第17話 神保町ダンジョン(2)


「こんばんは。ダンジョン協会からの依頼でやって来ました。田中ひでおと申します。今日はよろしくお願いします」

「あ? なんだテメェ」


”なになに?”

”ひでお、絡まれてる”

”誰だよ”

”声の段階ですでに怖い”


「『ひでおのダンジョン配信チャンネル』のひでおと申します」


”ひでお、まったく動じてねえw”

”平常運転”

”俺だったら、謝ってる”


「チッ、配信者かよ。ここはお前らみたいな半端者のガキが来る場所じゃねえんだよ。とっとと帰れ」


 僕に絡んできたのは大柄で20代半ばの男だ。

 ボサボサの髪の毛は金と黒の縞模様。

 初対面なのに、敵意を剥き出しだ。


”うわ”

”ひでおのこと知らねえのか”

”ガチ攻略勢っぽいな”

”ガチ勢は配信アンチだからな”

”話題になってるひでおのことむっちゃ嫌ってそう”


「たしかに僕はガキですが、ダンジョン協会からの依頼を受けてきたので、帰るわけにはいかないんですよ」

「んだとッ? クソっ、協会はいつも余計なことをしやがる」

「お名前をお訊きしても?」

虎夫とらおだ」


”とらおw”

”たいがーww”

”カッコイイ名前()”


”有名人?”

”こいつ、『十二騎』だろ”

”だな”

”『十二騎』?”

”ガチ勢の大手クラン”

”メンバーは百人以上。虎夫は中堅クラス”

”なんだ、ただ吠えてるだけじゃないのか”

”まあ、普通の探索者なら道空けるレベル”


「虎夫さん。よろしくお願いします。それで、この戦いを配信してもよろしいでしょうか?」

「アイツらもやってるんだ。勝手にしやがれ」


”ヘイト高すぎw”

”完全に悪役むーぶ”

”死亡フラグたてた?”

”とらおざまぁ早くwww”


 虎夫さんはそれだけ言うと怒った様子で仲間の元へ戻っていった。

 彼が言ったアイツらとは――。


「やっほー。ひでお君!」


”女の子キター”

”声ですでにカワイイ”

”聞き覚えある”

”俺も”


「あっ、あなたは」

「知ってる?」

「もちろんです。配信を見させていただいてます」


”やっぱり配信者か”

”まさかのコラボ”

”わくわく”


「おお、嬉しいねえ。みんな、今日はサプライズ。今、一番話題の大物ゲスト登場だよ!」


”たしかにひでお以上のサプライズゲストはいない”

”向こうのチャンネルどこ?”

”はやく映像プリーズ”


 彼女は配信端末に向かって俺の登場を告げ、こちらを向いて頷いた。

 配信端末が俺の方を向く。


「あっ、どっ、どうも、『ひでおのダンジョン配信チャンネル』のひでおです。今日はよろしくお願いします」


”噛んだ”

”やっぱり噛んだ”

”配信慣れしてなくてカワイイ”


 彼女も配信者だ。しかも、トップレベルの人気を誇っている。

 名前は成美なるみエナ。

 『らんらん探検隊』という配信者グループのリーダーを務めている。


 『らんらん探検隊』は彼女を含めて4人の女性グループ。

 他の三人も端末に向けて話している。


「ああ、虎夫さんが言ってたのは、成美さんたちのことでしたか。僕も配信していいですか?」

「おっけーだよ!」

「ありがとうございます!」


 僕は配信端末を操作し、映像を表示する。


「えーと、音声で分かったかもしれませんが、『らんらん探検隊』と共闘するみたいです」


”映像キター”

”『らんらん』か!”


 端末を彼女たちに向けると、四人は順番に名乗っていく。


”エナちゃんだ!”

”ジオたん!”

”トリアさまあ~”

”テセラん!!”


 まさか、最初のコラボがこんなに早く実現するとは思わなかった。

 しかも、咲花リリスさんに続いて、今回も人気配信者だ。


「後はもうひとパーティーも参加していますが、あまり映さない方がよさそうなので……」


”あれはかかわらん方がいい”

”強いけど感じ悪い”

”男ばっかだし”


 虎夫さんたちはもうこちらを見てはいないが、憎々しげな気配が伝わってくる。

 あまり、よく思われていないようだ。


「せっかくのコラボなので、狩りの季節ハンティング・シーズンが始まるまで、一緒に雑談しようよ」

「いいんですか?」

「こっちがお願いしたいくらいだよ」

「では、よろしくお願いします」


”おおお、雑談キター”

”ひでおちゃんとしゃべれる?”

”絶対噛むw”

”今日はメインの前ですでに神配信!!”


 しばらくの間、雑談をしながら狩りの季節ハンティング・シーズンを待つ。

 僕たちの会話はどちらのチャンネルでも好評で、コメント欄は大いに盛り上がっていた。


 思わず頬が緩む。

 先週まで孤独なソロ配信をやってた俺からしたら信じられない光景だ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎる――。


「おら、来るぞ。俺たちの足引っ張るなよ、ガキンチョども」


”えらそうw”

”かませ犬臭が凄い”

”ざまぁパターン希望!”


 虎夫さんたちが臨戦態勢に入る。

 『らんらん探検隊』も雑談モードから切り替え、僕も続いて――。


「ダンジョンヒーロー。変身ッ!!」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『神保町ダンジョン(3)』


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   ◇◆◇◆◇◆◇



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