第18話 神保町ダンジョン(3)
「ダンジョンヒーロー。変身ッ!!」
変身ポーズを決め、ダンジョンヒーローになる。
気持ちが切り替わり、ヒーローモードだ。
「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」
”キター”
”これが見たかった”
”見参ッ!”
さあ、
下層から大勢のスケルトンが
「俺らが左、お前らは右だ。ひでおは邪魔にならないように引っ込んでろ」
「…………」
”えっ……”
”あっ……”
”なにコイツ”
”マジむかつく”
”何様だよ”
完全に役立たずだと思われてるな。
だが、俺は気にしない。
「構わない。ヒーローの出番は誰かがピンチになったときだ」
”うお、かっけええ”
”ヒーローの貫禄w”
”虎夫の小物感”
”ほら、ピンチ早よ”
”虎夫ボコボコになれ”
”スケルトン頑張れ!!”
”↑さすがにモンスター応援すんなよwww”
――良い連携だ。
『十二騎』は5人がひとつになって、波のように前後に移動しながら、スケルトン集団の勢いを上手く殺しながら戦っている。
虎夫は自分から突っ込むタイプかと思っていたから、意外だった。
回りに目を配り、連携の要になっている。
”おっ”
”虎夫意外とやるじゃん”
”口だけかと思ってた”
”連携上手い”
”態度悪いけど、やっぱり『十二騎』強えな”
一方の『らんらん探検隊』はエナが突っ込んで「らんらん~」とかき回し、他の3人が上手くサポートしている。
”らんらん~”
”らんらん~”
”らんらん~”
”らんらん~”
”エナちゃん、かわかっこいい”
”ノリノリだな”
”楽しそう”
”他の三人もイイ動きだね”
確かに、俺が加わったら逆効果だ。
連携を乱してしまう。
虎夫は単に俺を見下していただけかと思ったけど、ちゃんと考えての上だったのかもしれない。
とはいえ――。
視聴者の皆は、物足りないだろう。
なので、彼らの邪魔にならないように、ちょっと動いてみるか。
俺は戦いから離れている一体をターゲットに定める。
”ヒーロー動くか?”
”なになに?”
”なにすんだ?”
ヒーローコスチュームにはいくつかの収納スペースがついている。
そこに左手を突っ込んで、あるものを取り出す。
そのうちのひとつを右手の人差し指で弾き――。
「ヒーローフィンガーブレットォォォ!!!」
俺が指で弾いて飛ばしたのは小石だ。
普通の小石ではなく、ダンジョン内で拾える小石。
普通のより何倍もの強度を持っている。
ダンジョン小石は真っ直ぐに飛んで行き。
スケルトンの胸にある赤い核を貫き。
スケルトンはバラバラになって崩れ落ちる。
胸部の赤い核はスケルトンの弱点だ。
そこにダメージを与えればスケルトンは倒せる。
普通は刺突を狙うのだが、こういう倒し方も可能だ。
”…………”
”…………”
”…………”
”…………”
”…………”
”なにが……おこった”
”なにも見えんかった”
”スケルトン一体死んでね?”
”死んだ”
”ヒーロー、解説してくれ”
視聴者はなにが起こったか分かっていないようだ。
俺は左手を開いて、配信端末に向ける。
「ダンジョン小石を指で弾いて飛ばす。ヒーローフィンガーブレットだ」
”おおおお”
”かっけー”
”まったく見えなかったけどなw”
”小石ってwww”
”モンスターって小石で倒せるんですか?”
”無理”
”不可能”
”ダンジョンヒーローだけ”
コメント欄が盛り上がっている。
どうやら好評だったようだ。
視聴者は誰も見えなかったようだが、虎夫は気がついたようでこちらにチラリと視線を向け、顔を歪める。
「おら、本気出せっ、全力攻撃だ」
俺に触発されたようだ。
仲間を叱咤し、攻撃がよりいっそう激しくなる。
この調子なら、彼らは問題なくスケルトン軍団を倒すだろう。
”虎夫、負けず嫌いw”
”大人げないww”
”でも、ちゃんと倒せそうだな”
”口だけじゃないっぽい”
だが、もう一方――。
『らんらん探検隊』は苦戦している。
ピンチとまではいっていないが、徐々に押されつつある。
このままだと、ジリ貧――押し込まれるのも時間の問題だ。
”らんらん、頑張れ~!!”
”エナちゃ~ん!!”
”ジオたん!!”
”トリアさまあ~!!”
”テセラん!!”
それは本人たちの方がよっぽど分かっている。
エナは俺を見て叫ぶ。
「ダンジョンヒーローさん、助けて」
「わかった。任せろ」
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『神保町ダンジョン(4)』
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