第5話
小三次は、森の奥深くにある、古びたほこらまでやってきた。ここはかつて山の神を祀る場所であったが、この頃にはすっかり忘れ去られていた。人々は信仰を失い、彼らの信じる神は現世の神、つまり大判と小判の他になくなっていた。なんと生々しい話だろう。
近くにちょうどよい大きさの岩があったので、小三次はそこに腰掛けて一息ついた。木々の間から、青い月影と、それにかき消されかけている小さな星星の光が漏れ、足下の湿っぽい黒土を照らしている。
ーお頭もさすがにこんな遠くまでは追ってこないだろうし、今日はここで休もう...昨夜見たうわばみだって幻に違いないんだ...
そう自分に言い聞かせても、心の奥底にある不安はなかなか消えようとしない。小三次には、必ずお頭が追いかけてくるという確信があった。それに、きっと自分は捕まってしまうだろうという絶望も。
ーだけど、もう、動けないんだ...
ヒルに噛まれ、ヤブ蚊にくわれ、食事も摂れず、血の足りなくなった体には、これ以上山中の道なき道をかき分けて進んでいく体力も気力も残っていなかった。もう、いっそお頭に捕まり、殺されてしまっても構わない。あの男も、俺に斬られて重傷なのだ。今更こちらに逆襲したところですぐに力尽きて死ぬだけで、何の意味もない。根城にある山のような金銀財宝だって全て奪った。復讐は、完全になされている。もう、思い残すことは何もない。俺たちは、勝ったのだ...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます