060:八不思議談話004
七不思議の候補として挙がっているものの検証の内、残り二つの片方『
『呼び出すと願い事を叶えてくれる代わりに神隠しを起こす存在。
自分の身代わりになる物、お供え物となる食べ物、お願いを書いた紙、自分以外の誰かの髪の毛を用意する。
隠りさんを呼び出す時は自分の朝、下駄箱に上の物を入れて、校舎を出るまで人に見られないようにしておく。
帰りに入れた物がなくなっていたならば成功。願い事が叶い、髪の毛の持ち主が神隠しに遭う。
髪の毛を入れられた人間は翌日にはいなくなっていた。彼女は喜んでいたが、彼女も翌日に行方不明となる。
翌日、
神隠しに遭った人間は一ヶ月後、猿黄沢の山の中で発見された。生き埋めにされ、窒息死したと見られる。
別の例で『思い人と結ばれたい』と書いた者はその思い人と共に半々に裂かれ、無理矢理縫い合わされたのが片方ずつ見つかった。
この時の『生贄』は別の山でやはり、埋められて窒息死した状態で見つかった』
……私は小説の『猿の手』を思い出した。願い事は最悪の形で叶う。それに近い。
「このおまじないは学校的だよね。下駄箱を使うっていう所がそれっぽい」
「……生贄は道連れを呼ぶ……」
「何か知っているのかな、
「猿黄沢の中だけかも知れないけれど、
何か、恐ろしい話が始まりそうな雰囲気があった。
「生贄を出すと四方手の神様は生贄を捧げた人も『連れていっていい』と思って連れていく。隠りさんで言えば、願い事した人間を四方手の神様が『連れてっていい』って考える」
つまり、生贄を選んだ本人も四方手の神様に狙われるという事らしい。
「だから、数え歌の時みたいに、四方手の神様に何かをお供えする時は人型を作って捧げるし、そこに四方手の神様の好物だって伝わる餡子餅を捧げる。少なくとも、猿黄沢生まれの人間は『隠りさん』を思いつかない」
白菊委員長が、私を見る。
「今の菫川さんの話は一通り書いたよ」
「ありがとう。隠りさんについては琴宝の言う通り、学校的な物である事から『有力候補』とする」
「分かった」
私は隠りさんの所に『有力候補』として『参考:生贄は道連れを呼ぶ』と書いた。
これで、六つの『有力候補』が立った。
残る一つ――
「緋針傘について、
「うむ」
委員長に促されて、薊間さんは語り出した。以下の通りだ。
『校舎の傘置き場に伝わる。
小さな傘が置いてある。その傘は緋色をしている。その傘を間違えて取ってはならない。緋針傘の傘だから。
もしも緋針傘の傘を取ってしまった場合、お詫びとして縫い針に自分の髪の毛を通して自分の部屋の前に置いておく。針がなくなっていれば無事に済む。
昔、緋針傘を取って、おまじないをしなかった生徒がいた。
彼女は傘を元の所に返したが、次に雨が降った日、帰り道で倒れているのが発見された。
その眉間には緋色の針が刺さっていた。
彼女は発見された時点で『小さな女の子に針を刺された』と呻いていた。すぐに病院に運ばれた。
治療の際、体に痛みを訴えた為、入院となった。翌日に死亡。解剖の結果、内臓から無数の針が発見された』
よくこんな猟奇的な話が幾つも伝わっているな……私は
「傘置き場、って所が肝だよねこれ。校則で傘の色を『白、黒、透明』に指定してるのも怪しい」
琴宝が指摘する。実際、ブラック校則っぽい校則が存在するけれど、緋針傘の対策なら分かる。
「一つ気になる事があるけど……この話自体は知らないかな」
少し自信なさそうに、菫川さんは知らないと言った。
「気になる事とは?」
薊間さんが尋ねる。
「猿黄沢に伝わる言い伝え。『針を絶やすな』っていう教訓があるの。どういう意味か知らないけれど、どの家でも縫い針を決して絶やしてはいけないっていう話」
針を絶やすな、その言葉は――。
「緋針傘の対策である可能性があるな」
委員長の言う通りだ。
「
「分かった」
少し怪しいという所。私は委員長の言う通りに書いた。
「緋針傘が『本物』とした場合、七不思議の候補は七つにそろったよねこれ」
琴宝の言う通り『トナツガさん』『
「寧ろ、幾つか確定させねば混乱する所もあるな」
「黒絵の言う事も分かる。『学校内でしか起こりえないもの』という条件で『トナツガさん』『隠りさん』については『確定』と扱う」
私はその二つに確定と書いた。
「もう少し色々調べれば確定が増えると思う……私以外の地元の人にも聞く必要はあるし」
菫川さんが言う。
「確かに、慶が知らないと言っても伝承が絶えているだけという可能性はある。慶、この手の事に詳しい人物について、心当たりは?」
白菊委員長の言葉に、菫川さんは少し考えた。
「……四方手神社の神主さんなら『分かる』のかも知れないけれど、話して貰えるかは別。桜来の事になるとあんまり話さない感じがするし」
真っ先に思いつく当ては外れた。
「
初めて聞く名前だった。
「誰?」
琴宝が尋ねる。
「今、猿黄沢にいるお年を召した方でも取り分け長生きで元気なおばあちゃん。私もお世話になった事がある。私が知らない事でも知ってるかも知れない」
「アポは取れるかな?」
「大丈夫だと思う。明日、連絡してみる」
「ならば頼む。しかし、平日にそこまでの時間はない。夏休みに入ってからの約束にしてくれ」
「分かった」
菫川さんはスマホに何か書き込んだ。もう、夏休みはすぐそこだ。
「今後の活動について」
そして、白菊委員長は二本の指を立てる。
「一つ、郷土史研究会に残る資料の内、信憑性が薄い物も含めて過去に『七不思議』とされた物を採録する。これは桑垣さんに見せる為だ」
私はそれを書き留める。
「二つ、旧校舎美術部部室に向かい『塗影様』の話について確かめる。これは終業式の後に行なう。全員、その時には
委員長の言葉に、全員が頷いた。
「もう時間もないから、今日はこれで活動を終える。明日以降、時間のある時に黒絵に声をかけて各自、七不思議候補を片端から採録」
その活動計画も、私は書き込んだ。
「……信憑性が薄い物も考えるの?」
菫川さんが不思議そうに目を瞬かせた。
「何か妙な手ごたえがある」
白菊委員長は真面目な顔で答えた。
「過去に郷土史研究会が確定させられなかった七つが、慶という地元の協力者を得ただけで仮とは言え確定しかかっている。上手くいっている時ほど、注意がいる」
確かに、簡単に確定し過ぎるという所はある。
「その為、桑垣さんに見て貰う為の資料は多く集める」
委員長の言葉はそのまま書き記した。
「各自部活もあるだろうから、可能な限りでいい。黒絵は少し負担が増えるが」
「そもそも郷土史研究会としては垂涎の話題だ。気にするな」
「ありがたい。では、今日の
委員長の一言で、私達は解散する事になった。
活動計画その一
郷土史研究会に残る『七不思議に数えられる話』を可能な限り収集する(桑垣さんに見せる為)。
活動計画その二
終業式の後、旧校舎美術部部室を調べる。墨穂のお守りを忘れずに。
……何事もなく、夏休みを迎えられるといいけど。
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