夢さえ見れない俺たちは

みかんねこ

第1話 天知る地知る我知る人知る

よく街頭アンケートで「将来的には結婚したいですか?」とか「彼女・彼氏は欲しいですか?」などという内容があるようで全くない質問があるよな?

正直な話、そりゃ出来たら結婚したいし彼女も欲しいよ!

でもできねえんだからしょうがねえわな。

金もねえ、顔もよくねえ、性格もよくねえ無い無い尽くしの俺にどうしろって言うんだよ、お前もそう思うよなあ!?

「まぁ、そういうヒネた事ばっかり言ってるうちは無理だと思うわ。」

中学時代からの腐れ縁たる我が友李徴が呆れたように漏らす。

「うるせえ、うるせえ!自分は彼女出来たからって余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!」

心からの叫びである。

この男、なんか急に彼女ができたらしいのである、死ねばいいのに。

「わははははははは!弱者男性の心の叫びがこの身にしみるぜェ!そうさ!俺は!苦節21年!念願の彼女もちさァ!」

鼻の穴膨らませてムカつく面してやがる。

「彼女に振られた上、できる限り無残に死んでほしい・・・。」

「・・・あの、真顔でボソっとつぶやかないでほしいです・・・。」

なんか急にシュンとして凹む。

メンタルよっわ。メンタルマンボウかよ。

「逆の立場で考えてみろよ、お前もちょい前同じ立場だったからわかるだろ。」

李徴は視線を右上にやり5秒ほど考えた後、目をつぶり重々しく呟いた。

「彼女寝取った上、出来るだけ残酷な殺し方でコロす。」

瞳孔が完全に開いている。

怖い。

なんでこんな奴の友達をやってるんだ、俺。


李徴のやつはアホであるが勉強は割と出来て、結構な大学に通っている。

対して俺は高校中退のクソザコ底辺社会人だ。

一応通ってた高校はなかなかの進学校だったんだぜ?

そこでまあまあの成績を残していた俺がなぜ中退して働かざるを得なくなったのか。

聞くも涙、語るも涙の物語がそこにあるのだ。

端的に言うと、通ってた高校で教師やってた親父が生徒と駆け落ちした。

バカじゃねぇの?

いきなり家に離婚届が送り付けられたかと思ったら、同級生と駆け落ちしたという電話が掛かってきて混乱してたら、3日後未成年者略取とかいろいろな罪で捕まった。

もうどうしようもないので離婚届けを提出したかーちゃんはそのまま心労で倒れ、当然のように俺も高校にいられなくなって退学した。

成績は良かったから何とかして高校卒業くらいはしたかったが、引っ越して別の高校に編入したりするカネは我が家にはなかったのだ。

親父が全部使ってた。

ほんとロクなことしねぇな、アレ。もう出てこなくていいよ。

もともと両親自体が駆け落ちして一緒になったという経緯があったため、親類関係は全滅。

文字通りだれにも頼れなかった。

物語だったら学校の先生とか近所の幼馴染の親とかが助けてくれたりするのだろうけど、現実はそんなに甘くなかった。

生きていくなら金が要る、金がなければどうする?誰かが稼ぐしかないのだ。

そんなカワイソーな俺から高校の友達や、それなりに仲良かったはずの幼馴染も全員フェードアウトしていったよ。

世の中世知辛いねえ?

そんな中、当時と変わらない友情を結んでくれてるのが今幸せの絶頂にいるわが友李徴である。

そんな彼の幸せを祈れないほど、俺は心狭くないぜ。


まぁ、そんな俺たちだがどこで何をしているのかというと、大衆居酒屋でのサシ飲みである。

全くモテなかった俺たちだが、李徴に彼女ができたからお祝いというわけだ。

今後は彼女を優先するということで、俺と遊ぶ機会も減る。

オトモダチがみんないなくなってしまった俺としては悲しい限りだが、そういうもんだろう。

なんだかんだで情に厚い李徴は、それの詫びということで今日はこいつのオゴりである。

お祝いということでこっそり俺が払うつもりではあるが。

あれだろ?彼女できたらカネかかるんだろ?

大学も忙しいだろうし、働いてる俺が出すのが当たり前ってもんよ。

だから彼女の友達紹介してね・・・マジでお願いね・・・?


お互いのモテなかった黒歴史を肴に楽しい時間は過ぎていく。

なんだかんだで人生で一番楽しかった時期を共有してるのはこいつくらいだからな。

「そういやお前の彼女ってどんな人なの?」

だいぶベロベロになっていた李徴くんは、顔を真っ赤にしながらよくわからない身振り手振りをしながら、「きれいなくろかみのロングでさぁー・・・すごいの!」

「すごいのか・・・」

具体的に何がすごいのか不明である。

きっとすごいのだろう。

「ちょっとたれめでさあ、やさしそうにわらうんだ!たぬき顔っていうの?そんなかんじでかわいいんだあ!」

たぬき顔ってたまに聞くけど、そもそもたぬきの顔ってどんなだっけ・・・?

多分俺が今思い浮かべてるのはアライグマだ・・・。

「おっぱいもクッッッッッッッッッッッッッッッソでかい、チチデカ。」

興奮しながら巨乳を示すゼスチャーをする李徴氏。

そのサイズだとスイカより大きいけど本当なの・・・?

「憎しみで人を殺せたらお前はもう10回は死んでる。命拾いしたな。」

そんなテキトーな返事をしながらふと店の奥に目をやると、黒髪でたれ目のたぬき顔で乳がクソでかい美人がいた。スイカより大きい。

こちらからは見えるが、向こうからはギリギリ見えないような絶妙な位置にいる。

どうやら男達と飲んでるようだ。

俺は小さく指さしながら

「あんな感じ?」と聞いてみた。

「そうそう・・・あんなかんじ。」

なんか動きが止まった。



「おれのかのじょじゃん。」

「え?」



李徴の彼女らしき女は横に座ってる男に嬉しそうに乳を揉まれていた。

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