059:八不思議談話003
文芸部にその著書(と呼んでいいのか)が伝わる『
その話は以下の通りだ。
『釘目様は文を書く、その文を読むと失明する、文を捨てると釘目様が祟ると伝わる。
手紙を書く事もあり、また黒板に何かを書き残す事もあるとされる。
ある日、机の中から便箋を見つけた人間が手紙だと思ってそれを読むと意味が分からない文章であり、近い内に失明した。
ルームメイトがその便箋を捨てた。彼女は一週間後、旧校舎の焼却炉の中で目に釘を打たれ、全身を焼かれた状態で見つかった』
……私は文芸部にだけ伝わっている物かと思ったけれど、外でもそういう話はあるらしい。
「これについては
「……『学園の本棚』に白紙の本が紛れ込んでて、そこに書いてある物を読むと同じ目に遭うとも聞いた」
私は役に立つか分からないけれど、知っている情報を話しながら書き込んだ。
「薊間さんの話も、本っていう媒体か、手紙っていう媒体かが違うだけで、中身としては一緒。読んだ人は失明する。処分しようとすると亡くなる……文芸部の活動記録に詳細な死因は書かれてなかったけど……」
実際に薊間さんから聞くと、文芸部の過去の部長も同じ目に遭ったのかと思ってしまう。
「これは聞いた事ないな……薊間さん、釘目様の姿については伝わってる?」
「姿については伝わっていないな。推測程度に『目に釘を打たれた姿ではないか』と付記されている程度だ」
薊間さんの答えを聞くと、菫川さんは考える表情になった。
「……『目』っていう呼び名、『釘』っていう言葉から『
「鎖り目様? 何それ」
「
「
「うん」
菫川さんの話は以下。
『猿黄沢では朝、家の戸を叩かれて出ても誰もいなかった日の夜は、決して出歩いてはならないとされる。
もしもその日、夜に出歩くと『鎖り目様』に追いかけられる。
鎖り目様に捕まると
鎖り目様は釘が苦手なので、もしも用がある時は釘を持って出歩く。
鎖り目様に追われた時は釘を投げつけると追ってこない。
平成の世に行方不明者を出している。それ以前にも複数回同じ事が起こった。
釘を投げて生還した人間の話によると、目を縫われた女性が見えた、目のないヘビの姿だった、などと伝わる』
……確かに、言葉の共通点はあるけど、話としては別物だ。
「でも、これは猿黄沢の話として分けるべきだよ」
「なんでよ」
「私が小学校三年生の頃、私の家に鎖り目様がきて、学校いく時お母さんに念の為って釘を渡されたから」
……菫川さん、桜来入る前からとんでもない目に遭ってるな……。
「その話を考慮に入れた上で、釘目様は『有力候補』とする」
私は委員長の言葉通り、鎖り目様に関係があるかも? という注記と共に釘目様の欄に『有力候補』と書いた。
「黒絵、『
「分かった」
委員長の言葉に合わせて、薊間さんは次の話を始めた。
塗影様については、以下の通り。
『じっとこちらを見ている巨大な女性。彼女の影を踏むと四方手の神様の所に連れていかれるとされる。
ある日、二人の生徒が歩いていると大きな影を見た。片方は気づいて踏みとどまったが、もう一人は塗影様の影を踏んだ。
塗影様は何もせず、去っていった。その日の内に影を踏んだ彼女は行方不明となった。無事に済んだ少女はその事を周りに話した。
しばらくしてから、その生徒が半狂乱になって発見された。彼女のいた所の壁から腕が伸びており、そこを崩すと行方不明になっていた少女の亡骸が発見された。
第一発見者となった少女は正気を失って退学した。死亡した少女の首は発見されなかった』
……釘目様もだけど、これも大分猟奇的な話だった。
「また美術部には『塗影様が固めた絵』として『黒い絵画』が伝わっているとも言う。
美術部と言えば、私の隣の席の榊木さんが所属している。薊間さんは調査もしていたらしい。
「塗影様……これは聞いた事がないかな。壁に埋め込まれるっていう話についても、『影を踏む』っていう所もいまいち心当たりがない」
菫川さんは自分の知識と照合するように答えた。
「美術部に、って所がちょっと気になるよね。旧校舎って入れたよね?」
琴宝が自分の席から、声をかける。
「確かにそこは考慮に入れるべきだな……慶の話によるとこれは『有力候補』だが、実地調査として旧校舎美術部部室の調査を行なってみる必要があるか……」
白菊委員長は何か考えるように真剣な顔で俯いた。
怪異が塗り固めた黒い絵……私は旧校舎美術部部室の話を付記した。
「美青、『有力候補、旧校舎美術部部室調査必要あり』と記入してくれ」
「分かった」
八つの不思議も、六つまで検証できた。
今の所、保留になったのは『
残り二つの不思議である『
「続いて、隠りさんの話に移る」
白菊委員長の言葉を、私はノートに記入した。
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