4.閑話:ライル、弟子専属の下着係になる

「ほら、早く脱がせてよ。


背中にブラのホックがあるの、わかるでしょ?」


ロークが俺に背を向けて、背中の止め具を指差しながら言う。


「はいはい、仰せのままに」

俺はため息交じりに言いながら、ロークの下着に触れる。


結局、ロークに押し切られてしまい、俺が彼女の下着を脱がせる羽目になった。


「あぁんっ♡」

「変な声を出すなバカ弟子ぃ!」


俺がロークの肌に触れる時、わざと彼女は艶めかしい声を出してくる。

こんな女を全面に出した声、今まで聞いたことがなかったのに。

本当に恐ろしいやつだよ…。


「だってぇ……。

キミに触られたら、なんだか肌がムズムズして気持ちがいいんだよ」


「そんなことを言われても困るぞ……」


俺は呆れながら、ロークの胸を覆う布を外していく。

幸い、ロークの後ろから外しているおかげで正面を見ずに済んでいる。


「はら、外したぞ。

次は…この下着でいいんだよな?」


俺はロークの新しい方のブラジャーを手に取り、確認する。

「うん、それで大丈夫だよ。

ありがとね」


と、言いつつロークは俺の方を向こうとする。

 

狙いは無論、俺に胸を見せつけるためだろう。

何も身に着けていない裸の胸を。


「おいこら!

こっちを向くんじゃない!」


俺は先んじてロークの肩を押さえ、彼女が振り向けないように抵抗する。


「えへへ~♪

キミの顔を見ながらがいいなあ」


「勘弁してくれ……」


俺はげんなりしながらも、なんとかロークを正面に向かせたままにする。


後ろからでも見える巨大な胸。

これを正面から見せられたら、俺の理性はひとたまりもない。


「じゃあさ、キスしてくれたら我慢するよ」


「…お前、流石に調子に乗りすぎだ」


「ねえ、お願いだよ。


別に唇を重ねなくてもいいよ。

身体にキスをしてくれたらそれでいいんだから」


それもそれで問題だと思うのだが…


「ダメだ」

「ケチ」

「うるせえ」


俺はロークの文句を無視し、手早く新しい下着を着けていく。


「……はい、これでおしまいだ」


「ええ?

もう終わりなのぉ?」


「そうだよ。

お前も満足だろ?

というか満足してくれ」


「うーん。

まだ物足りないなあ…。


…あ、そうだ!

えいっ」

ロークはそう言って、突然俺に飛びついてきた。


「ちょ、何すんだ!?」


「引っ付き虫〜♡

キミがキスしてくれるまで離さないよ〜だ」


ロークが俺にしがみつきながら甘えた声で言ってくる。

こいつはほんといつもこうやって好き勝手しやがって……


「こいつ……!」

俺はロークを振りほどこうとする。


しかし、俺とロークの身体がくっついて、まるで離れる気配がない。


「ぐっ、なんだよこれ…?」


「ふふん。

この間新しい魔術を習得したんだ〜。

キミに試させてあげるね。


拘束魔術の一種なんだけど、これは相手と自分の身体の一部をくっつけて、お互いの身動きができなくなるんだ。

今のボクたちみたいにね♪」


「なんでこんなもの習得してるんだ……。


これ、習得が難しい割に使い所が無さすぎて、ほとんど誰も使っていない魔術だろ?」


「キミを捕まえるためだけに勉強したんだよ。

この程度の魔術、ボクにかかれば一日で習得できるしね。


使ってみたら大正解!

キミとボクの繋がりが増えたんだ。

やったね!」


ほんと、俺の弟子はそのあふれんばかりの才能を無駄遣いするよなあ。

こんな魔術を習得するくらいなら、他にもっと学ぶべき魔術があるのに。


「さて、ここからが本題♪

ボクとしてはこのままずっとキミと密着したまま過ごすもの悪くないけど……。


キミはこのままじゃ不便だよね」

ロークは俺の首筋に頬をスリスリさせながら、言葉を続ける。


「俺がお前にキスしたら離れるってところか…」


「そ!

