第5話

 小三次は、森の奥深くにある、古びたほこらまでやってきた。ここはかつて山の神を祀る場所であったが、この頃にはすっかり忘れ去られていた。人々は信仰を失い、彼らの信じる神は現世の神、つまり大判と小判の他になくなっていた。なんと生々しい話だろう。

 近くにちょうどよい大きさの岩があったので、小三次はそこに腰掛けて一息ついた。木々の間から、青い月影と、それにかき消されかけている小さな星星の光が漏れ、足下の湿っぽい黒土を照らしている。


ーお頭もさすがにこんな遠くまでは追ってこないだろうし、今日はここで休もう...昨夜見たうわばみだって幻に違いないんだ...

 

 そう自分に言い聞かせても、心の奥底にある不安はなかなか消えようとしない。小三次には、必ずお頭が追いかけてくるという確信があった。それに、きっと自分は捕まってしまうだろうという絶望も。


ーだけど、もう、動けないんだ...


 ヒルに噛まれ、ヤブ蚊にくわれ、食事も摂れず、血の足りなくなった体には、これ以上山中の道なき道をかき分けて進んでいく体力も気力も残っていなかった。もう、いっそお頭に捕まり、殺されてしまっても構わない。あの男も、俺に斬られて重傷なのだ。今更こちらに逆襲したところですぐに力尽きて死ぬだけで、何の意味もない。根城にある山のような金銀財宝だって全て奪った。復讐は、完全になされている。もう、思い残すことは何もない。俺たちは、勝ったのだ...

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