吹雪の中の駅
天候が荒れることは知っていたが、時にはどうしても外に出ないといけないこともある。
あとは、この雪国の鉄道は猛吹雪でも運休しないことで有名だった。
それを信じていたところもある。
だが、現実は見事に全線運休だった。
この雪国最大の都市である駅には、幸い再開を待つ待合所や、夜を明かす宿泊場所はあった。
俺の長年の勘が、きっと今日はあきらめてホテルへ向かうのが賢明だと告げている。
しかし、俺は一縷の望みをかけて待合所で待っていた。
まだ午後四時だ。あきらめるには早すぎる。
あと、この待合所で他の人と共に待っている時間というのも好きだったりする。
待合所に設置された駅のアナウンス、雑踏がうごめく音以外聞こえなくなるこの場が、不思議な感じがした。
駅のほぼ中央に位置するから、外の音など聞こえるはずないが、外の吹雪く音さえ聞こえる気がする。
感じるはずのない臨場感もあった。
昔からここにテレビがあって、きちんと新しいものに更新されている。
待合所の各所にはストーブがあって、それに皆集まっているのも昔から変わらない。
これも、きちんと昔と違う新しいものになっている。
待合所が削減されていることが多いのに、ここまで充実した待合所が、昔と椅子の配置などは少し変わっているものの、置いてあるものがほぼ変わらないのも珍しいのではないだろうか。
ここは、昔から変わらず皆に必要とされていた。
外とつながっているから当たり前なのだが、昔から駅構内はとても寒くて、あれがないととてもではないが黙って待っていられない。
俺が拠り所にしている待合所の場所は変わっていない。
俺はそれに安心して、だから、俺は列車を待つ時、いつもここに来るのだ。
構内には店もあるのだが、何だかここにふらりと寄ってしまう。
ここにいると、色々な人が見れる。
イライラしたようにスマホを見るスーツを着た男性、すました顔で誰かと電話をしているおしゃれな女性、疲れた顔をしてぼうっとしている夫婦と、その横でつまらなさそうにゲームをしている子どもたち。
さすがに運休をしていて長いこと待たされているから、楽しそうな顔をしている人はあまりいない。
だが、ここにいる人は、ほとんど同じ目的の人だろう。
そう思うと、妙な一体感も感じられる。
俺は、それが好きなのだ。
しかもこれには、少し良いところもある。
そうして考え事をしていると、周りがざわつきだした。
俺は、駅の表示とアナウンスに注意を向けた。
どうやら、運転を再開した路線があるようだ。
こうやって、周りの様子を見ていれば外の様子もわかるのだ。
スマホの情報より、やはり現地が一番情報が早い。
よかった。俺の乗りたい路線も運転を再開したようだ。
やはり、この冬の時期は念のために前泊をしておいてよかった。
しかし、転勤による引っ越しのための移動初日に吹雪にあうとは、つくづく自分は嵐を呼んでしまうようだ。
できるだけ仕事では、嵐は起こらないでほしいのだが。
この調子だと、引越しの荷物が無事に明日着いてくれるのかさえ怪しい。
まぁ、そうなったら、またその時だ。
とりあえず、新居へ向かうことにしよう。
俺は、席を立ちあがってホームへと歩き出した。
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