だから早くキスしてほしいな。


さっき言った通り、ボクの身体ならどこでもいいからさ」

ロークが俺の耳元で囁きかけてくる。


「そう言われてもな……」


「ほらほら、早くしないとボクの方からキミの唇にキスをしちゃうよ?」

「それはだめだ…!」


そこまでやると、完全に恋人の関係になってしまう。

今はそれだけは避けたい。


…いや、すでにヘタな恋人以上に濃厚な関わりになっていると言えなくもないが…。


とにかく、ロークと口を重ね合わせたり、性的な関係を結んだら取り返しがつかない。


「じゃあ早くキスしてよ。

どこにキスしようか迷ってるなら、ボクのおすすめは胸元だよ♪」


「くっ……」

俺は渋々、ロークの胸の谷間に顔を近づける。

そしてそのまま、彼女の胸に軽くキスをした。


「んんっ♡

そこなんだね♡」


声が本当に艶めかしくて困る。


「ほら、約束通りキスしたぞ。

もう離れてもいいな?」


「えぇ〜?

全然足りないよぉ……。

もっと強く吸い付いてくれないと」


ロークはいたずら混じりの表情で、俺に微笑む。

あと少しで触れ合うほどに顔が近いせいで、その美しさに心がかき乱されそうになる。


「…お前ってさあ、ほんとに遠慮ってものを知らねえよな」


「キミが教えてくれなかったからね。

おかげでどんどんキミが欲しくなってくるんだ。

だからこれはキミのせいなんだよ」


「ああ言えばこう言いやがって……」

「いいからいいから、早くう……」


ロークが催促してくる。

俺はため息をつきながら、ロークの胸元に強く吸い付いた。


「あんっ……♡」


「これでいいか?」

「まだまだっ…かな。

もっと…キスの跡が残るくらいに…!」


「しょうがねえな…」

「んっ♡

もっとぉ…♡」

俺はより強く吸い付いたが、ロークは離してくれる気配がない。


「これ以上は無理だって……」

見れば、すでにロークの胸元には俺が吸い付いた跡が残っている。

これ以上となると深い傷が残ってしまいかねない。


「お願い……!

キミが欲しいんだ……!

もっとボクにキミを刻みつけてよ…」

ロークが切なげな声で懇願する。


「お前……。

大切な身体なんだぞ、もっと自分を大事にしろよ。

こんなに綺麗な肌なのに、これ以上は傷が残ってしまうだろ…」


「そんなこと気にしないでよ……!

ボクはキミのものになりたいんだ。

キミ以外に見せるつもりもないし」


「俺以上に良い男なんていっぱいいるだろうが。

そいつと結ばれる時に、俺がつけた傷なんかが残ってたら申し訳ねえよ。

安易に俺のモノなんかになろうとしてんじゃねえ」


「もうっ!!

ライルのわからず屋!」

俺がそう言うと、ロークはムキになって、俺の頭をその深い谷間に押さえつけた。


「ぐうっ!?」

顔全体がやわらかい感触に包まれて、呼吸ができない。


「んー!!」


俺は必死にもがくが、ロークの腕の力が強くて抜け出せない。

たぶん、追加で拘束魔術をかけられたんだろう。

びくともしない。


このままだと、ロークの胸に溺れて死ぬ…!


「ふふふっ♪

ライルはバカだね。


ボクがキミ以外の男に興味を持つはずがないじゃないか。

キミがボクのモノであるのと同じように、ボクはキミのモノなんだから。

ボクの心は、身体は、全てキミだけのためにあるんだよ」


「ぐっ……!」

まずい、このままでは本当に死んでしまう。

女の胸で窒息死なんて、あまりにも間抜けすぎる…!


「ほら、ボクの身体をキミにあげる…!


だから、ボクをキズモノにしてよ。

キミだけのモノだって証を、ボクに刻んでよ…!

