第58話 上野毛ダンジョン(6)
「ひでお君はもっと先に進むんでしょ?」
「うん。今日は深層でライブ配信するからね」
「私はもう大丈夫。一人で帰れるよ」
「無理しないでね」
「うん。いってらっしゃい」
「行ってきます」
手を振るカコさんに笑顔を返し、僕は走り出した。
下層を走り抜け、深層を進んでいく。
目的地にたどりついてから、配信を開始する。
「皆さんこんにちは。ひでおのダンジョン配信チャンネルのひでおです。僕の配信にお越しいただき、ありがとうございます」
”キター”
”待ってた”
”連日配信ありがたい”
”今日は遅かったけど、なんかあった?”
”デートか? デートか?”
「えーと、デートってわけじゃないんですけど」
”戸惑ってる”
”これはデート”
”リリスか?”
「今日は短めの配信です」
”スルーした”
”これはデートだな”
”あんま、詮索すんなよ”
”ひでおとデートとか、羨ましい”
”↑そっちかwww”
「やりたいことは、ふたつあります――」
”ふむふむ”
”ワクワク”
「ひとつ目は告知で、ふたつ目は前回の補足説明です」
”告知キター”
”この前のアンケートか?”
「まず、告知に関してですが、皆様にご協力いただいたアンケートの結果、初心者講座配信をやることに決定しました。今は協力者にコンタクトを取っている段階です。少し先になりますが、お待ちください」
”初心者講座!”
”やっぱりな”
”アンケートでもダントツだったからな”
”初心者講座(初心者向けじゃない)”
”初心者講座(よい子は真似しないでください)”
”助けるマンも見たかった”
”いいコンビだよな”
”ガジェット講座もお願い”
「そして、前回の補足とは――四刀流についてです」
”ひでお流四刀流”
”意味不明だったけど、補足されるともっと意味不明になりそうw”
”安心しろ、誰もわかってないから”
”他の配信者が真似しようとして、絶対無理って言ってた”
”ひでお以外に誰も出来ねえよw”
「DMを解放したのですが、さっそく数名の方から、質問がありました――1本の剣で斬り続ければいいのでは?」
”たしかに”
”普通はそう考える”
”ひでおならそれだけで十分だろ”
”四刀流はロマンなんだよ”
「ご指摘の通り、腕を高速で回転し続ければ、1本の剣でも同じような攻撃が可能です」
僕はその通りに剣を振ってみせる。
”速すぎて見えねえ”
”もう、これで十分だろ”
「ただし、四刀流には2つのメリットがあります。今日は、それを証明してみます」
”メリット:カッコイイ”
”他のメリットが思い浮かばねえw”
”強いて言えば、剣が折れてもすぐ対応できるくらいか?”
「ということでやって参りました。上野毛ダンジョンです」
”上野毛って初心者向けだよな?”
”上野毛で相手になるモンスターいるか?”
”ほら、そこはアレだよ”
”いつものヤツ”
”初心者向けダンジョン(深層)”
「はい。ご指摘の通り、深層です」
”もう、深層配信が普通になったなw”
”ピクニック気分で深層行くなwww”
”さらっと、深層”
「ここは僕の家から最寄りのダンジョンで、探索者デビューしたばかりの頃は、ここで修行した思い入れのあるダンジョンです」
”上野毛って世田谷だよな”
”富裕層やん”
”深層潜れるんだから、ひでおの稼ぎなら、タワマンでもどこでも住めるだろ”
”特定はよ”
”明日からストーカー出没しそう”
”上野毛に近い高校といえば……”
”解析マン、はよ”
”さすがに、解析マンでもプライバシーは明かさないだろ”
「説明は後回しにして、まずは実戦で示してみましょう」
”完全に実験台w”
”頑張れ、モンスターwww”
”さて、今日の被害者は……”
「ここを選んだのは、前回のギガントオーガだと物足りないので、もう少し硬いモンスターが良いと思ったのです」
”ギガントオーガが物足りないwww”
”深層って一体……”
”また凄いの出てくるんだろw”
「上野毛ダンジョンの名物スポット――亀の巣穴です」
”いや、知らないからw”
”深層の名物スポットってww”
”名物スポット(ひでお専用)”
「では、早速、向かってみましょう」
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『上野毛ダンジョン(7)』
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