶を封じているという可能性です。人間には記憶の許容量があり、脳はその上限を超えないようにする働きがあります。また、ショックによるトラウマを思い起こさないためにも封印するという自己修復機能もあります。それらによって思い出させないようにする事は分かっています。まあ、ご主人様は前者が理由であると思います。」


 うう、アイラがお母さんの悪口言うよ。ひどいよ、ひどいよ。でも、事実っぽいし、反論できないよ。


「私は人間ではありませんので、持っている記憶は無条件で引き出してこれます。ですので、ご主人が認知していない事をしゃべる事が出来ます。」

「なるほどな。てか、どっちにしろそんな知識をいつどうやって手に入れたかだよな?ライラは知らないのか?」

「それにつきましては私も存じ上げません。私はご主人様の記憶の全てを持ち合わせているわけではありませんので。」


 アイラでも私の全てを知っているわけではないんだね。私の記憶がこんなにも多くあったとは。それにまだあるみたいだし、謎が多いな。

 私は一体何を覚えていてどれほど忘れているのいま一度考え直さないといけない時が来るかも。


「と、ついつい話し込んでが、思ったより時間がたってるな。」

「ほんとだ!そろそろ寮に戻った方がいい時間だね!」


 時計に目を向けると、12:30を回っていた。食堂は寮内にあり、昼食は13時までなので少し急がないとご飯抜きになってしまう。


「ご主人様、またご用事がありましたらお呼びください。」

「ありがとうね!」


 アイラをしまい、私たちは食堂に向かった。

 初めての寮食はどれも豪華な物で色々とお代わりをさせてもらちゃった!これまでお金が無くて豪華な物が食べれなかったから、涙を流しちゃったよ!毎日こんなにいいものを食べれるんだと考えると幸せだ!!


「一ノ瀬さんこれで涙拭いていいからね?」

「ありがとう、深山さん。」

「ここまでうれし泣きをするとは、どれほど貧相な物を食べてきだんだ?」

「一日道ばたの草ばっかりで……」

「可哀そうになって来たな。まあ、ここはお代わり自由なんだから食ってけな?」

「うん。」


 涙を流しながら食べてたらみんなからも同情されちゃった。でも、おいしすぎて涙が止まらないよ!


「それじゃあ夕食のとお風呂の時にね!」

「また夕方にー!」


 私たちはそれぞれの部屋に向かった。寮の部屋は今日発表されたグループ一つに対し一部屋が用意されてる。私は一人だけだから少し大きな自室になるけど、彼女たちがいるから丁度いいかも。


「ここが私の部屋。」


 前に暮らしてたアパートとは比べられないほど大きな部屋があった。元々3人用とはいえ想像よりも大きい。これからここを一人で占拠するとなると少しだけ罪悪感があるかも。


「そうだ、アイラ出ておいで!」

「お呼びでしょうかご主人様?」


 私はアイラを呼び出した。そして、呼び出してやることは一つ!部屋のカスタマイズだ!アイラは私よりも家事が得意だから、手伝ってもらうにはうってつけなんだよね?それに、何一つ文句も言わないし、お母さんほんと嬉しいよ!


 私が感動している間にアイラはテキパキと動いてくれる。家具の位置をずらしてくれたり、私物を適当な位置に設置してくれたりと大変ありがたい。


 順調にカスタマイズが終わると、最後に3人分のベットを横一列に並べておしまい!


「アイラありがとうね!」

「私は使われてこそですから。」

「またそんな事言って……。ちょっとこっち来て。」

「?」


 訝しがりながらもアイラは私の元に来る。私は、その小さな体を抱き寄せ、そっと頭をなでてあげた。


「今日はありがとうね。よし、よし。」

「ご、ご主人様……。」

「いい子にはこうしてあげないとね?」

「私は……」


 恥ずかしそうに、けど嬉しそうな顔をする。嫌がってるそぶりを見せても、本心は違うみたい。そんなところが可愛くて、私はアイラが好きだ。


「これ以上はあの子が怒ります。」

「ああ、もう少ししてたかったのに。」

「それはあの子にしてください。」

「そうだね。あの恥ずかしがり屋ちゃんにしてあげないとね。召喚しなくても怯えているのか伝わって来たよ。」

「それは賢明ですね。あの子は夜以外基本的に表に出てこないですし。」

「でも、今後のためにも、練習しないとね。」


 声に出すと、怯えた気持ちが伝わってきた。あの子がちょっとだけ嫌がってるみたい。けど、そう言うわけにはいかないからね。授業へ出ない代わりに、お金稼ぎに行かないといけないから。


「伝え忘れておりましたが、クエストはまだ行かせませんよ?」

「え?」

「頭の使い方、体の使い方、どちらもご主人様は忘れておられます。せめて幼少期の半分ほどだけでも戻しませんと。」

「でもお金が……。」

「授業に出ても毎月お金が払われます。必要な物はその程度で足りるでしょう。ここはアパートとは違うので、あらゆるお金の支払いがありません。危ないクエストでお金を稼ぐよりも、基礎を鍛えなおしてください。」

「そんな!?」

「それから、私はご主人様の記憶をもって鍛えますので明日からは師として扱ってください。」


 急に私のメイドちゃんがジョブチェンジを申し出たよ!?どうすんのさ、これ!?


 




「ご主人様、もっと撫でて……。」

「分かってるよ。これが大好きだもんね。」


 就寝前、私は彼女を抱きしめながら頭をなでていた。こうしてあげると、優しい笑顔を浮かべてくれる。まるで子供をあやすようだ。


「ご主人様、早く寝なければ。」

「分かってるけどもう少しだけ。アイラは抱かしてくれないんだもん。甘えてくれるコクウで気持ちを抑えるしかないんだよ。」

「ご主人様////」


 今日は初めて泊まる場所だけど、安心して眠れそうだ。

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刀と魔法と幼女と! 雪の降る冬 @yukinofurufuyu

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