Dreams Come True
鍋倉がアメリカに行って、すぐに新しい年を迎えた。
ゲームは、爆発的な大ヒットをし、様々なメディア化が進んでいた。
アニメや舞台化、グッズの販売など、それぞれのチームが多岐にわたってフル稼働していた。
そんな中、俺はと言うと。
ゲームのシナリオを続けながら、ちゃんと小説を書いていた。
狙う賞は、来年の一月。その次は四月。
とにかく書きまくったし、仕事した。
鍋倉とは、電話したりメールしたり続いていたけど、常に会いたかった。
特に、寝不足の時は、あの日を思い出すことは度々あった。
鍋倉の垂れ目、大きな手、優しい言葉を思い出して、眠りについた。
翌年、狙ってた賞は、見事に外れた。
でもまだ、諦めない。
ただ、やっぱり落ち込んだ。
そんな中、思っても見なかったところから、作品の評価があった。
夢に描いてたドラマ化の依頼だ。
深夜枠の30分。5回放送。
十分、嬉しかった。嬉しすぎて、時差を忘れて鍋倉に電話する。
あっちは、朝方五時。でも、出てくれた。
「どしたの?」
起きたばかりの声が、耳に届く。
「起こしてごめん。去年夏に出版した[ラバーズ]が、ドラマ化されるんだ、あ、まだ、誰にも言うなよ。関係者以外、まだ発表されてない」
「おめでとう」
優しい声が、受話器越しに伝わって、会いたくてたまらない。
この年の夏に、そのドラマが大ヒットして、ますます忙しくなっていった。
鍋倉とした約束から三年が経っていた。
賞こそないが、『風になりたい』という新刊が、読者から支持を得て、映画化されることになった。
秋に公開ということで、その前の映画祭で上映することが決まった。
海の綺麗な県で毎年行われているこの映画祭は、日本ではお馴染みのお祭りで、大いに盛り上がっていた。
鍋倉にも、映画祭のことを伝えたが、電話で話すタイミングがなく、メールで知らせたまま。返事は来ていない。
飽きられちゃったかな……。
明日、その映画祭で挨拶をするので、会場近くのホテルに来ている。
ホテルから見える、綺麗なビーチを切なく眺める。
俺は、いつ約束を果たせるのかな……。
映画『風になりたい』は、優秀作品賞をもらった。
この作品が、映画化されるにあたって、沢山の優秀なスタッフに恵まれたのだと感謝した。
自分一人では、こんな素晴らしい賞は、とれなかったはずだ。
ただやっぱり自分の力だけでは、なにもできないのかと落ち込んでしまう。
「おめでとう」
この映画の監督が話しかけてくれた。
「やっぱり、佐々木さんの作品は、面白い。さっき、脚本の武蔵君とも話してたんだけど、佐々木君の作品て、映像化されるために作ってるよね? 素晴らしい作品だよ」
そう言って肩をポンと叩いて行ってしまった。
「……」
確かに、映像化は夢だったから、結果的に嬉しい……凄く嬉しい。
授賞式の後の、レセプションは欠席して、ホテル前のビーチを歩いていた。
夏も終わり、夕方になると涼しくなる。
海に沈む夕日が綺麗で「鍋倉に見せたいな」……と呟いた。
「なにを俺に見せたい?」
息を切らせて、花束を持った、ビーチには相応しくないスーツに革靴の男が言った。
「……っ」
勝手に涙があふれて止まらなかった。
「なんで、お前が来るんだよ……俺が……俺が……お前に会いに、行くって……」
最後は言葉にならかった。
鍋倉が健太郎を抱きしめる。
「賞、とったじゃん。しかも夢だった映像化されて。やっぱり、凄いよ。凄い」
今まさにビーチに日が沈む。
そんな夢のようなロケーションで、更にそこに会いたかった恋人が俺を抱きしめている。
これが映画の中だったら、右下にFinという文字が出るのかな……そんなことを思いながら、強く背中を引き寄せた。
ビター・スウィート・メモリーズ choco @cho-ko3
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