056:墨盟団結成記004

 全員がノートの一ページ目に署名すると、白菊しらぎく委員長はそれを私に返した。


美青みお、引き続き記録を頼む」


「分かった」


 私は書いていたページに戻り、委員長にOKの視線を送った。


「続いて、当面の活動方針について、黒絵くろえから提案がある。黒絵」


 私は書くモードになって、委員長の言葉を記録し、薊間あざまさんの方を見た。


「七不思議とされている物を確定させる事が学園にいて安全を確保する手段の一つだ」


 さっきから話題に上がっている『桜来おうらい七不思議』……候補は複数あるらしい。


四方手よもての神様に連なる話の中でも取り分け大きなものならば、それを複数考える事で帰納法的に『四方手の神様』に迫る事ができる可能性がある」


 私は薊間さんの言葉を書きとめる。


「まず、既に体験した『トナツガさん』『四方手の数え歌』……数え歌について、椿谷つばきたに、『歌童うたわらし』とも併記してくれ。聞くとまずい童謡を歌う童と伝わる」


「分かった」


 薊間さんは一年三組全員が体験した『四方手の数え歌』についての付随情報をくれた。


「そして萩中はぎなかが狙われた『オカザメ』と寮生の中で未だに話題になっている『涅夜くりや様』の四つ。これは七不思議として信憑性が高い物として扱う」


 私が薊間さんの言葉を書きとめて、ふと視線を上げると、菫川すみれかわさんが腑に落ちないという顔をしていた。


 それとは別だろうけれど、私にも疑問がある。


「あの……薊間さん、一ついい?」


「どうした?」


「これ……文芸部にだけ伝わってるのかも知れないけれど、相当に危険な『不思議』を部長から聞いてる」


「どんな物だ?」


「待って。確か部長の話と、文芸部にあった物、その記録を纏めたのが……あった。共有するね」


 私は以前、『開けない本』として提出した不思議記録のデータがスマホにあったので、その場の五人でグループを作って共有した。


 少し、みんなが目を通す時間が生まれる。


 文芸部に表紙から裏表紙まで縫い付けられて開けない『詩篇』という本がある。その中にある『野辺の送り』という詩を読んだ部員が四名、失明した。


 禁書となった『詩篇』を縫い付けた人は怪死し、本を処分すると言った当時の部長は行方不明になり、『詩編』だけが発見された。その後、当時の部長も……詳細は伏せられていたが、死亡した状態で見つかっている。


 そんな本が、今も文芸部の部室には封印されているという内容だ。


「部活内の事になるとあまり手は回らない所もあるだろうが……黒絵、聞いた事は?」


 白菊委員長が薊間さんに尋ねる。


「……恐らく同じものが別々の呼称で伝わったと考えられるが、『末忌子まきこ様』と『釘目くぎめ様』という類似した話が伝わっている」


 薊間さんは私の所にきて、『末忌子様』『釘目様』という言葉を書いた。


「いずれも『文を書く。それを呼んだ者は失明する。文を処分しようとすると殺される』……概要だけ話すならばそうなり、椿谷の記録とも合致する。これも恐らく『本物』だろうな」


 身近にとんでもないものがいた事になるな……でも。


「それなら、この調査は私がやる。文芸部にはまだその本が残ってるし、部長も私になら話して――」


「待って」


 私の言葉は、菫川さんに遮られた。


「幾らなんでも一人でその……末忌子様? 釘目様? を調べるのは危険過ぎる。行動を急ぐ前に話し合おう。ちょっと、さっきからの話を聞いて疑問に思った事があるの」


 菫川さんは鋭い視線で私を見ている。


 何か、重要な事が抜けている? そんな気がした。


「どういう事? けい


 琴宝ことほが尋ねる。


「まず……『猿黄沢さるきざわ全体に伝わる伝承』と『桜来にだけ伝わっている不思議』を混同してないか、っていう事」


 菫川さんは薊間さんの方を見た。


「少なくとも、その末忌子様、釘目様の話を私は猿黄沢の誰からも聞いた事がない。でも椿谷さんは実際の記録として見てる。ならそれは猿黄沢の人間が対策を知らない『桜来だけの物』……安易に探れる物じゃない」


 菫川さんの言う事は、纏められる。


 猿黄沢には様々な怪異や伝承が伝わっている。私もそれは記録してきた。中には学校の外で遭遇したとんでもないものもいる。


 でも、桜来で語られる『七不思議』は、猿黄沢という地域の中でも『桜来だけに伝わる物』じゃないか?


 だから、遠くから桜来を受けて、部活で知識を得た薊間さんが知っていて、地元から桜来に入って別の部活にいる菫川さんが知らない事がある。その逆もある。


「なら、黒絵の知ってる『七不思議候補』の中で慶の知識にない物を数えれば、候補は更に絞れるっていう事になるのかな」


 簡単に纏めると、琴宝が言ってる通りになる。


「薊間さん、データはある?」


「頼む」


 二人の行動は早かった。


 スマホを取り出して墨盟団ぼくめいだんのグループに薊間さんがファイルを上げる。それに全員が目を通す。菫川さんは素早くいじった。


「……ダメ。信憑性が低いって言われる十三個目から数えても、七つに絞れない」


 菫川さんから、別のファイルが送られる。


「私が知らない……猿黄沢に伝わってない物は『八つ』。これを、どうするか」


 私達は、自然、白菊委員長の顔を見た。


 委員長が言う通り、共通点の少ない私達を纏められるのは、白菊委員長だけだろう。


「何か違和感を感じる。黒絵、郷土史研究会は『七』という数字にこだわっていたね?」


「そうだな」


「その『七』という数字……そこが気になる」


 委員長は人差し指を立てた。


「恐らく、七不思議の由来となった『七』という数字に因む『何か』がある。美青、記録を頼む」


「はい」


「一つ。口承、文献問わず、桜来の中で『四方手の神様』が絡む『七という数字が出てくる出来事』を探る」


 私は委員長の言葉をそのまま記録した。


「二つ。その情報を元に『桜来七不思議』を確定させる」


 その言葉も、記録する。


「この二つは常に注意しながら活動を進める。今の所、桜来に於ける問題の根源は『七不思議』から導き出される『四方手の神様の所業』だ。そこにいきつく為の情報を確定させなければいけない」


 委員長の提言で、活動方針その一は決定した。


「美青、今の所の候補についても記録してくれると助かる」


「分かった」


 私は活動方針と『桜来七不思議の候補』について、記述した。


 活動方針①

 桜来の中で『四方手の神様』に関係する『七に因む出来事』を口承・文献問わず調べる。


 活動方針②

 その情報を元に『七不思議』を確定させる(四方手の神様に迫る為)。


 七不思議候補(名称のみ)

 ①トナツガさん

 ②涅夜様

 ③歌童

 ④オカザメ

 ⑤釘目様(末忌子様)

 ⑥塗影様

 ⑦隠りさん

 ⑧緋針傘



 ……以上を以って、第一回のミーティングを終える。



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