境界線上・線
パートナーが欲しかった。
一緒に生きる誰かを探していた。何処かに誰かが居ないかを探していた。
屋上に通じる扉を開けて、太陽の眩しさに右目を細める。こんな時左眼は役に立つ。眩しくないから。太陽すらも丸い線でしかない。
こんな世界で一緒に生きてくれる人は、彼しかいないと思った。私以外に左眼の世界で色を持つ人。嘘を愛している人。
夕日に照らされて、私の影が長く伸びる。本当と嘘。光と影。本当が見える私はより多くの嘘を抱えて生きている。本当だけでは生きていけない。嘘が無ければ生きることはできない。
私が生きている場所が、嘘にまみれた場所だから。嘘だらけの場所で生きるには、同じだけの嘘が必要だった。
彼は違う。嘘だらけの中で本当を求めた。自分が嘘だらけだから、本当を追い求めた。嘘だらけの世界から抜け出すためには、彼の力が必要だ。嘘の中の本当を知る彼が。
彼は言い換えれば太陽だ。自ら光っている太陽。私はその光を反射する月でしかない。
本当を知る彼が居れば、嘘の影から抜け出せる。そんな気がした。
影から光を見出す彼、光から影を見出す私。
私に足りないものを持っている人。私より苦労している人。本当と嘘の境を知る人。
曖昧な境界線上を彼なら、一緒に歩んでくれるはず。
この世界はつまらない。誰もが誰かになれる世界だから。誰かの理想になることができる。理想の姿、理想の声、理想の心。全てが変えられるから。容姿も声も心も。変えられないものはない。特別なんて存在しない。ありふれたなにかでしかない。ありふれた、何にでもなれる世界は。何にでもなれるがゆえに、つまらない。
変えられないからこそ足掻くんだ。理不尽だから立ち上がるんだ。制限があるから考えるんだ。
自由なことは必ずしもいいことではない。嘘しかない世界に未来はない。本当しかない世界に未来はない。本当も嘘も、どちらもあってあいまいだから人は生き続ける。真実を追い求めて。
本当と嘘に境はなく、名称の違う曖昧は事実でしかない。嘘に埋もれた真実を。本当に隠された真実を。曖昧な事実に嘘と本当の目印をつけて。人はそれぞれの真実にたどり着く。
その真実は、見る角度が違うだけかもしれない。真実に至る道が違うのかもしれない。でも一つの真実に変わりはないから。
彼なら、真実にたどり着ける。私なら一緒にたどり着ける。
どれだけの嘘で隠されても、私の左目は彼を必ず見つけ出す。
屋上へと至る扉が開く音がする。扉の向こうから現れた彼は、太陽に照らされて眩しかった。
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