32話 獣人魔族軍団長

 その街を訪れた時。僕らは驚いた。というか、惨状に唖然とした。


 人間の死体が、辺りにごろごろ転がっていて。街の至る所でオークやゴブリンやオーガ。それに、ワーウルフやワータイガーが我が物顔で歩き回っていたからだ。


「……こんなの……。どうなっちゃったんだ? この街……」


 僕が呟くと。セルファがいきなり魔法構えをして怒鳴った。


「テュト。襲ってくるよ! 茫然としている場合じゃない!」


 パンネさんも、無言で。杖を構えて僕らが負傷したら即座に回復する構えを取る。


「人間カ……。コノ街ハ、我ラ獣人魔族軍団ガ頂イタ。街ヲ占拠シタ以上。余計ナ戦闘ヲスル必要ハ我ラニハナイ。大人シク引キ返セ。ソウスレバ、手出シハセン。獣人ハ狩リヲ行ウカ歯向カッテクル相手ガイルカ。ソノドチラカデナケレバ無益ナ殺傷ハシナイモノダカラナ」


 僕らが、獣人たちの包囲網に囲まれたとき。一人の獣人が前に進み出てきて、そう言った。獅子の頭を持つ、ワーライオンだ。


「何を……! 言っている!! 人間をこんなに殺しておいて!! 自分たちが殺されないで済むとでも思っているのか!!」


 僕は激昂してそう怒鳴った。殺された人間は、本当に無差別に殺されたようで、武器を持っている死体もあれば、子供を抱いたまま子供もろとも殺された母親らしき死体、反抗するために石をぎゅっと強く握りしめたまま死んでいる少年の死体もあった。


「思ッテイルゾ。貴様ラハ、タカガ子供。良イ装備ヲ持ッテイルヨウダガ、ソレダケデハ我ラ獣人魔族ニハ勝テヌ。正シイカ間違ッテイルカデハナク、強イカ弱イカ。ソレガ獣ガ獣ヲ量ル唯一ノ尺度ダ。ソシテ、貴様ラ程度デハ我ラニハ勝テヌ」

「黙れっ!! ケダモノがっ!!」


 ワーライオンの言葉を聞いて怒りが頂点に達したのか。セルファが強烈な魔力集中を行い始めた。


「凍り付け! そして砕けろ! そして、消滅しろ!! 唸れ風水の凍結の竜巻!! 『氷結風巻陣アイシェンファーヴ』!!」


 怒り狂ったセルファは。その怒りの熱が反転したかのような強烈な冷気を放つ竜巻の魔法を、幾つも発生させて獣人たちの群れに叩き込む。


「……ホウ。貴様ハ強イナ。即死シタ部下ガ少ナクナイ。ダガ、私ニハ効カヌゾ?」


 セルファの氷の竜巻の中でも、平気な顔をしていたワーライオンは。余裕の笑みを浮かべて、柔軟運動をしている。


「デハ、サテ。活キノイイ餌ヲ喰ラワセテモラウカッ!!」


 そして、セルファに向かって飛び掛かってきた!!


「! 速いっ!!」


 セルファは目でしか反応できずに、防御態勢が取れないでいる。


「させるかぁっ!!」


 僕は、声を張り上げると。セルファとワーライオンの間に割り込み、ラージシールドのシールドプレスでワーライオンの爪を防ぎ。


「くらえっ!!」


 剣術道場で散々教えられ、ディアナさんにも巧いと言われた、シールド防御からの剣攻撃への連携をして、斬撃をワーライオンの胸の辺りに叩き込んだ。


「! 何ッ!! 鋼ノ剣デモトオラヌ、ワガ強靭ナ皮膚ヒフを切リ裂クトハ!! 貴様、ソノ剣ハ何ダ?!」


 自分の体から吹き出る血潮に驚いている、ワーライオン。


「テュト君、セルファ君!! 隊長が当惑しているわ。包囲網も、セルファ君のさっきの魔法でほとんど解けている! 今のうちに逃げましょう! あのワーライオンから感じられる精力や精気やオーラは。尋常なモノではないわ! 今の私たちでは、とても勝てない!!」


 パンネさんが、僕らに逃げようという。確かに、言っていることは正しい。一つの街を壊滅させるような獣人の部隊に、僕ら三人だけで立ち向かうには無理がある。


「くっそ!! 仕方ない! セルファ、逃げるよ!」

「……おい、ライオン頭!! 僕らが腕を上げて戻ってきたら。その頭を氷漬けにして、踏み砕いてやるからな!!」


 結構過激なことを言うセルファを引っ張って。


 僕らは一目散にその獣人部隊に滅ぼされた街を後にした。

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