同窓会
同窓会当日。
日中の日差しを避けるようにしていた人達が、日が落ちて過ごしやすくなった夜の街へと繰り出し、活気にあふれている。
健太郎は、いつも以上のお洒落をして出向いた。
元々、外見には自信がある。男にも女にもモテる。
こちらが気を向くのは、男だけど……。
「佐々木」
声をかけてきたのは、鍋倉が来るかもと教えてくれた友達だ。
阪本智幸。昔から顔が広くて、友達の数も多い。
「さかちゃん、久しぶり」
阪本の隣には、加藤俊一がいた。この二人は、高校時代、いつも一緒につるんでた友達だ。
仲はすごく良いが、俺のセクシャリティまでは知らない。
会って早々に、阪本が左手を見せて言う。
「俺、結婚しました。ご祝儀ちょうだい」
「うわっ、マジか……おめでとう」
家業を継いでいる阪本は、ようやく嫁がきたことで、親がやっと静かになったと話していた。
そんな年相応の話に盛り上がっていたが、辺りを見回しても鍋倉がいない。
「阪本、鍋倉は?」
その問いにすかさず加藤が答える。
どうやら鍋倉とか連絡とっていたのは、加藤らしい。
「出張帰りで寄るから、少し遅れるみたいよ」
高校時代は鍋倉とは別のグループで、そこまで親しくもなかったようだが、大学が同じだったということで、そこから加藤と鍋倉は連絡とっているようだった。
「鍋倉君、すごいよね。ロボット作ってるんでしょ」
隣にいた女性が目を輝かせて話す。
彼女は、鍋倉が記事に載っていた雑誌を鞄から出した。
「来たら、いろいろ話し聞こうとおもってさ。独身かしら……」
と、意気込んでいる。
そこへ加藤が、その雑誌を受け取りパラパラめくりながら話す。
「そういや鍋倉って結婚してたよな……」
「……」
――マジか。
じゃ、あの告白って、俺の夢? 勘違い? だったのかも。
女性の口から、いやだーと言う悲鳴が上がる。
なんとなく、気合い入れてきた自分を恥じていた。
そんな中、噂の男が現れた。
スーツケースを転がしながら、「遅くなってごめん」と告げる姿が雑誌のそれよりも格好良く、見惚れてしまう。
すかさず、さっきの女性が、隣へ呼び込んだ。
女性を挟むようにして座る。
隣に座りたかった……。
少し顔を傾けて、にこりと笑う鍋倉の視線に頬が染まる。
「お、おう久しぶり」
声を掛けたのに、隣の女性に「ビールでいい?」と邪魔された。
――流石だぜ、独身女。
という俺も独身男だが……。
三十五歳、だいたいの人は結婚している。子供だっている。独身だとしても、ちゃんと働いていて、社会的に認められている。
皆んな、どこかで誰かに必要とされている……。
――俺は?。
書いているものに対しての励ましはない。昔は、書いているものを見てくれる人がいるだけで幸せだったし、モチベーションにも繋がっていたのに……。
いつからか、自分の評価が気になって、大したものを書けていない。
ボケっとしながら酒を煽っていると、隣の女性が席を外した。
鍋倉が健太郎の横へずれる。男前の顔が近くに寄った。
「佐々木、久しぶり……会いたかった」
「……っ」
ポカンとして見つめる視線の先には、愛嬌のある垂れ目が更に垂れて、優しい目をしている鍋倉がいる。
「小説書いてるんだろう。すごいな」
優しく問われ、ドキドキする。
その先を何か言おうとする鍋倉の横にクラスメイトの女性がスッと寄ってきて、話しを持っていかれる。
「鍋倉君、結婚してるんでしょ? 奥さんどんな人? やっぱり社内恋愛?」
少し困ったような顔に見えるのは、垂れ目だからか。優しい瞳は、矢継ぎ早の質問に対して真摯に答えてる。
――三年前に社内恋愛の末、結婚。
その先は、あまり聞きたくなくて、佐々木はトイレに行くふりをして席を立った。
別の席で友達に捕まり、そこで、しこたま飲んだ。
酒は強い方で、あまり顔に出ない為か、強い酒を勧められるままに飲んだ。
結果……とても酔っぱらった。
トイレに向かったはいいが、回ってしまって、立ち上がれなくなってしまった。
阪本に電話すると、心配そうな鍋倉が迎えに来てくれた。
「あ、おい、幸せな奴め、俺のことを忘れて勝手に結婚しやがって……」
こんなことを言うはずじゃなかったのに……。
鍋倉に支えられて立ち上がる無様な姿が鏡にうつる。情けない気持ちから、涙が溢れそうになるのを、鼻を鳴らして誤魔化す。
「なんで、こんなに飲んだんだ」
間近にある鍋倉の顔は、少しお怒っているようだった。その顔が余計に健太郎の腹に燻っていたイライラを助長させた。
「うるさい! 俺が……どんだけ……飲もうが勝手だろ。お前は……帰れ。鍋倉は……愛しい……嫁の元に帰りなさい」
呂律が回ってない口調で、支えてもらっている手を振り解こうとするが、鍋倉は、健太郎の両手をしっかりと掴んで離さない。
それに驚いた健太郎が抗議をしようとした瞬間、鍋倉が唇を寄せて健太郎の抗議の口を塞いだ。
「……っ」
口が離れて、鍋倉の困ったような顔付きのまま「帰ろう」と言われて、大人しくなった健太郎を支えて歩き出した。
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