第2話 虎の威を借る狐

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

沈黙である。

飲み屋の喧騒の中、ここだけは静かだ。

「マジで?」

「た、たぶん・・・。」

ちょっと自信なさそうに言うわが友。

自分の彼女くらい断言しろよ。

まあ、だいぶん酔っぱらってるしなあ・・・。

あちらは気づいた様子もなく、いちゃいちゃしてる。

マジで乳でけぇな。

「どうする?」

「・・・どうしたらいいと思う?」

さっきまで赤かった顔を青くしながら狼狽えた様子で尋ねてくる。

信号機かな?

俺に聞くなよ、お前の彼女だろ。

「もし絡まれた結果なら助けたほうがいいし、浮気なら様子見て確実な証拠掴むとかか思いつくのはそれくらいだな。」

婚姻関係にないカップルの浮気は法的措置取れないからなあ。

別れないならマウント取れるくらいしかメリットないんだよね。

「う、浮気!?まさかねねちゃんが!?」

ひどく動揺しておられる。

ねねちゃんって名前なのか、ほーん。

この手の浮気が判明した際の男の対応は大体3つだ。

怒るか、泣くか、パニックになるか。

我が友はパニック型だな。

なんで詳しいかというと、俺の仕事が探偵だからだ。

浮気調査とかは割と簡単で美味しい仕事である。

友達だし格安で素行調査受けてやってもいいかなと考えていると、ねねちゃん一行に動きがあった。

酔っぱらって千鳥足になったねねちゃんを、チンピラみたいな男二人で店を出ようとしている。

あーこれはアレだな、ホテル行きだな。

「どうする?」

もう一度聞く。

「お、追いかける!助けなきゃ!」

あ、浮気じゃないことで自分に折り合い付けたのね・・・。



「ねねちゃん!」

店から出て徒歩10分ほどのホテル街の途中にある公園で、我慢できなくなったわが友がねねちゃん一行を呼び止めた。

「あんだぁ?テメェ・・・?」

チンピラAが凄んでくる、わぁ絵にかいたようなチンピラだぁ・・・。

「そ、その子を放せ!」

膝かくかくさせながら、わが友がチンピラたちに叫ぶ。

生まれたての小鹿みたいである。

怖いのにようやるなあ、酔っぱらって気が大きくなってるだけかもしれないが。

「放さないならこいつが黙っちゃいないぞ!」

俺を指さして言う。

丸投げかよ。

チンピラたちの視線が俺に向かって若干怯えを含んだものになる。

あ、ワタクシ身長190cm体重100kgのマッスルボディです。ちっちゃくないよ!

「その子、俺のツレの彼女らしいんだぁ。放してくれんかな?」

なるべく穏やかに話す。

荒事は起こさないに越したことはない、警察絡むと色々面倒なんだ。

「でかいだけだろ、こっちは3人いるんだ!ケガしないうちにきえろ!」

穏やかに言ったのが悪かったらしい。

やる気である。

すごいな、漫画でも今時見ないチンピラやぞ・・・。

殴りかかってきたので、足払いして転がして背中を踏んだ。

ケガさせないように無力化するの得意です・・・高校中退した後すごい絡まれたからね・・・。

「どうする?」

誰にともなく問いかけた。


酔っぱらってふらふらしてたはずのねねちゃん(未確定)が目を丸くしてこちらを見ている。

「ねねちゃん?ですか?一応君の彼氏?の友達なんだけど。」

なんかすべてがあやふやな質問だぁ。

「あ、はい・・・ねねです・・・。」

合ってたらしい。

人違いだったら恥ずかしかったからよかった。

「て、てめぇ!タクヤを放せッ!」

チンピラBが殴りかかってきたので転がして、チンピラA改めタクヤくんに重ねて踏んだ。

「どうする?」

もう一度聞いた。


チンピラCはすっと真顔になり

「あの、放すので許してもらえます?」と伝えてきた。

賢い。


ねねちゃん(確定)を無事確保して、少し離れた場所に移動した。

ねねちゃんとわが友に水を買ってきて渡す。

とにかく落ち着かせないと話にならんからな。

「ねねちゃん!なんであんなのと飲んでたの!?」

あぁ~ダメな問い詰め方だぁ~

まずは優しくケガとかなかったか聞いたほうがいいんだよ・・・

「うん、まあ・・・いろいろあって・・・」

ねねちゃんも言いたくねぇ感あるなあ。

これはもうだめでは?

「俺のこと嫌いになっちゃったの!?浮気なの!?」

「嫌いになったわけじゃないの・・・」

「じゃあなんで・・・」

「・・・ごめんなさい・・・」

もう帰っていいかな・・・俺・・・。


「そんなことより!」

いきなりねねちゃんがパァンと手を叩き、きらきらした笑顔をこちらに向けてくる。

「とってもお強いんですね!」

「ああ、仕事柄揉めること多いですからね・・・多少は鍛えてます。」

なんだこいつ。

とても いやなよかんがする。

彼女はにこにこしながら俺の手を握りながら言った。









「私とお付き合いしてもらえませんか!?」

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