二度と消えない証を…!!」


「うぅ……!」

意識が遠のき始めた。


やるしか…ないか…。



俺は覚悟を決め、彼女の胸元に強く噛み付く。


ガリッとした音と共に、血の匂いが口元に広がった。


「っっっっ♡

あぁーーーーっ♡♡♡」

ロークはビクンと身体を震わせて、ひときわ甘い声を上げる。


そして次の瞬間、俺とロークを繋ぎ止めていた力がフッと消えた。




俺はようやく解放された。



「ゲホッ、ゴホォ!

は、はぁ……!

し、死ぬかと思った……」



俺が息を整えても、ロークはベッドの上でぐったりしている。


わずかに痙攣しているようだ。


「お、おい、大丈夫か?」

心配になった俺は、ロークに声をかける。


少しして、彼女は目を開いた。


「…あはは……。

ちょっとやりすぎちゃったかも……。


気持ちが昂ぶりすぎて、気絶しちゃった…」


そう言いながら、ロークは自分の胸元を見下ろし、嬉しげに微笑む。


「えへへ、キミの歯型がついちゃってる……」


ロークの雪のような白く美しい肌に、真っ赤な血に溢れた歯形がついている。


それを付けたのが俺だという罪悪感。

それだけでなく、ほんの少しの歓びが俺の心の底から湧き上がっていることに気づいて、俺は目をそらした。


「…すまん」


「謝らないでよ。

むしろ嬉しいんだ。

キミがボクを求めてくれた証だから」


「……」

俺は何も答えることができず、ただ彼女の言葉を受けとめる。



俺はもう、駄目かもしれない。



彼女の身体に傷をつけた時、確かに俺の中に、彼女を自分だけのものにしたいという暗い欲望があったのだ。


「またライルとの繋がりが増えちゃった。

うれしいな〜♪

もっと他のところも噛んでもらおうかな」


「勘弁してくれ……」

俺は心底げんなりした声を出す。

それは多分、ロークだけじゃなく、俺自身に対しての両方だ。


「冗談だよ。

今はこれだけで十分だから」


ロークは満足げに笑いながら、自分の胸元についた傷を指先でなぞり、その赤色を愛おしそうに見つめている。

その姿はとても艶めかしく、俺は思わず見惚れてしまった。


「……ん?

どうしたの?」


「なんでもねえよ」


俺は顔を背ける。

もうまともにロークを直視できそうにない。


「……そっか。

ふふふ、ごめんねぇ。


そうだ、今日はこのまま一緒に寝ようよ」


「お前はいつもいきなりだな…」


「ボク、疲れちゃったんだ。

このままキミの腕の中で眠りたいな……」


ロークが俺の手を握ってくる。


「だめ……かな?」


「……いいよ。

好きにしろ」


俺は何度目かのため息をついて、その手を握り返した。




ベッドの中で、ロークは大人しかった。

疲れていたのだろう。

すぐに眠ったからだ。



俺もロークが眠ったのを確認して、すぐ眠りに落ちた。


俺の意識が沈むと同時に、俺の心も彼女に沈み込んでいくような気がした。



俺はもう引き返せなくなってしまった。


俺の心は、彼女のものだ。



その実感が俺を満たし、溶けるように俺の意識は沈んでいった。



この世で一番愛しい女を抱きしめ、優しく頬を撫でながら。





==========

*補足・後書き


距離感バグり天才王子様弟子系女子の四話目です。

王子様系の要素がそろそろなくなっています。


ライルがはっきり明確にロークへの好意や執着心を自覚する回です。

箸休めのノリで書いたら、なんか性癖の煮凝りみたいな話になってしまいました。

性癖全開で申し訳ありません。


噛み傷は感染症が心配になりますが、その辺りはライルが魔術とかでよしなにケアしているので、多分大丈夫です。


これ以降、ロークはわざと留め具の位置が分かりにくかったり、着け外しが難しいブラを着けて時間稼ぎをしようとするので、ライルはやたら女性用下着に詳しくなりました。



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