第44話 打ち上げ(2)

「ああ、勘違いするな。そういう関係じゃねえ。俺には世界一の天使がいるからな」


 虎夫には似合わない蕩け顔で画像を見せてくれた――。


 7,8歳ぐらいの女の子。

 白いワンピースに麦わら帽子。

 ひまわり畑の中で、ひまわりのように輝く笑顔。

 確かに天使だ。

 しかも、この表情は完全に心を許している相手に向けられたものだ。


 えっ、これは、通報した方がいいの?


「なあ、カワイイだろ?」

「えっと……」

「娘の虎虎とらこだ。どうした、そんなに見入って。いくらひでおでも娘はやらんぞ」

「とらこ……」


 色々と衝撃的すぎて、頭が追いつかない……。


「下心で近づいてくる探索者が多いから普段は警戒してるんだけど、いきなりこの画像を送られてね。話しても親バカ丸出しなんです」

「まあ、そんなわけで、一緒に依頼を受けようって話になったんだよ」

「まさか、ひでおさんが来るとは思わなかったけど」

「そういうことだったんだ……」

「ああ、驚いたぜ」


 いや、驚いたのはこっちの方なんだけど……。


「そうそう。この前、助けてもらったお礼があるんだよ」

「えっ、いや、そう気をつかわなくても……」

「ああ、そう言うと思ってな」

「お金やなんかだと、ひでおさんにはあまり喜んでもらえないと思ったので」

「なに、大したもんじゃねえから受け取ってくれよ」

「はあ」


 虎夫がカバンからある物を取り出す。

 それは――。


「これなら受け取ってくれるだろ?」


 ぬいぐるみだ。

 クレーンゲームの景品のようなヤツ。

 でも、手作りの品だってひと目で分かる。

 だって――。


「ダンジョンヒーローですね」

「ああ」


 それはダンジョンヒーローをデフォルメした可愛らしいぬいぐるみだった。

 わざわざ手作りしてくれたのか。

 思いがけないものだったが、これは嬉しい。


「ありがとうございます! 大切にします!」


 二人に感謝して頭を下げる。


「でも、リリスさん凄いですね。こんなに上手に」

「私じゃないんです」


 リリスさんが虎夫を指差す。


「えっ、もしかして」

「ああ、俺の手作りだ」

「こんな顔して、手芸が趣味なんですって」

「えええええっ!!!!」

「娘に頼まれて作ってるうちにハマってな」


 今日の虎夫には驚かされっぱなしだ。


「売り物に出来るくらいのクオリティーですね」

「ああ、気合い入れたからな。俺のぬいぐるみはそこそこの値段で売れるんだぜ」

「探索者を辞めても、これで食べて行けそうですね」

「おう。引退したら、その道もありだな」

「これ、配信で紹介してもイイですか?」

「もちろんだぜ。前回の配信で俺の印象が悪いかもしれないからな。これでイメージアップだ」

「あはは」


 確かにイメージは変わるだろうが、それは良い方向なんだろうか……。


「私からはこれです」


 リリスさんもカバンからある物を取り出す。

 それは――。


「彫刻……」

「ダンジョンヒーロー様の彫刻です。今回は自信作ですよ」

「えっと…………ありがとう……ございます」


 彫刻だ。

 宇宙怪獣にしか見えない彫刻だ。

 ダンジョンヒーロー要素は腕が二本あるくらい。

 下半身はどうなってるのかよく分からない。

 クラインの壺かな?


 虎夫を見ると、なんとも言えない苦笑いをしてる。


「私のも是非、配信で紹介してください」

「えっ……あっ……はい」


 ニコニコ顔のリリスさんを見ていると、「それはちょっと」とは言いづらい。

 紹介したら、リリスさんのイメージはどうなっちゃうんだろ……。


 ともあれ、気持ちは嬉しい。


「お二人とも、ありがとうございました」

「なに、礼を言うのはこっちだ。命の恩人だからな」

「そうです。ひでおさんがいなかったら、二人ともこの場所にいないですからね」

「じゃあ、これで貸し借りなしということにしましょう」

「こっちの借りが多すぎますけどね」

「でも、ひでおとしては、これで終わりにしたいんだろ」

「はい。貸しとか借りとか苦手なんで」

「ヨロシクな」

「よろしくね」

「よろしくお願いします」


 僕と佑が上手くやれているのは、貸し借りナシの関係だからだ。

 友人だからなにかするのは当然。やりたいからやっているだけ。


 僕にとって初めての探索者の友人。

 この二人ともそういう関係になれたらなと思う。








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『掲示板回(3)』


リリスの事務所「彫刻絶対NG」


ごめんなさいm(_ _)m

明日は更新お休みです。

火曜か水曜には……。



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