057:八不思議談話001

 桜来おうらい校内にある不思議な事から猿黄沢さるきざわに伝わる『四方手よもての神様』に迫り、学内の安全を確保する為の有志会、墨盟団ぼくめいだんが組織されて、すぐの事だった。


 平日の放課後、墨盟団のグループに菫川すみれかわけいさんが『改めて七不思議候補八つの詳細を聞きたい』と送ってきた。


 すぐに白菊しらぎく覇子はるこ委員長が『美青みお琴宝ことほの部屋を使わせて貰っても?』と尋ねてくる。私も琴宝もOKした。


 菫川さん、白菊委員長、もう一人の薊間あざま黒絵くろえさんのルームメイトは墨盟団に入っていない。自然、私と琴宝の部屋になる。


 その日の夜、夕食を済ませると、部屋に三人がきた。


 私は自分の机で、墨盟団の記録ノートを広げた。


 長い黒髪に紫色の瞳が印象的な美人、菫川慶さんが、短い黒髪に中性的な容姿を持つ薊間黒絵さんを見た。


「ファイルは見たけど……もう少し詳しく、八つの不思議について聞きたい」


 今現在、墨盟団の活動は『桜来で起きた『七』に因む出来事の調査』と『七不思議を確定させる事』だ。


 猿黄沢出身の菫川さんが知っているのならば、それは猿黄沢に伝わる話。知らないならば、桜来独自の話だ。


「ふむ……いいか? 白菊」


 薊間さんは銀髪をセミロングにして、青い瞳を持つ白菊委員長に尋ねた。


「そうだね。確認という意味でも、必要だろう」


 委員長はすぐに決定する。


「ならば、まずトナツガさんについて伝わっている事を話す」


 薊間さんの話は、長いので概略を記す。


『トナツガさんはどこでもいいのでクラスに入りたいと思っているが、入れたクラスは不幸に見舞われる。


 入られたクラスは『十七番目のクラスメイト』を迎え入れた事になる。その為『十=ト』『七=ナ』『番=ツガ』の合わせで『トナツガさん』と呼ばれる。


 過去に迎え入れたクラスがあるが、夏休み中に各々帰省したそのクラスの人間は合計十四名が事故死し、クラスが一つ消滅している。


 残った二人に関しても近い内に精神を病んで入院し退学となっている』


 薊間さんが語ったのはそのような話だった。


「これ、学校でしか起きない系の怪談だよね。『クラスに入りたがる』って」


 黙って聞いていた琴宝が、黒曜石の瞳に疑問符を浮かべて尋ねる。


「そう……だね。クラスを家に置き換えても類似の伝承は猿黄沢にない。これに関しては確かに、七不思議として扱っていいと思う」


「美青、トナツガさんの欄に『有力候補』と表記を」


「分かった」


 クラス一つが消滅した……桜来の歴史に詳しい人なら知っている事なんだろうか。


「そのクラス消滅事件が平成初期……まだ覚えている人間は学内にいるかも知れんな」


 薊間さんは注釈を入れてきた。私はそれもノートに書き込む。


「じゃあ『涅夜くりや様』はどうなの黒絵。あれはちょっと外でもありそうだけど」


 琴宝が、自分の所属している映研と縁が深い『涅夜様』に言及する。


「そうだな」


 薊間さんが語った所は、以下。


『涅夜様に干し柿を貰った者がそれを食べた所、とても美味しかったと言い残している。


 翌朝、彼女は染井寮そめいりょうから姿を消しており、捜索が行われた。しかし見つからなかった。


 しばらく過ぎた頃、ルームメイトが『積石場つみしばにいるよ』という彼女を夢で見て、先生に聞いて積石場を探して貰うが見つからなかった。


 警察がきて掘り返すと、一つの積石つみし(墓)の下から虫に食われた彼女の死骸が見つかった』


 ……このような話だった。


「ねえ、積石場って?」


 私は疑問に思って尋ねた。


「猿黄沢に伝わる墓地の一つ。罪人や無縁仏がそこに弔われた」


 すぐに、菫川さんが教えてくれるので、私はそれも書く。


「これは一種『黄泉戸喫よもつへぐい』を想起させるな。あの世の物を食べた物は現世に帰ってこれない……一説には厨房を意味する『くりや』で『くりやさま』とも伝わる」


 薊間さんの注記をメモする。


「肝が冷えるね、琴宝」


「イ゛ー゛ッ゛」


 実際に涅夜様に遭遇した委員長が、呼び寄せた琴宝に言うけど、琴宝は歯を剥き出しにして唸っただけだった。


「食べ物をくれる存在……これもちょっと、聞いた事がない。そんな危険な存在がその辺にいるなら、絶対に小学校の内に教えられるし」


 菫川さんは知らないようだ。どれだけ危険な所なんだろう、猿黄沢は。


「涅夜様については映研での伝わり方も気になるが……どうかな? 琴宝」


「映研創立時……二十一世紀に入るかどうかくらいの頃に犠牲者が出たって聞いた」


 どうして琴宝はそんなヤバい物の演技を研究する気になったんだろう……。


「映研での伝わり方は問題だが……探れなくはないな。美青、涅夜様も『有力候補』としてくれ」


「分かった」


 私は涅夜様の欄にも『有力候補』と記入した。


「この二つに関しては恐らく間違いないね。しかし……」


 白菊委員長は口元を手で覆って、何か真剣に考える顔になった。


「涅夜様が『四方手の神様』に関係するとなると、四方手の神様の『正体』が気になるな」


「え? どういう事?」


 白菊委員長は珍しく言いづらそうに、菫川さんは気まずそうにしている。薊間さんは立ち上がって私の机の所にきた。


「ペンを貸せ」


「う、うん」


 薊間さんは私の手からペンを受け取ると、涅夜様の欄に『黄泉戸喫を押しつけてくる事から『四方手の神様』は『黄泉津神』の転訛ではないか?』と書いた。


 だとしたら――とんでもない物を相手にしているんじゃないか?


「話を続けようか」


 私の不安は、白菊委員長の言葉に流された。


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