第2部

第51話 間話 虎夫とリリスと……


 ひでおが『池袋東口ダンジョン配信』を終えた後、虎夫は自室でリリスとビデオ通話していた。


「ねえ、ひでおさんの配信を観た?」

「おう、観たぜ。相変わらず、意味不明だな」

「あれで四刀流って言うのが、ひでおさんらしいよね」

「最初はどんな四刀流やるのか期待していたけど……あれはひでおにしか出来ねえよ」

「まったく参考にならなかったね」

「そのうち本当に二十刀流やりかねねえな、アイツの場合」

「ホントやりたい放題。モンスターに同情しちゃった」

「ギガントオーガとか、『十二騎ウチ』のトップメンバー数人で戦う相手だぜ」

「そうよね。それをソロだもんね」

「今度、ひでおがウチの拠点に来るけど、みんなスゴい会いたがってる。メンバー全員くるんじゃねえか」

「ひでおさんだもんね。そういえば『十二騎』ってどこら辺まで攻略してるの?」

「深層の最奥までは制覇している。深々層は入ったばかりのとこまでだな。深々層は深層とは隔絶した難易度らしい」

「ひでおさんなら、深々層も攻略してそうね」

「さすがにひでおでも……いや、やってるな」

「深々層動画公開したら、どうなるんだろうね」

「そこまで行ったら、世界的に大騒ぎだろ」

「すでにマスコミはオファーかけてるみたいよ」

「まあ、そうだろうな」

「でも、助けるマンが全部シャットアウトしてるんだって」

「アイツも謎だよな。ひでおと同じくらい化けもん。ウチと関わりのあるガジェット技術者が『あり得ない』を連発してたな」

「雇われみたいだけど、どこなんだろうね?」

「公的機関だったら隠せないから、民間だろうけど隠す理由がないんだよな」

「普通だったら、大々的に宣伝するよね」

「公開するタイミング狙ってるんだろうな」

「公開した瞬間に、株価爆上げだよね」

「ああ、間違いない」

「やっぱりNDGIかな?」

「ウチの技術者もその可能性が一番高いって言ってたな」

「あそこは創業一族の一条いちじょう家の持ち株保有率8割以上でしょ?」

「ああ、さらにNDGIの影響力がますます大きくなるな」


 そのとき、虎夫の部屋の扉がガチャリと開く。

 虎夫が振り向くと、天使のような幼女がじーっと虎夫を見つめていた。

 虎夫と目が合った幼女は後ろを振り向いて大声を出す。


「ママー、パパが女の人と話してるー」

「ちょっ、虎虎とらこ、そういうんじゃないんだよ」


 それを聞いた虎夫の妻が虎虎を連れてやって来た。

 妻は画面の向こうのリリスに挨拶をする。


「咲花リリスさんですね。いつも主人がお世話になっております」


 にこやかな笑顔で言われ、虎夫だけでなくリリスも動揺する。

 お互いやましい気持ちはないのだが、虎夫の妻には不思議な迫力があった。


「はっ、はじめまして。ダンジョン配信者の咲花リリスです。虎夫さんにはいろいろとご教示いただき、感謝しています」

「うちの虎夫こそ、リリスさんから配信について教えてもらえると喜んでいますよ。これからもよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします。虎夫さん、それではまた」

「おっ、おう」


 妻の圧に押され、リリスはそそくさと通話を終了した。


「虎ちゃん、あっちで遊んでてね。ママはパパとお話があるから」

「はーい」


 虎虎は素直にリビングへと去り、二人きりになると妻は虎夫と向き合う。


「可愛い方ね」

「いっ、いや、そういうわけじゃ」


 狼狽する虎夫を観て、妻はプッと吹き出す。


「パパは出会った頃から変わらないわね」

「…………」

「ダンジョンの中では堂々として頼もしいのに、男女の話になるとまるで中学生みたい」

「うっ……」

「パパが女の子を口説けないくらいちゃんと知ってるわよ。だって、私に告白したときなんて――」

「そっ、その話は止めてくれ」


 楽しそうに告げる妻とは対照的に、虎夫は顔を赤くする。


「でも、逆の場合は気をつけてね。パパは最近、普通の人にも知られるようになったんだからね」

「ひでおのおかげでな」

「パパは格好いいからね。女の子に迫られるかもよ?」

「もちろん、ちゃんと断るぞ。虎虎の写真を見せるからな」

「それくらいで諦めない子もいるのよ。良いパパってのが魅力的だって思う子もいるんだから」

「そうなのか? でも、リリスは」

「あの方はしっかりしてるからね。でも、そうじゃない子もいるの」

「うーん……」


 まさに中学生レベルの虎夫にとっては、まったく理解できない話だった。

 それに妻の言う通り、強く迫られたときにどう対応すれば良いか分かっていない。


「虎夫さん、今度、食事に連れてってください!」


 妻がキャピキャピと媚びる演技で虎夫に迫る。


「うっ……」


 演技だと分かっていても、虎夫は対処に困りドギマギしてしまう。


「ほらね。これでもちゃんと断れる?」

「それは……」

「また、今度な――みたいに、はぐらかすんでしょ」


 図星だった。


「しつこく迫られても、食事くらいなら――そう思っちゃダメよ。一度、承諾したら、どんどんエスカレートしてくんだから。ほら、自信ないでしょ?」

「…………」

「そういうときはこう言えばいいのよ『いいよ』」

「えっ?」


 虎夫はわけが分からない。

 断るんじゃないのか?


「そして、こう続けるの『妻の手料理を振る舞うから、今度、遊びにおいでよ』。笑顔でね」

「はっ!」

「断ってもしつこいからね。相手の要求を断らないで、それ以上の返事をすれば良いのよ。ここまで言えばほとんどの子が引き下がるわ」

「ほとんど? これでもまだ、食い下がってくることがあるのか?」

「ええ、女は恐ろしいのよ」

「どうすればいいんだ?」

「そのときは私に教えて。私が話をつけるから」

「おっ、おう……」


 怒ったときの妻を知っている虎夫の背筋に冷たい汗が流れる。


「これで大丈夫ね」

「……やっぱり、ママはすごいな。うん。これで大丈夫だ」


 妻の天才的な回答に、虎夫は衝撃を受けた。

 そして、それと同時に、妻には一生、頭が上がらないなと、あらためて思った。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『DM解放』


おかしい。最初はただのヘイトキャラだったつもりが、虎夫を描くのがどんどん楽しくなってる……。


虎夫好き? 嫌い?


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