28話 魔王の笛
僕らは、セルファ君に連れられて。テルアーブの王宮の王様のいる部屋に入ることを許された。
なんでも、セルファ君のお父さんが色々と都合をつけてくれたらしい。
「アクエスの息子。それに、ディアナ殿のいとし子。そして、教会を辞め神聖術を極めんとするシスターか。汝らが見聞を広め、己を鍛錬するために旅立ちたいという意は、アクエスより聞いておる。私としては、伸びようとする若い芽の生命力を殺す気は全くない。ただ、命は大切にするのだぞ」
国王テバスさまは、僕らの事をちゃんと見てくれて。優しい笑みに厳しさを含ませた、王者の表情でそう言ってくれた。
「世界に旅立つにあたって。わが小国の為せることと言えばこの程度だが……。ゴレアン、アレを持ってこい」
テバスさまが、部下に命じる。そしてしばらく経つと。
その王様の部下が、三人の従者を従えて戻ってきた。
従者たちの手には、剣、杖、そして、シスターコートが乗せられていた。
「私からの贈り物だ。ただ、純粋な好意からの物ではないぞ」
テバス王がニヤリと笑う。
「汝らが見事に成長し、この国に戻ってきてくれて。国を支える人材になること。それを期待して、私はこれを送る。受け取るかは汝らに任せる。ただ、受け取ったからには。決して死んではならんぞ」
高貴な人は、好意を表すにも手の込んだ表現をするというけど。この若めのおじさんくらいの歳の王様は、僕らに「死んではならない」ということが伝えたかったんだろう。
「有難く。お受け取りいたします」
スッと前に出たのはパンネさんだった。そして、純白のシスターコートを受け取って、後ろに下がり。深く王様に頭を下げる。
次に動いたのは、セルファ君。アイスブルーの氷晶石の使われているマジックロッドを受け取った。そして、やはり王様に頭を下げる。
次は僕。でも、ちょっとたじろいだ。なんといっても一頃は孤児だったのが引け目になってる自分を感じた。
「こら」
いきなり声が響いた。王様の玉座の左側に立っていたディアナさんが、僕を促したのだ。
「何を恥ずることがある? テュト。お前は、私という保護者を持っているではないか」
うん。そうだ。そうだった。僕は、ディアナさんの家族として、立派に振舞わなければならない。
「王様。有難く受け取らせていただきます」
僕はそう言って、従者の差し出した、名剣らしき剣を受け取って、後ろに下がって礼をする。
「ふむ。ふふふふ……。なかなか、いや、相当に。良い目をした子供や若者。十分に成長して帰ってきてくれるのならば、この程度の投資は惜しくない」
カッコよくそういう王様に、アクエスさまとディアナさんが吹き出した。
「き、貴様ら!! 何を笑っている!!」
急に焦った様子を見せる王様。どうしたんだろう?
「子供が好きなことを隠そうとしているのが見え見えですよ、陛下」
「国王殿。王族の婉曲な表現では、子供たちは理解しないぞ」
アクエスさんとディアナさんが交互に言う。
「……そうか。そうだな。私も素直になるとしよう。子供たち、それに、シスターのお嬢さん。決して死んではならないぞ。君たちのような、明るく前を見ている人間が少なくなれば、世の中は暗くなる。暗い世の中で王を気取っても虚しいだけだ。だからこそ私は、私の力の及ぶ範囲での善政を行いたいと思っている」
僕ら三人を代表して、パンネさんが答えを返す。まあ、一番の年長者だし。
「国王陛下のお心配り、有難く存じます。しかし、どうか心お安らかに。シスターとして私もついてまいります。即死したり、傷口が修復不可能なほどに放置されていなければ。聖神ニルダ様の恩恵を受ける私が、負傷を修復することができますので」
そういって、三人で玉座の間から下がろうとしたとき。
「テュト。これを持って行け。困ったときに吹くんだ。そうすれば、私がすぐに助けに行く。だが、基本的には使うな。まずは、自分たちの力で何とかするんだ。わかったな」
ディアナさんが僕の方に歩み寄ってきて、一本の笛を渡した。細長い銀製の笛で、黒漆と赤漆で装飾がされている。
「私という保護者が常についていては。君は強くなれん。これからは、自分たちで何とかするんだ。ただ、どうにもならないこともある。その時にそれを吹け。いいな?」
ディアナさんはそう言った後に、僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「強くなって来い。楽しみしているぞ」
そういうと、玉座の左後ろに戻って行って、立ったのだった。
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