第42話 八王子ダンジョン(10)

【前書き】


感想欄で当てられちゃいました。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「ヒーローチェェェンジィィィィ!!!」


 俺が大声で叫ぶと全身が眩い光に包まれる――。


 音と光に、サルも探索者も動きを止めて、俺を見る。

 皆の視線を集める――これぞ、ヒーローだ。


 光が収まると同時に俺は変身していた――ボスザルそっくりの姿に。


 これが今回の切り札『ヒーローチェンジ』だ。

 その名の通り、相手の特定部位に1分間触れることによって変身できる。

 動物型モンスターの場合、その特定部位は頭だ。


 『ヒーローチェンジ』によって、俺はボスザルに変身した。

 姿だけでなく、スペックまでまったく同じだ。


 『ヒーローチェンジ』は格下モンスターだとスペックが下がるし、他にも色々と制約があるのだが、今回はこれで十分だ。

 なぜ、変身したのか――その理由はボスザルを倒した後に分かる。


「ウキキィーー」


 俺は威嚇するように吠える。

 ちょっと恥ずかしいけど、そこは我慢だ。

 ボスザルも呆気にとられていたが、俺の威嚇によって、ボスザルとしてプライドを取り戻したようだ。


 さあ、これからは同スペックのタイマン。

 格ゲーの同キャラ対戦のような状況で、戦闘技術だけで勝たなければならない。


 といっても、相手はただのモンスター。

 こっちは修練を積んだ探索者。


 戦いは一方的だ。

 相手に攻撃する隙を与えず、ボコボコに殴るだけ。

 ボスザルを倒すのは簡単だった。


 戦いが終わり、俺は再度吠える。


「ウキキィーー」


 俺はサルたちを見回す。

 目が合ったサルは口をパクパクと動かす。


 リップムーブメント――服従の合図だ。


 この瞬間、ボスは世代交代。

 俺がこの山のボスとなったのだ。


 そして――。


 離れていたメスザルが俺に駆け寄ってきて、一斉に抱きつく。

 彼女たちも俺をボスと認め、寵愛を受けようと必死なのだ。

 だが、メスザルに求愛されても、ちっとも嬉しくない。

 メスザルを引き剥がして――。


「ウキキィーー」


 戦闘を止めて、山に戻ってこいという合図――だと思う。

 変身機能によって、なんとなくサル語が理解できるような気がするのだ。


 実際、サルたちは俺の命令に従い、山に戻って来た。

 そこで、強そうなサルを数体を呼び寄せ――。


「ウキキィーー」


 そいつらは驚いた顔をする。

 俺の咆哮を人間の言葉にすると以下の通りだ。


 ――俺は旅に出る。次のボスはお前たちで決めろ。


 俺の言葉で次期ボス争いが始まった。

 こうなると、人間のことなんて視界に入らなくなる。

 そして、実際のサルと違って、コイツらのボス争いは殺し合いだ。

 これでサルたちの戦力が下がり、しばらくは今回のようなイレギュラーを起こさない。


 探索者がボスザルを倒した場合は、次期ボス争いよりも、探索者への怒りが上回る。

 サルどもは森へと飛び出し、手当たり次第に探索者を襲うのだ。

 これだけの数は俺たちで防げないし、初級探索者だとコイツらには勝てない。


 以上、俺がボスザルに変身した理由だ。

 ともあれ――。


 一件落着だ。


 血みどろの戦いを繰り広げるサルたち。

 それを横目にひっそりと山を下り。

 キョトンとしている探索者の間をすり抜け。

 森の中へと姿を消す。


 そして、誰からも見えなくなったところで、ヒーローへと戻る。

 それから、何食わぬ顔で探索者のところへ戻った。


「これでもう大丈夫だ」

「ヒーロー、すげえな、おい」

「さすがはダンジョンヒーロー様です」


 虎夫とリリスが興奮気味に話しかけてくる。

 他の探索者からも賞賛と感謝の言葉を浴びせかけられる。


 佑がくれた資料があって本当に良かった――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『打ち上げ(1)』

ハーレムだ!

やったね!


八王子ダンジョン編は長かったかな?

ひとつのダンジョンはもっと短い方がいいです?



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