3.モンスターと一緒に飯を食べるお話


 森でモンスターが出たなら、油断しちゃいけないとわかっている。

 でもすぐ戦闘だと構えられるほどの体力が残っていなかった。

 意思疎通の能力が彼の友好の意思を受け取っていること。

 それが鞭をおろす決め手だった。


「……ぎー」

「仲良くなりたいのか、俺と? なんで?」

「ぎー!」

「戦いが格好良かった? いや倒したの同族だ……って言っても人間同士もそういうのはあるか」


 目の前にいるゴブリンが出す尊敬の意思に揺らぐ。


「ぎぎ」

「いやそこまで褒められるとちょっと照れるが……」


 俺は頬を描く、会話はできていないのに素直な感情が伝わってくるのだ。


「そう思わせて攻撃とかは……さすがにないと思いたい。そういえばマーチャンも警戒してないな……」


 あのピリピリとしたマーチャンの意思は警戒だった、今ならわかる。

 前のゴブリンがそうだった。今はどうかといえばそれがない。


 つまりはちょっとくらい話をしてもいいのではないだろうか。


「会話はできないけど……」

「ぎぃ」

「あ、あぁ。仲良くなるって具体的には何がしたいんだ?」


 言葉が通じるかわからなくても、一応話しかける。

 ゴブリンの姿は先ほど殺した敵対ゴブリンとほぼ変わらない深緑の小人だ。

 近づくのはまだ怖い。


「ぎー!」

「俺を仲間にしてくれ? いやぁ……なんで? 憧れ……?」


 ゴブリンが俺に伝えようとしていることは大体しかわからない。

 会話しているうちに、俺は冷静になっていく。


「いや、仲間にしたいといってもなぁ。ん、マーチャンのことか、こいつはどうしていいのかって、そりゃ……なんだろ、隷属しているから」

「まー!」

「ぎー!」

「じゃあ隷属するって言われても……あれ、できるのか?」


 俺は自分のへそにある宝石に一度触れてみる。

 


ユイ ♂ 18歳

 魔法使いLv1 操獣士Lv1

*能力

 魔法(火/風/水/土)

 意思疎通

 隷属契約

 隷属能力強化

 隷属成長強化

 鞭術 

*スキル

 スマッシュ(皮の鞭)

 アツア(火種のナイフ)

*隷属者

 マーチャン



 隷属契約ってあったな。もしかしてこれでいけるのかも。

 ある程度は実践してみたほうがいいかもしれない。


「じゃ、じゃあこっち来て。あ、武器はそこに置いたままだよ」

「ぎ」


 ゴブリンがとことことこっちに歩いてくる。

 体を見回すと背中に宝石が埋まっていて、そこに触れてみる。



ゴブリン ♂ 2歳

 Lv3



 ステータスを見ながらなら、どうすれば隷属できるか検証できる。

 だが正直言ってゴブリンが怖い。

 このまま飛び掛かられたらとか思っちゃう。


「こ、こっからどうすりゃいいんだ、えっと俺に隷属する気はあるか?」

「ぎー!」



ゴブリン ♂ 2歳 ユイに隷属

 Lv3



 にじむようにステータスの文字に新しく加わった。


「あ、え、こんなんでいいのか? 軽すぎだろ」

「ぎっ!」


 ゴブリンはこれでいいなって顔で俺に笑いかける。

 隷属契約、もしかして強制力ないんじゃないかと不安になる。


「まぁ、悩んでも仕方ないか。これからよろしくなごぶり……そういえぁ名前とか付けたほうがいいのかな」

「ぎ?」

「ま~」

「えっ、マーチャンおしっこ? ちょっと待ってあー」


 マーチャンがプルプルと震えるので、両手で草むらのちょい上に浮かせる。

 ゴブリンはついてきた。


「さすがに種族名で呼ぶのはあれだよな、ブリンって呼んでいいか?」

「ぎー!」

「ま、まぁ~」

「よし、よろしくなブリン。あーまてまて! ちゃんとふってから」


 ブリンも一緒になってたちしょん始めた。腰布ふんどしみたいな構造してる。

 一応了承の意思はあったし、安心ではあるのかも。


「力が抜けたら俺も……ん?」

「まー!」


 マーチャンが叫ぶ。警戒の合図だ。

 俺はマーチャンのぐいぐいと指し示す方向に目を細めると、


「蛇?」

「ぎー!」


 森の奥に蛇みたいなのがいて、ついでにブリンが走り出した。


「ブリンやめい! まーだだ!」


 ブリンは敵モンスターを見つけるや否や、まっすぐ走りだした。

 命令を聞かないというよりも、聞こえてないのだろう。

 もちろんその叫び声と近づく姿に蛇は気づく。戦闘開始だ。


「ちっくしょ!」


 俺もブリンの後を追って鞭を取り出す。

 蛇は男の腕ほどある大きさの蛇で、正直道で目が合ったら腰を抜かす怖さだ。

 

「でも言ってらんないよな、スマッシュ!」


 俺はブリンが接触するよりも先にスキルを叫び、鞭を竿のように縦に振るう。

 スキルの効果も相まって、引っ張られそうなほど威力は高まった。

 そして、ブリンに気を取られていた蛇はその鞭を頭から受けてしまう。


「よしっ当たった!」

「ぎー!」

「いいっ!」


 蛇は地面から飛び上がるほどの衝撃を頭に受け気絶する。

 そのあと走ってきたブリンが、ためらいもなく蛇の首に剣を下した。

 戦闘は、あっけなくグロテスクに終わった。


「く、くびとれちった……その剣ボロボロだけど切れるんだな」

「ぎー!」

「ブリンさん何してんの!」


 ブリンは何を思ったのか、首の取れた蛇の胴体を持って断面から血を流す。

 驚きのあまり敬語になっちゃったよ。


「ぎー……」

「血抜き……う、食べる気なのか。もう情報の処理が追い付かねぇぞ」


 蛇の胴体は首を失っても神経でうねうねしてて怖い。

 食べるというブリンの意思が、俺も腹が減っていることに気づく。


「異世界に来て最初に食べるのが蛇なのか。いや、まあ干し肉っぽいのはあるけどいつ人里につけるかもわからないわけだし……現地肉食べたほうがいいのか」

「ぎー!」

「わかったわかった。食べるのに賛成するから薪をとってきてくれ。準備する」


 ブリンはすでに切込みから皮をはいでワタを取り出している。

 俺は石を積んでかまどを作ってから、白くなった蛇の肉とにらめっこ。


「初めての異世界ナイフが戦闘じゃなくて調理とは……鍋で焼けばいいし一口くらいに切るか。入れたら魔法の水で水洗いして……」


 しばらくするとブリンがたくさん小枝を持ってきた。

 俺はかまどに枝を入れて上に鍋を置く、その間に火種のナイフを差し込んだ。


「アツア」

「ま~」

「ぎ」

「あーこら近づくなやけどするぞ。しっかり焼かないと……」


 知識があるわけじゃないのでほぼ適当に焼いている。

 ただしっかり全体に火が通るように時間をかけて蓋もした。


「できた……んだよな。蛇のぶつ切り焼き。匂いはまあ生臭くない」

「ぎー!」

「まー!」


 俺が最初に毒見する。焼け残った小枝の一つで刺してから、


「んんっ!」


 ひといき覚悟して口の中に飲み込んだ。

 これが異世界の味。

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