第4話 手を翻せば雲となり手を覆 せば雨となる
その場からどうやって帰ったか覚えていない。
ただ誰かに聞かれて答えたような気もする。
気付いたら事務所兼自宅のベッドに裸でねねの奴に組み敷かれていた。
そして耳元で囁かれた。
いくら甘えてもいいんですよ。
ふざけるな!
唯々あとは怒りをねねの身体にぶつけた。
怒りを劣情に変え、八つ当たりと分かっていてもぶつけた。
最初は優しく受け止められていたが、3時間も経つと余裕がすっかりなくなり「ごめんなさい」やら「ゆるして」「死んじゃう」など言ってた気がする。
わからせである。
ちょっとすっきりした。
すこしうつらうつらした後、気怠いまま朝を迎えた。
俺の普段の朝は早く、夏は5時に起きる。
習慣はこういう時は少し厄介なものだ。
今日は仕事を休みにするか。
こういう時自営業は気楽でいい、病気になったりケガをしたら大変だが。
ちらりとベッドでまだ力尽きて俯せに寝ているねねのケツを見る。
・・・シーツ洗わないといかんな・・・。
こいつのやったことは褒められたことではない。
表面上はうまくやってた関係が完膚なきまでに破壊された。
もう元に戻ることはないだろう。
それが砂上の楼閣であろうとも幸せな時間であった。
だが、甘ったれた幸せだったころの夢から覚ましてくれたのかもしれない。
いや、それはいいように取りすぎか・・・。
なんだか無性にタバコが吸いたくなってきた。
3度目の禁煙中だったが、知った事か。
「おはようございます。」
俺がタバコを取りに起き上がった事で目が覚めたのか、ねねも半身を起こしてこちらを見た。
相変わらず瞳は濁っているがいい笑顔だ。
あれだけやられて普通に起きるこいつもタフだな・・・。
「素敵でしたよ!私初めてだったんです・・・責任取ってくださいね!」
「ほざけ。」
吐き捨てるように言うと、何が面白いのかねねはけらけらと笑う。
カラカラと音を立て、ベランダの窓を開ける。
早朝の空気が室内に流れ込み、夜の気配を洗い流していく。
タバコに火をつけようとしたが、ライターがない。
そうだ、禁煙するって決めたとき処分したんだった・・・。
恰好つかないが台所で火をつけるかなと思っていると、ねねがいつの間にかそばに来ておりタバコを奪い取った。
「タバコは臭いし体に悪いからダメです!禁止!」
「一回ヤったくらいで彼女気取りか・・・。」
「私喘息もちなんでやめてほしいです。」
「あ、はい。」
ため息を一つつき、景色を眺める。
ぼっーっとしているとねねが話しかけてくる。
「りっくん、あんなこと言ってたけど多分友達と思ってたと思いますよ。」
「そうだなあ・・・。」
「あなたの話、ちょくちょく聞いてましたし。それで興味持ったんですけどね。」
何と答えたらいいかわからない。
色々とこいつには恥ずかしいとこ見られたなあと今更ながら気づいた。
きまりが悪くなりちらりとねねの表情を見ると「わかってますよ」みたいな顔でこっちを見ている。
ムカつく。
「そういやあ、なんでお前あんなチンピラと飲んでたんだ?」
「あーあれはですねー・・・世直しというか・・・。ナンパして酔い潰してお持ち帰りするようなクソどもに、二度とそういう事しないように体にわからせるのが趣味なんです。」
「(絶句)」
ニィィィっと背筋が凍るような笑顔でつづける。
「あのての輩はですね、痛めつけられても警察に言わないんですよぉ・・・だからですね・・・」
「もういい、やめろ。俺は何も聞いてない。巻き込むな。」
「楽しいですよ?」
綺麗な顔で嗤う。
やべえ女だ。
「・・・俺はどうすればよかったんだろうなあ・・・」
朝飯を買い置きのパンとコーヒーで済ませた後、二人でぼんやりしているとき思わずつぶやいてしまった。
特に答えを求めての言葉ではなかったのだが、ねねはしっかり聞こえたようだ。
「んーん・・・。」
ちょっと首をかしげて立ち上がり、あの時のように俺の後ろから抱きしめて耳元で囁いた。
「あなたは、悪くない。」
昔、死ぬほど誰かに言ってほしかった言葉だ。
昔、心から言ってほしかった言葉だ。
「あなたにできることは何もなかったんですよ。」
甘く、心の罅に染み込む言葉だ。
だからこそ腹が立つ!
「・・・やめろ。それは今の俺に対する冒涜だ、わかってんだろ?過去があってこその俺だ。」
「そうですね、だからこそあなたの在り方が愛おしいんです。」
笑みを含んだ濁り切った目がこちらを見ている。
「抑えきれない怒りを、強靭な理性で抑え込んでいる。一目見てなんていびつな人なんだ!って興奮を抑えきれませんでした。」
瞳孔が開く。
「半端な優しさ、半端な弱さ、どうしようもないほどのさみしがり屋!なんてバランスが悪いのかしら!いつ壊れてもおかしくないですねえ・・・だからこそ魅力的。」
うっとりした表情でこちらを見ている。
あぁ、こいつの愛は歪んでいる。
だからこそ俺にはそれが必要なのかもしれない。
「ずっとお傍で見てますねえ?」
「勝手にしろ。」
そういってねねと軽く唇を合わせた。
おわり
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今回は主人公が寝取る側でした・・・好きで寝取ったわけじゃないけど・・・
簡単なキャラクター紹介
主人公
3話書いてるときに名前つけてねえことに気付いた。
まあつけてなくても話は成立してるからいいかってなって名前なしのまま終わった。
仕事は私立探偵。
高校中退後、年ごまかして探偵事務所の小間使いみたいな仕事して経験を積んだ。
ちょっとグレーな仕事も一通り経験済み。
彼女はいた事ないが、別れさせ屋とかやってた経験からそっちの経験はあり。
イメージとしてはクトゥルフ神話でプレイヤーの探偵みたいな感じ、いろいろできるやつ。
そっちにイメージが引っ張られてSANチェック失敗したロールみたいな感じになった。
体格はゴリラ。
李徴(友人)
我が友って打ったら指が勝手に李徴ってつづけたからもうそのままつかった。
話のサブタイトルが故事成語なのはそっちに引っ張られてた結果。
悪い奴ではないはずなのだが、なんか嫌な奴になっちゃった。
一応後で仲直り(元通りではない)はした。
彼女は寝取られるし友達と溝ができるし、割と踏んだり蹴ったり。
初期プロットではもっとひどい目に合う予定だった。
その場合のサブタイトルは天網恢恢疎にして漏らさずにする予定だった。
俺この言葉好きなんだよね・・・。
体格はもやし。なんちゃってチャラ男。
ねねちゃん
出なかったけど苗字も決めてた。紺野。
名前は寧々。全部口でいってるからひらがな表記だったけど、わかりにくいから漢字にすればよかったかな・・・。
最初は浮気する頭悪いクソ女枠だったんだけど、なんか属性がもりもりついて悪女というかそんな感じになった。書いてるうちになんかこう、割といい女みたいになって困惑した。もっと悪魔みたいな女にするつもりだったんだけど。
どうでもいいけどはじめてなのはほんと。
りっくんはまあ、そんなに嫌いじゃなかった。
もっと好みの奴がいただけなのだ・・・
一作目よりちょっとだけ考えて書きました。
そろそろもうちょっと長めの話を書いてもいいかもしれんな・・・
夢さえ見れない俺たちは みかんねこ @kuromacmugimikan
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