第43話 打ち上げ(1)
午後5時になり、依頼は完了。
虎夫と咲花リリスさんと三人で、虎夫オススメの居酒屋に向かった。
居酒屋と言っても、20畳くらいはありそうな和風の個室で、高級料亭そのものだ。
僕がこんな場所にいていいのか――と違和感に落ち着かない。
二人ともビールだけど、僕は未成年だからオレンジジュースだ。
乾杯を済ませると、リリスさんが頭を下げる。
「お疲れ様でした。ダンジョンヒーロー様」
「えーと……その、『ダンジョンヒーロー様』ってのはちょっと……」
「では、ひでお様」
「いや……」
「おいおい、ひでおが困ってるじゃねえか」
「でも、ひでお様は私の命の恩人なので」
「その呼び方はやめてもらえれば嬉しいのですが……」
「なら、ひでおさんで」
リリスさんも僕より年上なので、どうも落ち着かない。
だけど、これ以上は譲ってもらえなそう。
ここら辺が落とし所だろう。
「それにしても、どうして虎夫が?」
気になっていたことを尋ねる。
今回のは人気のある依頼だけど、虎夫が好んでやるようなものじゃない。
彼なら依頼を受けるとしても、先日のように強いモンスター相手の依頼を選びそうだ。
「ああ、神保町の一件で気がついた。いかに自分が調子に乗ってたかってな。それをひでおが教えてくれた」
虎夫は恥ずかしがるように頬をかく。
「自分はトップ探索者。チャラチャラやっている配信者とは違うと――
自分の間違いを認めてやり直す。
なかなか簡単なことじゃない。
「もう配信者をバカにしたりしねえ。ボスにも怒られたぜ。配信者がいるからこそ、新規の探索者が増えるってな。どんな分野でもガチ勢だけじゃ先細りだぞってな」
僕だってそうだ。
ダンジョン配信を観て、ヒーローに、探索者に憧れた。
だからこそ、格好いいヒーローでありたい。
今の虎夫なら格好いい探索者の姿を後輩に見せてくれるはずだ。
「あれからいろんな配信を観たけど、面白えな。ダンジョンでメシ作ったり、ワイワイやったり。初心者向けの動画もタメになるやつがいっぱいあった。食わず嫌いだったって反省したよ――」
楽しかったぜ、と虎夫は語る。
「ひでおのアーカイブも観たぜ。凄すぎて参考にならなかったけどな」
虎夫はガハハと豪快に笑う。
彼にそう言われて、少し照れる。
「それにしても、二人がお知り合いだとは、意外でした」
「ひでおのおかげだよ」
「そうなんですよ」
「えっ!?」
「ほら、俺たちの共通点」
「あっ!」
「私も虎夫さんもひでおさんに助けられました」
「つーことだ」
「なるほど、そういうことですか」
「お互いダンジョンヒーローに助けられた同士ってことで意気投合してな、ダンジョン配信について教えてもらったんだ」
「いきなり、連絡が来たときはビックリしました」
二人のやり取りを見てると、だいぶ打ち解けているようだ。
意外な組み合わせだな。
「ずいぶん仲良しですね。もしかして、二人って……」
「違いますよぉ」
リリスさんはブンブンと首を振って全力で否定する。
そんなにムキにならなくても……。
「ああ、勘違いするな。そういう関係じゃねえ。俺には世界一の天使がいるからな」
虎夫には似合わない蕩け顔で画像を見せてくれた――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『打ち上げ(2)』
天使とは?
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