決意と愛
鍋倉のアメリカ行きが、あと一ヶ月後まで迫っていた。
健太郎は、まだ鍋倉に返事をしていない。
正直迷っていた。
鍋倉と離れたくないということ。仕事が順調になっていて、日本を離れることに躊躇しているということ。
鍋倉は、俺の荒んだ気持ちを前向きにしてくれた。1番のファンで、これからも一緒にいたい。
でも、ゲームシナリオの仕事が思わぬ方向に向かっている。
このゲームがものすごい人気となっていて、このコンテンツを作り上げたチームと共にもっと仕事がしたい。
オンラインの会議でやりとりできる世の中ではあるが、今はリアルタイムのやりとりをしたい。
きっと、鍋倉も同じような熱量で仕事に向かっているのだろうな。
「だから、ここは駆け込み寺じゃないっつうの」
英子が叫ぶ。
何故か最近、健太郎以外の子羊から悩み相談があるらしく、英語のタバコの数が増えていた。
「英子ママ、俺が、いなくなったら寂しい?」
頑張って格好良く問いたつもりが、英子には全く通じなかった。
ふんと鼻で鳴らし、タバコの煙を顔に吹きかけられた。
「なにが、寂しいとか言ってんのよ。寂しくて不安?……笑わせるな、仕事の期待は、それを上回っているんじゃないの? ……自分で決めさい。つうか、もう決めてるんでしょ」
英子が目を細めて続ける。
「本気でかけるものができると強くなるものなのよね……」
英子の言う通り、もう自分の気持ちは固まっている。
あとは、本気で、やるだけだ。
レストランで食事をとりながら、おもむろに健太郎は、鍋倉に駐在行きを断った。
「ごめん。今、このコンテツをやるのは、俺がチームと一丸となってやらなければならない。駐在に行ってやること可能な仕事だ……だけど……今は、リアルタイムで進めたいんだ」
注がれたワインを飲み干して伝える。
「それに、今、仕事が楽しい……こんなこと初めてなんだ」
鍋倉の垂れ目が更に垂れた。
「俺も、健太郎の言うことすごくわかる。仕事は大事だ」
二人の間に長い沈黙が訪れた。
沈黙を破ったのは、顔を下に向けたままの健太郎だった。
「待っててくれなんて言葉は、言いたくない」
顔上げた健太郎は涙目になりながら続ける。
「……でも、俺には夢があって……やっぱり小説を書いていたい。だから、書いた本が、賞をとったら……会いに行く。俺が、お前に会いに行く……それまで待っていて欲しい」
最後一文は、とても小さかった。
鍋倉は、健太郎の手をとり、「待ってる」と強く握った。
鍋倉の家に着いて、すぐにベッドに向かう。
「いい?」と気を遣うの鍋倉の首筋に抱きついた。
「構わないよ」
鍋倉の耳朶にキスをして告げる。
その後は、二人の間に余計な言葉は無かった。
貪るように口付けを交わした。
お互いの何処に触れると気持ちよくなるのかは、わかりきっていて、更に深いところまで快楽を見つけることで、胸に広がる寂しさを埋めようとしているようだった。
健太郎の体を鍋倉の大きな指が這う。
いつもの丁寧すぎる愛撫に、体が蕩けた。
後ろの窄みに指入ってくる。ごつごつとした指は、ローションを纏わせ、容易く気持ちの良いところを見つけてくる。
「ひっ……、あっ……あぁ、あっ……」
指が増やされ、受け入れる準備が整っていく。
うつ伏せにさせた健太郎の足を開かせ、鍋倉が入ってきた。
いつもより、ゆっくりと入れてくる。
もどかしい……はやく……はやく。
浅いところで、律動を繰り返し、わざと気持ちの良いところを外してくる。
たまらず、自分のものを扱こうとしたら、手を抑えられてしまった。
「へ? ちょっ、はな、離せ」
そのまま両手を背中の後ろにつなぎ留められ、今度は深く揺さぶられた。
「はぁ、あぁっ、あっ、うっ……」
大きな揺さぶりに、健太郎の雄がシーツと擦れて、だらだらと透明の液を滴らせていた。
「も、もう、で、でるっ」
達してしまいそうになる瞬間、鍋倉の雄が抜かれて、健太郎は喪失感でうろたえた。
「な、なんで……」
健太郎の肩甲骨を指でつたい、首筋と背中に、沢山のキスを降らせた。
気持ち良さに腰が捩れるが、後ろの
こんな快楽を求める自分が恥ずかしくなった。
鍋倉は、さっきから言葉を発さない。ただ、健太郎を見つめ快楽へいざなってくれる。
今度は、仰向けに変えられた。
健太郎の雄が先走りで、腹を濡らしている。
腰を持ち上げ、漲ったものが入ってくる。
鍋倉の顔が、快楽で歪む、苦しそうな、切なそうな瞳が愛おしい。
今度は、ゆっくりじゃなく、激しく、奥まで突き入れてきた。
「あっ、はぁ……っ」
――きもちい。
頭が真っ白になる。快楽で肌が粟立つ。
何度も、激しく
内壁がうごめいて、鍋倉を強く締め付けている。
「はぁ、あっ、雅樹、雅樹……っ」
「……っ」
鍋倉は、健太郎の首筋に顔を埋めながら、低く呻いてのしかかってきた。
お互いの息遣いが響く。
体は、だるいのに眠くならない。
手を絡ませたり、見つめ合ったりしてシーツに包まった。
キスを繰り返し、力が漲ると、また体を重ねる。
首筋、腕、足にお互いのキスマークを付ける。
若い者がするような行為に、恥じらいながら、笑い合った。
窓の外が白じんできた頃に、眠くなってきたが、眠りたくなかった。
それは、鍋倉もお同じ気持ちだったようで、ずっと、キスをし続けた。
「好きだ」
この言葉だけを言い合って、この瞬間を閉じ込めてしまいたかった。
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